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培養肉のサステナビリティ?

先日、培養肉関係で、以下の読みものを作りました。

この対話の中で、理華さんが以下のように発言しています。

畜産よりも効率的で環境負荷が小さいとする報告もあるけど、実際のところ評価はまちまちね。畜産では飼料の生産過程から推計しているから、培養肉も培養液の生産過程から推計する必要があるはずだけど、「生産過程」の線引き次第で推計にバリエーションが生まれるのではないかしら。例えば、培養液のグルコースが穀物のデンプン由来だったとすると、結局耕作を必要としていることになるわ。

https://note.com/obou_flourish/n/n6d3fd7fe0203

培養肉は、サステナビリティの文脈で語られることが多いですが、実はエコとは限らないと言っています。これについて、少し補足しておこうと思います。

畜産肉と代替肉のコストーベネフィット

Nature Communications誌に、Rubioら(2020)の文献があります[1]。
この文献は畜産肉と代替肉のコストーベネフィットに関してレビューしたものです。環境負荷関係で興味深いのはFig.5です(以下リンク先参照)。

牛肉(Beef)、豚肉(Pork)、鶏肉(Chicken)、植物肉(Plant-Based meat)、マイコプロテイン(Mycoprotein)、培養肉(Cell-based meat)について、以下の①から④を比較をしたものです。(牛肉の値を1とした相対値を使用。)なお、植物肉は大豆由来、マイコプロテインは菌由来の代替肉です。
① エネルギー消費
② 温室効果ガス排出量
③ 富栄養化
④ 土地利用の程度

全体を通じて、牛肉がとりわけエコではないことが示されていますが、必ずしもワースト1というわけではありません。概況は以下のとおりです。

① エネルギー消費
培養肉は牛肉よりも負荷が高い(相対値1.349)。
牛肉よりも負荷が高いパターンは全体を通じてこれのみ。

② 温室効果ガス排出量
培養肉は牛肉よりも負荷が低い(相対値0.246)。
しかし、豚肉、鶏肉より高い(豚肉0.134、鶏肉0.075)。

③ 富栄養化
培養肉は牛肉よりも負荷が低い(相対値0.037)。
また、豚肉よりも低いが鶏肉とはほぼ同等(豚肉0.122、鶏肉0.030)

④ 土地利用の程度
培養肉は牛肉よりも負荷が低い(相対値0.060)
また、豚肉、鶏肉よりも低い(豚肉0.172、鶏肉0.103)

このように、培養肉は畜産肉よりもエネルギーコストが突出しています。また、必ずしも温室効果ガス排出量が低いとも言えません。
メリットがあるとしたら富栄養化と土地利用の負荷が小さいことですが、豚肉、鶏肉と比べればどんぐりの背比べとも言えます。

考察

総合的にバランスがいいのは?

鶏肉だと思います。

まず、光合成を超えるエネルギー変換効率を達成できない限り、人への供給エネルギーという観点では植物が最もエコであると言えます。
そして、肉(代替肉含む)の生産には、飼料(あるいは培地)と設備を要します。植物からのエネルギー変換プロセスが少ないほど、またその資源投入量が小さいほどエコになります。

つまり、エネルギー変換効率が高く、変換プロセスが少なく、省資源で済むものがエコということなります。その観点で生産プロセスを考えても、鶏肉が総合的に見てバランスがよいと思います。

蛇足ですが、エコ・サステナの観点で何かを物語ること(ナラティブ)は、最近のトレンドなんだろうと思います。その際、過去を否定的に捉え、その対比として未来を肯定的に語るのはありがちなパターンですが、過去はそんなに馬鹿にはできません。経済合理で効率化を図ってきたことが、暗黙裡にエコだったという構図が成立する場合だってあるはずだからです。鶏肉はこのケースなのではないかとも思います。

「エコ・サステナにいいのは鶏肉」と言ったら、何となく興ざめするかもしれません。その感覚もよくわかるのですが、その場合のエコ・サステナ概念は投資概念に紐づいていることには自覚的である方がよいでしょう。

培養肉がサステナの観点でメリットになるパターンは?

牛肉を培養肉で作るパターンです。

培養肉は豚肉、鶏肉よりエネルギーコストが突出します。これ以外の環境負荷は、培養肉、豚肉、鶏肉とでそれほど大きく異なりません。つまり、豚肉、鶏肉を培養肉で作ることは、サステナの観点からはそれほどメリットがありません。
裏側から捉えると、これらの肉を培養肉で作ることを正当化しうる観点は、サステナ以外の観点ということになります。例えば政治的ニュアンスでの食料安全保障(=多少コストがかかっても自国の供給能力を高めたい)の観点がこれに該当するでしょう。

他方、牛肉は概して環境負荷が高いです。培養肉は牛肉よりも多少エネルギーコストが嵩みますが、それ以外は概して環境負荷が牛肉よりも低レベルです。この点、牛肉を培養肉で作ることにはメリットがあると考えられます。

補足

なお、Fig.5には引用元(Mattickら(2015)[2])があります。
有料論文なので本文は読めませんでしたが、Supporting Informationのデータが結構充実しています(以下リンク先参照)。

https://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acs.est.5b01614/suppl_file/es5b01614_si_001.pdf

Rubioら(2020)の文献で相対値で示されていたものは、Table. S-14(p.32)に実数で示されています。また、培養肉の生産から廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じた推計をしていることがわかります。これには培地原料となるグルコースを得るためのプロセス(コーン栽培、糖化プロセス)も含まれています。

なお、これらはあくまでアメリカのデータです。日本で同様のことをするとどうなるのか、気になるところではあります。

参考文献

  1. Rubio, N.R., Xiang, N., Kaplan, D.L., 2020. Plant-based and cell-based approaches to meat production. Nat Commun 11, 6276. https://doi.org/10.1038/s41467-020-20061-y

  2. Mattick, C.S., Landis, A.E., Allenby, B.R., Genovese, N.J., 2015. Anticipatory Life Cycle Analysis of In Vitro Biomass Cultivation for Cultured Meat Production in the United States. Environ. Sci. Technol. 49, 11941–11949. https://doi.org/10.1021/acs.est.5b01614

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