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最後の世界

ついに僕は最後の世界にやってきました。

目を覚ますと薄暗い教室くらいの屋内で、椅子に座っている状態でした。

友人の姿はすぐには見当たらず、知らない女性が困った顔で僕を見つめます。

「ここは?何の世界?なんかこの部屋暗いけど……」

その知らない女性は、僕の口の前で人差し指を立て、首を横に振り、何も発さずジェスチャーだけで【静かにして】と伝えてきます。

ていうかなんか、めっちゃ息が苦しい感じがする。

「ん?何?ここはどこ?」というと呆れた顔をしてその知らない女性は遠くを指差しました。

そこにはベッドに横たわる友人の姿がありました。

その空間には他の人も数人いて、みんなゆっくりゆっくり動いて一切会話はありません。すごく静かな場所です。

友人に向かって「どうしたの?寝てるだけ?」と尋ねると、ゆっくり起き上がって小声で何かを言いました。

よく聞き取れなかったので「何々?どういうこと?」と言いながら僕が近づくと、さっきの女性と同じく友人も口に人差し指を当てました。

少しずつ最低限の言葉で友人は伝えてきました。

「空気が、少ない、要点だけ、話して」といい友人はその自分たちがいる暗い部屋の真ん中にある自販機のような箱型の機械を指差しました。

その機械の前に、お父さんと娘さんと思しき二人が立っています。

お父さんは機械から伸びたホースを取り、その先端を娘さんの口に当てがい、息を吸わせたかと思うとすぐにホースを口から離します。

そのホースを元の位置に戻すと、機械の上の方に数字が現れました。

単位は忘れましたが、その世界の〇〇円のような感じでした。

ようするに普通のきれいな空気を吸うのにもお金がかかっているんだな。というのはすぐにわかりました。

友人は【そういうこと】というように僕の目を見てうなずきました。

友人は、普通にしていてもこの息苦しい空気でもお金がかかり、たまに本当にきれいな空気を吸わないと病気になることを小声で少ない単語だけを使って僕に伝えてきました。

「え……?じゃあ自分の今吸ってる空気は……?」僕がそう言った後

その場をウロウロしていた一人の女性が友人に近づいてきました。

その人は友人の腕を持ち上げて手首に機械を押し当てました。

ピッ……

友人の腕の近くに光る数字が浮かび上がりました。

さっきのやつだ……

僕がここで吸った空気、しゃべった息、すべて友人の財産から支払うということだ……

「ごめん……」そう僕が言うと友人はベッドから起き上がって
【こっちに来て】とジェスチャーで伝えてきました。

その薄暗い部屋を出たところに小さな小部屋がありました。

二つのソファーと薄暗いオレンジのランプ、4畳半くらいの部屋です。

『ここで話そう』 今度は声で友人がそう言いました。

話すったってそんな普通に話せるような世界じゃないみたいだけど一体どうやって……と思っていると

友人は腕につけている時計のようなものを見せてきた。

パッとその文字盤を見た僕は、円周率の何桁だよコレと一瞬思うほどデタラメみたいな数字が並んでいて、その世界の通貨であろう単位が最後に小さく表示されていた。

それがここまでこの友人が時代を立て直しながら築いた全財産だという。

友人は今までのはなんだったのかというほど普通に話し出した。

『ここはほとんど誰もこない部屋だから普通に話していいよ。でもやたらめったら話したり騒ぐのはやめてね? さすがの俺でもみるみる減っていく自分の資産に毎日嫌になるような時代だからさぁ……』

「そうか……大変な時代だ……」

『さっきは周りに合わせてああいう風にしたんだけど、清晴も見ただろ?少ない金で自分の子供にも満足にきれいな空気を吸わせられないんだ、ここは。そんな場所で大声でうちらが好き勝手話すわけにはいかないんだ。

それに人間が元々備わっている呼吸という行為自体に価値がこうやってついて取り合いになってる世界だ。逆上したやつに殺されてもおかしくない。

それほど【好きに息ができない】【好きに話せない】というのは苦しいことだ』

友人は、その時代のこの顛末、長くは持たないその次元の最後を想像して涙をこらえている様子だった。なんせそこはもうあとは終わりを待つだけのような状態で、仕事どころか何もかも制限されて、それぞれが貯蓄したものを食いつぶしながら、ただ苦しいのに生きている状態だった。

こんな状態になっても何とか食いつなぐために一定数労働をする一部の人は、貯蓄や資産が何もない人たちで、その1日を生きるためと崩壊が早く来ないように空気を管理する側の人間として働いているらしい。

できることなら叫びたいほどにいっぱいいっぱいだろうことは友人だからこそ話さなくても伝わるものがある。

友人は続けた。

『どうだった? ここまで見た世界は

違う次元の話で清晴にとっては本当は何をしても来れない見れない世界。

次元の垣根は違えど確実に誰かが味わっている未来、この世界。

当たり前に青空もやってきて、当たり前に会話もして、好きなだけ息ができ、挙句元々俺もそうだったけど無駄にタバコなんか吸ったり。

永久に続くなんてものは、どこに行っても次元を超えても何一つない。

ただその終わりが早く来てしまわないように、消費ペースを落としたり苦労して、でも確実に終わりはやってくる。最後のその場にいる者は、きっと一番苦しい。

もうそれで仕方がないとしか言えないけど、もしこの世界から清晴の元の世界に何か伝えれるのなら、やっぱり

 【 好きに楽しんで生きてきなよ
                        どうせ全部なくなっちゃうんだから 】 だな 』


友人は僕に『別に重たい何かを背負わせる気もさらさらないよ』とも言い、話しを続けた。

その時に生きれるのはその時代の人だけで、それはたまたま居合わせた人たちのただの集まり。

家系や親なんてのも、縁だ輪廻だ前世だ。と人は言うけど
【近所でたまたま集められた同じクラスの隣の席の誰か】くらいたまたまそこに居合わせただけで言うこと聞くのも聞かないのも何でも自由だと。

でもそれが自分を苦しめるのなら何も耳を貸す必要もないと友人は言った。

そうやってダメな環境で育った人は、たくさんいる。
でもこれからの自分の環境は、紛れもない自分で作っていくものだから
【先生のいない教室で勝手に席替えしちゃいけないなんて誰も言ってこないっしょ】と笑いながら言った友人に、どの次元にいても多分この男はこういう感じなんだろうなと僕は思った。

『ほら、あそこ見てごらん』と友人がドアの窓の部分を指差した。

そこには僕の母親と姉と姉の旦那さんや義理の兄、僕の血の繋がっている家族が全員いた。

うわ。久々に見た……みんなだ……と唖然と見つめていると、向こうも僕に気づいている様子だ。

一言も発さずに、しかし言葉はなぜかしっかり届いた。

【もうちょっとやなあ。そのまま落ち着いていこう。(方言の意:そのまま落ち着け) あとはこっちでやっとくけん】




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