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急行はまなす〜青森発の夜行列車に揺られた思い出〜

あれは就職する前の3月。
かれこれ数年前の話。
当時運行廃止が決まっていた
急行はまなすの切符がなんとか取れた。
夜行列車は修学旅行以来乗ったことがなく、
(僕の学校は旅行先から寝台列車で帰ってくるルートだったけど今もまだあるのか?笑)
時間もそれなりにあったので、
青春18きっぷも使いながら
関東に住む僕は思い立って旅に出た。

夜明け前のホームはまだ寒い。
しかし、これからもっと寒いところに行く。
旅への期待と寒さへの不安を胸に抱き、
始発の宇都宮線に乗って一路北上していく。

青森までは青春18きっぷを使うが、
鈍行しか乗れないので途中何度も乗り換えを挟む。
長時間乗車にお尻を痛めながら
初日は山形県内、翌日は秋田の実家に泊まり、
いよいよ青森駅に着いた。

当時は3月。
大雪でこそなかったが雪がちらついていた。
新幹線の止まる新青森駅は新しくて綺麗だが
青森駅は一昔前の佇まいだ。
でも、そんな駅舎のくたびれ方と
しんしんと降る雪が絶妙にマッチしていた。

着いたのは夕方だったが発車は22時過ぎ。

とりあえず駅前の大通り沿いにある
定食屋さんで夜ご飯をすますことにした。
威勢のいいおばちゃんだった。

その後は何にもすることがないので
近くの商業施設を見ながら街を散策。
大通りから一本逸れると、
シャッターが一面閉まった通りと
たまにある赤ちょうちんの朧げな灯りの景色。
なんとも情緒がある感じだ。
ここでもおばちゃんたちの笑い声が聞こえる。
青森の女性たちはみんな強そうだ。

時間はまだまだたっぷりあるので、
近くのスーパー銭湯で身を清めることにした。
市街地で気軽にお風呂に行けるのはありがたい。
青森訛りのご老人たちを横目に
いそいそと身体を温めた。

いよいよ旅立ちの時間がやってきた。
北海道はこれまで何度も行ったことあるが、
陸路で渡るのは初めて。
何故か得体の知れない不安と緊張感が走る。

急行はまなすは青森と札幌を8時間程度で結ぶ夜行列車である。
夜行列車といえば思い浮かべられる二段ベッドのある寝台車の他に座席車もあり、今回は座席車に乗る。
思ったより重厚感があり質の良さそうなシートだ。

予定時刻から少し遅れての発車となった。
ホームには撮り鉄の皆さんも大勢いて
写真のフラッシュが瞬くとともに
掛け声も聞こえてきた。
ファンにとって愛された車両なんだと改めて感じる。

発車すると、到着時刻のアナウンスとともに
青函トンネルに入る時刻が知らされる。
しばらく起きていようと思った。

青森の市街地を抜けると
段々人間の気配は消えていき、
真っ暗闇の中を列車は進んでいく。
昼間はきっと海も見え綺麗な景色なのだろう。
ただ、その瞬間は何か海に飲み込まれてしまいそうな怖さすら感じた。

しばらくして青函トンネルに突入した。
トンネル内は明るく、列車の走行音がトンネル内に響き続けること数十分。
ついにその音が止むと同時に周りが暗くなる。
どうやら北海道に入ったらしい。
遠くの海沿いに見えていた灯りが少しずつ大きくなってくる。

函館に着いた。
ここからは列車の進む方向が変わるので牽引する機関車が変わる。
連結作業があるため停車時間が結構ある。

特にすることはないが外の空気を吸いにホームへ降りてみる。
飲み物を買って席に戻りしばらくしていると発車の時間となった。
進行方向が逆となるが、だれも座席の向きを変えなかったので
今度は函館の市街地の光が遠のいていく。

この辺で自分の意識も遠のいてきた。

目覚めると銀世界とビル群の景色が飛び込んできた。

長い旅もそろそろ終わりである。
自分はただ乗っているだけだが、
ここまで来れたことに勝手に達成感に浸っている。

駅に着き、車体を見ると
目的地に来るまでの道中の様子がよくわかる。
心の中でおつかれさま、ありがとうと呟く。
そして僕はこの地で新しい1日を過ごしていく。

夜行列車や夜行バスのいいところは
朝から活動できるところにある。
観光のほか地方への出張、地方からの出張など旅行者や社会人にとって様々な需要を満たしてきた。
一方で新幹線がどんどん高速化するにつれ、
夜行列車はその役目を失ってきた。
始発の新幹線に乗れば、ある程度の目的地であれば朝から活動ができる。
となると移動時間の少ない新幹線が選ばれるのは当然だ。
このような新幹線の速達性ももちろん素晴らしい。
ただ、こうして乗ってみると、
時間はかかるが無事に目的地まで運んでくれた夜行列車に対して感謝の念を深く覚えた。
こうした経験ができたのはかなり貴重であったしいい思い出だ。

こうした色んな人の思い出が積み重なって
夜行列車は多くの人に愛されていたのかも知れない。

現在、残っている夜行列車は
サンライズ出雲・瀬戸のみだ。

まだ運行されているうちに機会があったらぜひ乗ってみたいと思う。

夜をかけて日本のどこかへ旅をするっていうのも良いものだ。
ありがとう、急行はまなす。

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