ウェブ

 最近陽介がよくスマホを見ている。別にそれ自体は構わないのだがとても熱心に見ているのだ。
「陽介、最近やたらスマホと見つめあってるけどなんか面白いゲームでも見つけたの?」
「いや違うんだよ。実はこれ……」
 そう言いながら陽介はスマホの画面を俺に見せた。
「漫画?」
「そう、ウェブコミックとかウェブ漫画ってやつ。知ってる?」
「ああなんか聞いたことはあるけど、よくは知らないなあ。」
「まっつんでも知らないことあるんだね。」
 陽介は驚いた表情でそう言った。
 そりゃあそうだ。とあるキャラクターの言葉を借りるなら、何でもは知らない、知ってることだけ、だ。
「電子書籍とかとは違うのか?」
「うーん明確な区分は分からないけど、ちょっと違うかな。」
 首を横にひねりながら陽介は言った。
「僕が今読んでるのはそもそもインターネット上だけで連載してるやつだし。」
「あ、雑誌でやってるのがオンラインでも読めるとかじゃないのか。」
「そうそう、こういう連載の方法もあるんだよ。」
「はあ、難しくてついていけん。」
 機械音痴の俺にとってはなかなか踏み込めない領域だ。
「しかも僕が読んでるのは漫画投稿サイトに投稿されたやつなんだ。」
「漫画投稿サイト?」
「ほら小説とかもあるじゃん、一般の人がそういうサイトに投稿するやつ。」
「あああるなあ。結構本になったり、アニメ化したりしてるよな。」
「そうそう、そういうの!だからこのサイトも、プロ目指してたり、絵描くのが趣味の人があげてるのよ。」
「なるほどな。そういうのって実際どうなんだ?面白いのか?」
「まあそれは作品にもよるけど、でもそんなの有名な漫画だって一緒でしょ?」
 確かにそういわれてみればそうだ。有名だからと言って確実に面白いというわけでもない。
「まあそうか。」
「まっつんも読んでみなよ。」
「俺は、うーん……」
 渋る俺。
「ひょっとして電子書籍に抵抗ある感じ?」
「まあ、ないと言ったら嘘になるな。」
「まあ俺もどちらかと言ったら紙派だから、その気持ちもわからなくはないけどね。」
 うんうん、とうなずきながら陽介は答える。
 おい、そもそも本を読まないだろ!
「まあでも、電子書籍は電子書籍でかさばらなかったり、どこでも読めたり、それなりにメリットあるのよ。」
 だから、お前は本を読まないだろ!
「合法に無料で読めるアプリとかもあるし、まあ試しに読んでみなよ。」
 偉そうに語る陽介の口調に少しイラっとさせられながらも挑戦してみることにした。
「なんかおすすめの作品とかあるか?」
「そうだな、紙岡殿々(かみおかでんでん)さんの『今代の勇者は暇人なようです。』とか俺は結構好きかも。」

 勇者に任命された主人公・勇士屋柊色(ゆうしやひいろ)だったが、ある日未来を見通す力で自分が生きている間は魔王が復活しないことを知り、何でも屋をやりながら生計を立てることに。そしてその影響で勇者パーティに入る予定だった他の面々もそれぞれの道を歩みだす。

「ざっくり話すとこんな感じかな。」
「なるほど。普段そういうジャンル読むこともないし、せっかくだしこの週末にでも読んでみるよ。」
「いや今すぐ読んで!」
「え、今すぐ?」
 そういうと陽介は俺のスマホでアプリをインストールし、例の漫画を開いた。
「はいどうぞ。」
「どうも。」
 俺は少し引き気味に答えた。
「あ、こうやってすぐにすすめられるのもいいところかも!」
 どうやら電子書籍にはメリットもデメリットもあるようだ。

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