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おしえて!柴犬先生

私は今年46歳である。んで先生は現在3歳である。
賢さだけで言うならば、圧倒的に先生が上である。

先生は基本、何も教えない。
まるで”見て学べ!”と言わんばかりである。
先生はジャーキーに最近飽きてきているようで、
袋をチラつかせても、あまり反応しなくなった。

先生は相手をよく観察している。
凄さがより際立つ瞬間は、まさに”食事”の時である。

まるで一見何も考えていないように見せているところは、
まさにプロである。

”いつもの食事”を差し出す。
『お手!』
反応しない。私を観察している。
相手の次の出方を伺っているのだ。すぐには反応することもない。
『お座り!』
やはり反応しない。次は”伏せ”が来ると悟っているような、明らかに私の心を見透かしたような目である。
『ふ、伏せ!』
もはやこちらを見ようともしていない。”話にならんな”と言うような顔で
ため息をつかれる。

しばし時が流れる。私は迷う。その私の心を読でいるかの如く、
”ワン!”一言だけ言う。
”それをよこせと言っているのか?何を考えて吠えたのか・・・。”
もう一度
『お手!』
した!すぐに行動に出た。
続いて『お座り!』続いて『伏せ!』んでもう一度『お手!』
まるで”しかたない。お前の為にやってやるわ”と言わんばかりの、表情。

猛烈なスピードで半分平らげる。
食事が止まった。
一瞬緊張が走る。

突然、耳を立てた。
一目散に”見張り台”(先生お気に入りの高い場所)に行く。
ここからでは見えないが、どうやら人の気配に反応したみたいだ。

食事中にでも気を抜かない先生は、勿論寝ている時も気を抜かない。
私の足音、物音、寝ている状態から体も動かさいので、
ある日私は先生の後ろ姿から熟睡を確認し、そーっと覗き込んでみた。

”目、目だけ見開いとる・・・”

体を動かすこともなく、気配を感じたのか、先生は無意味な行動はしない。

そんな先生は
私の話をたまに”あくび”をしながら聞いている。
私もこの歳になって犬に話かけるようになってしまった。
話の最中に”あくび”をするのは人の世では失礼にあたるが、
先生は、そのような些細な事は気にしない。
こちらをチラッと見ると”大切なのは礼儀か?”と言わんばかりの表情だ。

”自ずから答えを導き出せ”
先生はいつもこちらを優しく静かに見つめている。
その表情に癒され、首を触ってやると、
首を反対方向に曲げ、
”そこが掻ゆいんじゃい!”と言わんばかりに、自らの足で掻く仕草をし始める。

人の世で話の最中に・・・。

それが欲しい時は”欲しい!”と言う。
しっぽを引っ張られたら”やめろ!”と言う。
(気分が良い時は何も言わない)
怒られると、上目遣いでこっそり近寄ってくる。
やる気がないと、しっぽが垂れている。

あまりにも素直な姿に尊敬すると共に”憧れ”を感じる。
人の世で実践するのは”不謹慎””非常識”かも知れない。
しかし、それを”学べ!”といつも言われている気がする。

帰宅すると、
猛烈にしっぽを振り乱し、耳を垂れ、口におもちゃを咥えて、
”グーゥン、グゥーン”と高い声で鳴いて飛びかかってくる。
『あぁ、家に帰って来た』と感じる。

家を出る時、今日も先生は”見張り台”から凛々しく、
”やってこい!”
と言わんばかりに、私を見送る。






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