あてどもないバスの旅で
入道雲がうっすらと残り、
まだ微かなミンミン蝉の鳴き声が聴こえる
そんな夏の終わりの日曜日
わたしは1人ふらりとバスの旅に出た。
いつものように降りる場所や目的を決めず、ただ気の向くまま思うままに目の前のバスに乗るのだ。
そして、インスピレーションでここだと思う場所で降りるそんなバスの旅に出た。
お気に入りの黒のリュックに、
少し大きめの白Tシャツと黒の短パンというラフな格好で、わたしはバスにのり車窓に揺られた。
そうして何人かのひとに混じりながらもガタガタとした道を抜け、知らない場所へと運ばれていく。なにが待ち受けているのかも、分からない自由気ままな旅に得もいわれぬ高揚感に駆られた。
「日常に隠れてなにかをしてみたい」
その気持ちはずっとむかしから持っていたものだった。
普段はいかない山道を抜けて、ガタガタとバスは揺れながら道を進んでいく。
揺れる緑の葉っぱが綺麗だ。
昨日まで降り続いていた雨が嘘みたいに止み、
その雨の雫を受けてキラキラと樹々が揺れていた。
照りつける陽射しも木漏れ日のお蔭で柔らかくなっている。
そしてわたしは、ここだという場所で降りて
辺りを散策することにした。
1時間に1本しか走らないバスの背中を見送ったあと、三叉路に分かれている道を右に曲がった。
長閑な田園風景が続き、ポツポツと建物が心ばかり建っている。稲穂が揺れて、10月にもなれば刈り入れどきになるのだろう。
トンビがピーヒョロロロと天空を舞っている。風の軌道に身を任せ、ほとんど羽ばたきもしていない。
「優雅だなぁ〜」トンビのそんな様子を見ながら思った。
暫く歩くと向こう側に暖簾のついた喫茶店が見えた。薄茶色の木造の家に濃紺の暖簾。
一瞬民家と間違えてしまうようないで立ちをしている。わたしは興味を惹かれ、引きつけられるように濃紺の藍染をした暖簾をくぐった。
「いらっしゃい」店内は扇風機がまわっており、すこし頭皮の薄くなった店主がテレビを見ながら客と会話をしていた。
店内はカウンター周りにいくつか切り株でできた椅子が置いてある。お尻が痛くないように藍色に染められた座布団がひいてあるのも、またおしゃれだった。
店主はニコニコとしながら
「好きなところに座ってください」
そういわれて私は濃い褐色の木目調の丸いテーブルを選び、切り株でできた椅子に座った。乙なつくりだと思った。
店主は氷の入ったレモン水を置いてくれ、
「暑いなか、来てくれてありがとう。メニュー決まったらまた教えてください」と言った。
手づくりの文字で書かれたメニュー表は写真とあいまってとってもおしゃれだった。パラパラとめくるだけで独自のメニューに惹かれる。
《地元山菜を沢山つかったオリジナルパスタ》
《農家直送ジャージー牛乳ソフト》
そのなかに
《当店オリジナル紫蘇ジュース》というのがあった。
紫蘇ジュースなんて飲んだことない。
思わず「紫蘇ジュースください」と店主にお願いしている自分がいた。
「ありがとうございますっ」
そうして店主は店の奥にしまってあった紫蘇ジュースの入った瓶を持ち出してきた。原液だと濃くなってしまうのでソーダといい案配に割るそうだ。
「お待たせしました!当店自慢のオリジナルシロップを入れて飲んでくださいね」
そうして出てきたジュースは夏の残り香が好きる赤紫の美味しそうな飲み物だった。シュワシュワした飲みものを一口くちに入れると爽やかな夏の香りがした。
「あぁ美味しいぃ・・」思わず口にしてしまう。
「気にいってもらえたならよかった。まだまだ暑い日が続くから、これを飲んで夏バテ防止をしてくださいね」
店主との温かいひと時、たまに繰り出すあてどもないバスの旅も悪くない。
外ではトンビがピーヒョロロロと天空を舞い、悠々と羽を広げていた。
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