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読書の効用は「自己の避難」と「進捗の実感」

独断と偏見と内受容感覚による報告

基本、noteで書いている意見は、ぼく自身の独断と偏見に拠っている。

学術的に拠ったきちんとした意見は、それこそ書籍として出ているものを参照した方がいい。出版社による様々なチェックを経ているので、インターネット上で得られる情報よりも、信用度は格段にあがる。

もっと言えば、人間の本質にかかわるもの、そういうものは古典を参照するのがよい。古典は"時の試練"を経た持続的な価値を持っている、と英文学者で「思考の整理学」の著者・外山滋比古が書いている。

“時の試練”とは、時間のもつ風化作用をくぐっているということである。風化作用は言いかえると、忘却にほかならない。古典は読者の忘却の層をくぐり抜けたときに生まれる。作者自からが古典を創り出すことはできない。
忘却の濾過槽をくぐっているうちに、どこかへ消えてなくなってしまうものがおびただしい。ほとんどがそういう運命にある。きわめて少数のものだけが、試練に耐えて、古典として再生する。持続的な価値を持つには、この忘却のふるいはどうしても避けて通ることのできない関所である。

外山滋比古「思考の整理学」

世の中には、通説っぽく広まっているが、実は根も葉もない情報がある。

たとえば、読書の効用については、2016年にSTUDY HACKERに「6分の読書でストレス7割減! 読書でストレスが消える "ワケ" と "コツ"」という記事が投稿されていた。

端的に言うと、イギリスのサセックス大学の研究チームがストレス解消に役立つ活動を調べたところ、ストレスの軽減効果として、読書が68%、音楽鑑賞が61%、コーヒーを飲むことが54%、散歩が42%、ゲームが21%という結果だった、と。(読書家の諸氏を大いに喜ばせたところでしょう!)

が、その後の検証によって、この研究は「この話は査読付きの研究でもなければ学術誌に載ったわけでもないマーケティング的なもの」ということが指摘している。

どうもチョコレート会社のプロモーション上、読書という活動にストレス軽減効果がある方が都合がいい状況になり、上記のような言説が流布された、ということらしい。

詳しくは、以下「ネットロアをめぐる冒険」に経緯がまとめられている。

しかしながら、信頼に足る研究結果が無くても、ぼくは読書にはストレス軽減の効果があると信じているし、実際に感じてもいる

とくに面白い長編小説に出会い、丸一日没頭して一気読みし、読了とともに本を閉じるとき、その小説世界の余韻とともに現実に戻ってくる中で脳内に駆けめぐる神経作用の得も言われぬ感覚を、心地よく味わう。

科学的なエビデンスはもちろん大事だが、「内受容感覚=この自分という心身の内部で起こる反応や感覚」を、わりと大切にしている。

読書はネガティブな思考からの「自己の避難」

そして、タイトルに掲げた主張の展開に至る。

ストレス原因は、ネガティブなこと、過去の後悔や未来の不安を考えすぎて引き起こされる。これもまた内受容感覚による分析である。
シンプルに言えば自分で自分をイジメているのである。自分で壁にひたいを打ちつけて、見えない内部で血を流しているのである。

なおにゃん(@naonyan_naonyan)さんの、X/Twitter上での短文とイラストが好きで、共感を覚えながら、よく見ているのだけれど、以下のつぶやきなんて、まさに自分イジメである。ほんとうに素晴らしい。わかるわー。

メンタルを崩しやすい人間は、「私が」「自分が」という一人称単数の表現が多い、という。自己に思考を向け過ぎる。そして思考は基本的にはネガティブである。ポジティブ1割に対してネガティブ9割とも言われる。ほぼ勝ち目が無い勝負。考えすぎない方が身のためである。

それが読書をすることで、思考というか矛先というか対象を、本の登場人物に向けることができる。それが最大の効用なのではないか、と思う。

読書をすることで「共感性が高まる」とか「問題解決への視野が広がる」という説もあるが、小説のジャンルによっては、共感も視野の広がりも何も無い内容もある。でも読み終わって、スカッとした気分になる。

それは、本の世界に思考が向くことによち、ネガティブな思考によるダメージから自己を避難させる、それが大事なことではないか、と感じる。「逃避」ではなく「避難」の語彙が、個人的にはしっくり来る。

ストーリーが「進捗」する、という効用

もう一つ、実際の現実と小説などのストーリーが違う点は、現実世界には障害が多くなかなか進まないけれど、ストーリーは良くも悪くも「進捗」する、ということだ。

小説の中の時間軸は数か月、数年、あるいは数十年のスパンで物語が(良くも悪くも)進んでいく。ただ、実際には読むためにはそこまで時間はかからない。当たり前のことだけれど、実感として、ぐいぐい進んでいるぞ、という感覚が大事なのではないか、と思っている。

3業界、7企業、26チームへの1万2000の日誌の調査を通じて、チームやメンバーが創造性と生産性を高めるための要素が「進捗の支援」であること明らかにした「マネジャーの最も大切な仕事——95%の人が見過ごす「小さな進捗の力」に、進捗の裏返しである障害について以下の言及がある。

どうやら、仕事における障害は仕事をすること自体への無気力につながるようだ。

反対に、日誌では数々のネガティブな出来事にも言及されている――仕事の障害だけでなく、細かく管理されること、リソースの要求が却下されたこと、他人の行動がプロジェクトを台無しにしたと知ったこと、バカにされていること、無視されていること、プレッシャーがかかりすぎていること、などが挙げられる。

テレサ・アマビール、スティーブン・クレイマー
「マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力」

細かな管理、リソース要求の却下、プロジェクトの遅延や頓挫、バカにされることや無視されること、プレッシャーなんて日常茶飯事である。現実世界はかくも障害だらけで、それが無気力につながっている。

ただ、小説世界では、主な障害には言及するものの、些末な障害には触れられずにストーリーが進んでいく。その実感ゆえに、スカッとする読後感が得られるのではないか。

以上、エビデンスとなる論文学術的報告も無い、いくつかのX/Twitterのつぶやきや、書籍から創発された独断と偏見に基づく意見である。

読書の効用は「自己の避難」と「進捗の実感」である、改めて結び、終わらせていただきます。さいごまでお読みいただき、ありがとうございました。


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