鴨川の等間隔の法則
夜になると夏の暑さが過ぎ去って、心地いい風が辺りに吹くようになった。
川床の灯りが水面に反射して、キラキラと何だかとても幻想的で綺麗だ。
「なぁ鴨川いかへん?」
2人で遊びにいった帰り道、わたしは勇気をだして鴨川のほとりに行くことを風太に提案してみた。
「ん?別にええよ」
そうしてわたし達は欄干の傍の階段を降りて行った。
風太とわたしはいわゆる中学からの同級生で、
何だかんだと仲がいいと思う。
最初はたまたまとなりの席になって、消しゴムを忘れた風太に貸したり、会話してただけやったけど、同じ高校になったいまでは行き帰りもほとんど一緒に帰っている。
そんなウチらの様子をみて、
高校で知り合った同級生たちは居てもたってもいられないらしく、
「ねぇ、佳澄と風太くんって付き合ってんの?ほんとのとこどうなの?」とよくそんな事を聞いてくる。
「ウチら付き合ってへんで」
そう言うたびに何となく心の違和感を感じながらも、同級生に話しをした。
クラスの皆んなから事あるたびに聞かれるけど、本当に付き合ってなんかいない。
初めはそうして軽く流していたけれど、変にそこから風太のことを意識するようになってしまった。
風太のクシャクシャな顔で笑うところ、
おっちょこちょいやけど憎めないところ、
そんなところを考えているうちに、気づけば風太のことが大好きになっていた。
どうしてこんなぜんぜん色気のないわたしを、風太はこんな気にかけてくれるのか
そんな些細なことがずっと気になっている。
「もしかすると…ひょっとして…」
そう淡い期待を胸に抱いたこともあったけれど、それはどうやらわたしの勘違いだったみたいだ。
「なぁ、佳澄ちょっと相談があるんやけど…」放課後、家に帰る道すがら風太に言われて、
「どうしたん?」と聞くと
「じつは好きな子がいてその子がもう少しで誕生日やからプレゼント選びをしてほしい」
と風太に言われてしまった。
風太好きなひとおるんや
遊びに誘われたその日は、家に帰って思いきり泣いた。
「なんで風太のすきな人は、ウチじゃないんやろ」
風太の屈託のない笑顔があたまに浮かべば、浮かぶほど苦しくてその日は枕をグシャグシャにして泣いた。
そして、せめてそれやったら風太の近くにおれるように風太の恋を精一杯応援しようと決めた。
心はとても痛かった。
わたし達は鴨川のほとりに降りて、鴨川の法則にしたがって等間隔に並んだ。
同じくらいの間隔を開けて、カップル達が座るこれを京都では「等間隔の法則」と呼んでいるのだ。
まわりは皆んなカップルばっかりで楽しそうにじゃれあいながら喋ってる。
その様子を見ながらいいなぁ〜と思ってると
「佳澄今日はありがとな!おかげで良いもん買えたわ」そう言って風太はこっちを見て笑った。
ああ、好きだ
反射的にそう思うけれど、
「ええよー。良いもん買えてよかったな!きっとこれで風太の好きなひとも喜んでくれるで!」と自分のこころに嘘をついて言った。
「やと良いなぁ…」
なぜか此方を向く風太に心がズキズキした。
わたしのこと「佳澄」って呼ぶ柔らかい声だったり、風に吹かれて揺れる猫っ毛がとても好きだと思った。
「なぁ、佳澄」
風太はこっちを見ながらわたしを呼んだ。
「今日楽しかった?」
突然聞かれてドキマギするけれど、
「うん、楽しかったよ」と答えた。
「そっか俺も…」
そう言うとンーと風太は思い切りからだを伸ばし、よしっとひと言いうと今度は此方にからだごと向けてきた。
「佳澄、誕生日おめでとう」
風太は今日一緒に買った好きな子にあげるはずのプレゼントを渡してきた。
「え?」
その瞬間、あたまが真っ白になる。
「え?じゃないやろ」
そうして風太はまたクシャクシャの顔で笑いながら
「今日、佳澄の誕生日やろ?」と聞かれた。
「あ…」
そうだった、今日はわたしの…。
「なんや、忘れてたんかい!俺のこれまでの緊張を返せよ」そうして風太は下を向いてはにかみながら、
「佳澄俺は…」
そして少し間をあけて
「俺は…お前がすきだ」と言った。
「え、え?!だって風太ほかに好きなひとがおるんじゃ?!」
「お前、何言うてんの?そんなこと俺ひとことも言うてへんで?」
そうして戸惑ってるわたしを見ると、
今度はわたしの肩をつかみ
「す・き・だ」とはっきり言った。
これは夢なんじゃないかと思いながらも、
風太が渡してくれたプレゼントを開けた。
それは、わたしと相談しながら決めたものとは違って…
「これいつのまに…」
前に風太との話しのなかで、何気なく話したわたしの好きなキャラクターのキーホルダーが入っていた。
「でもこれ、2つあるで?」
すると
「俺さー、クラスの皆んなから佳澄と付き合ってんの?!どうなの?ってめっちゃ聞かれるのよ」
「あー、それ私も」
「やろ?それであまりにも聞かれるから、もし佳澄がイヤじゃなかったら、もういっそこのキーホルダー一緒につけようかと思って…」
「何なんそれ…」
信じられない、そんなことある?
「佳澄…?」
不安そうな風太を目の前にして、
「夢みたい。めっちゃ嬉しい」
キーホルダーを持ってわたしは不覚にも泣いてしまった。
「あー、もう。」
その様子をみた風太は、わたしを引き寄せ思いきりギュッとしたかと思うと「嬉しい」と言った。
風太の心臓がバクバクしているのが分かる。
「風太、心臓の音うるさ…」
すると風太は「お前もな…」と言った。
おそろいのキーホルダーをつけて、明日学校へ行ったら、きっと大騒ぎになるだろう。
そのときもしかしたら、
「ねぇ、佳澄と風太くんって付き合ってんの?ほんとのとこどうなの?」とまた聞かれるかもしれない。
今度そのときは、堂々と「うん、そうなったよ」と言える。
お気に入りのキャラクターのキーホルダーを揺らしながらわたし達は2人、はにかみあった。
これまでで1番しあわせな夜だった。
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