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「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet」桜庭一樹

「実弾」という言葉を「銃の弾」という意味以外で使っているのを初めて見たのは、かわぐちかいじの漫画だった。
そこでは政治家が根回しする為にばら撒く金銭を「実弾」と言っていた。
「実弾」とは、直接的な攻撃・状況を改善する為に使う”何か”として使われると認識した。

本作でも「実弾」というフレーズが出てくる。
上述の概念を持ったうえでタイトルを見ると、「砂糖菓子の弾丸」とは「実弾」と比較して、なんら効果をもたない”何か”を意味していると気づく。
中学生を登場人物とした物語、そこで使われる「実弾」も「砂糖菓子の弾丸」も、その年の子供たちがそれらを意識しなければならないという、悲しさがこの物語にはある。
本作は悲劇。

あらすじ。
父を亡くし、母と兄の三人暮らしの少女。
中学生。
兄は働かず、浪費するのみの眉目秀麗なひきこもり。
そんな状況にいる主人公は、自衛隊基地がある街ということもあり、卒業後はすぐに自衛隊に入隊したいと考えている。
生活にすぐさま役に立つ「実弾」として、そういった人生を思い描いているのだ。
そんな彼女のクラスに転校生がやってくる。
この転校生はちょっとメンヘラちっくな不思議ちゃんで、ところかまわず虚言をまき散らす。
それを「砂糖菓子の弾丸」と評する。
実はこの転校生が他殺死体となって発見されるシーンから本作はスタートする。
この不思議ちゃんと主人公がどう関係していき、どうして悲しい結末になるのか、を読者は追わされる、というストーリー

最初、主人公はこの転校生に苛立つ。
読んでいて自分もイライラさせられた。
だが、読み進めて行くと「砂糖菓子の弾丸」を撃つことしか出来ない彼女に対して、感情が入りはじめてしまう。
入りはじめてふと気づく、この物語の結末は転校生の死なんだということを。
冒頭でただ好奇心しか呼び起こさない「死」が最後にこんな感情を呼び起こさせるなんて。

中学生が物語の中心というところも良い。
時に大人と同等の思考力、でも現状を打破できない子供。
大波に揺らぐ小舟のような立場で彼らは何を感じ何を思うのか。

この本は最初ライトノベルとして世に出たんだと。
子供に夢を見させるのではなく、危うい中学生という立場をつきつける本作がきちんと評価されているっていうのが、なんとも考えさせられる。
思春期の1年は成人の10年ぐらいに匹敵するらしいよ。
激動だね、中学生。


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