広がらない“視野”を必然と考える組織開発
「視野を広げる」という掛け声は、どの組織でもよくきかれることではないでしょうか。でも、どうすれば視野は広がるのでしょうか、そして、なぜ、視野を広げることが必要なのでしょうか…。
視野とは、一点に視線を固定したままの状態で見ることのできる範囲と定義されます。例えるなら、蝋燭の火の光が照らす範囲ということになるでしょう。そうであるなら、蝋燭の火を高く掲げれば“視野”は広がります。ビジネスで言えば、ひとつの領域において昇進していくことが該当しそうです。一般社員の時には見えなかったものが、係長になることで見えてくることがあります。しかし、課長・部長と上り詰めるうちに、一般社員だったときに見えていたものが見えなくなってしまうことがあります。丁度、蝋燭の火を高く掲げると、遠くは見えるようになっても、足元が暗くなってしまうかのように…。
では、蝋燭の火力を増してみればどうでしょうか。強い光を獲得できれば、遠くも見渡せるし、足元が暗くなることもありません。高い専門力を身に付けた人が、関連する色々な分野の人から頼りにされている姿と重なります。しかし、専門力を高めれば高めるほど、人は足元ばかりをみるようになります。換言すれば、視点が固定されていくのです。これは、見えなかったものが霞懸かって見えるようになることよりも、足元がより明るくなっていくことの方が、その人にとっての成長実感、あるいは自己肯定感が高まるからでしょう。
いずれにしても、蝋燭の場所(視座)が変わらなければ、視点を広げていくことは難しそうです。そのためにビジネスでは、異動という形で視座の強制変更を行うのだと思います。ひとつのことを極めていくことがキャリア形成だと考えている人が多いように感じますが、それは職人の世界に限定されます。多くの場合、多様な視座を獲得することが、キャリア形成に繋がっていきます。営業一筋10年という人が経理に異動することは、キャリアの断絶ではなく、新たに経理という視座を獲得する機会に恵まれるということです。そして、営業を10年やってきた自分だからできる経理業務を実践することでしか、その組織に新たな視点を持ち込むことはできないでしょう。
しかし多くの組織は、その成長過程によって育まれてきた文化が視座を固定していきます。つまり、一定の文化の中で実行される“新しい視座”の実体は、所詮、同じ燭台に乗っている2つの蝋燭に過ぎないのだと思われます。
これに組織として気づくのは、異動する本人が大きな変化と感じるということにばかり目を奪われてしまうため、難しいかもしれません。そこで、違う文化を経験してきた人材を登用することになります。だから“中途採用”ではなく、“キャリア採用”と呼ぶようになったのでしょう。(前者では、自文化に染め上げていくことを前提にした響きがありますが、後者からは変化を起こしてくれるという期待を感じます。)さらに多様性という観点で、国籍・ジェンダー等、様々な観点からの必要性が唱えられています。これは、それだけ現代の組織には、新しい視座が必要になっていることを示しているように感じます。
古代ローマ帝国の起源は、狼に育てられた双子の兄弟(ロムルスとレムス)にあるとされます。つまり、この2人が町を作ろうと思い立ち、誰でもいいから一緒に町を作ろうといろいろな人を呼び寄せた結果に誕生したという伝説です。ここから、古代ローマ帝国が領土を拡大するにあたって、義務さえ果たせば、誰でもローマ市民になることができた文化的(精神的)背景を伺い知ることができます。一方、古代ギリシャでは、アテネ市民になるためには両親が共にアテネ市民でなければならないなど、厳しい制限を設けました。だから古代ギリシャは、優れた文明を生みながらも拡大することができず、早々に歴史から消えていってしまったのだとも見て取れます。
自組織の文化に染め上げることは、結果として文化を固定させます。古代に消滅したギリシャ文化が、千数百年を経てルネサンスとしてローマに還ってきたように、生き続ける文化は変転するものです。変化を恐れながらイノベーションを求めるということが、矛盾であるということに気づかなければ、組織の多様性は獲得できないのではないでしょうか。
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