ココナッツウォーター男 16
デートサイトでの出会いが普通の事になり始めの、私にもアメリカ人にも、まだほんの少し、ネットでの出会いに抵抗があった頃。
全く面識の無い人とのデートに、緊張感からくる変な汗と鼻水が止まらなかったあの頃。
デートサイトで出会った彼、
アメリカ人、37歳、黒髪で耳にかかるぐらいの少し長めのヘアスタイル。写真では少しインテリそうなイメージ。
ブルックリンのお洒落スポット、ウィリアムスバーグの少し外れのグリーンポイントに住む、音楽好き、レコードにこだわるタイプ。自称、音楽関係。
実際に会う前に、何度かチャットして、
彼は、I am psyched to see you!(あなたに会える事にわくわくしている。)と言ってくれた。(今の所いい感じかな。。)
土曜日の昼間に待ち合わせして、地下鉄の駅で待ち合わせして、スケボーのイベントへ行く事にした。
デート前は服装に少し悩む、トレンド過ぎたり奇抜なデザインだと男性は引くので控えめにしなきゃな。
だからこそ、“Man repeller”(“男が苦手”なファッション)という、ファッション好きな女性が永遠に持つテーマのブログが、あの頃一世風靡していた。
けど、今度会う彼は、音楽系なのでそこまでモテを意識したスウィートでなくてもいいよね、なんて思いながら。結局、自分の好きなボーイッシュスタイル、白地に紺の大きめのボーダー柄の、身幅の広いポロシャツミニドレスの下に薄いブルーデニムのショートパンツ、素足にベージュのブラジルっぽい革サンダルの初夏らしいカジュアルなコーディネートに決めた。ボーダー女子はモテないって日本の友達から聞いたけど、私はボーダー好きだ。少年ぽくって。なので、NYではボーダー女子非モテ説が効力を持たない事を祈り、出かけた。
はあ〜、緊張するなーと汗をかきながら地下に降りて、改札をくぐり、約束のプラットフォームの後方車両側の付近でしばらく待っていると、それらしい男性が正面から歩いてきた。
すぐに電車が来たので、二人で軽く挨拶して、電車に乗り込んみ、ぎこちなく車両の隅の誰も座っていない2人がけシートの前に立った。なにから話していいのかわからない、うーん、awkward(気まずい)な間がしばらくあったけど、つり革を持ちながら、どちらともなく話し始めた。 彼の第一印象は、うーん写真とイメージが違う。写真より確実に体がだらしない、猫背で貧相な感じ、汗ばんだ長い髪が顔に額にへばりつき、清潔感はない、、、
写真と同じな印象を唯一とどめている部分は顔の中心部分だけかな、
もちろん人は見た目ではないので、気持ちは上がらないまでも、オンラインデート初心者なのでデートを続けた。
彼は、よれよれのTシャツに、短パン、靴下にサンダルを履いている、彼は
「この靴下、ユニクロなんだ、ユニクロって日本のブランドだよね?」と聞いてきた。
ユニクロは、日本のブランドではあるけれど、その薄汚れて底の部分がグレーっぽくなって、もともとのカラーは白だったであろう、見るからにめっちゃ愛用しているヘロヘロの靴下を「これ日本のブランドユニクロなんだー」って言われても、リアクションに困る。そのヘロヘロの物体は我が愛する祖国、日本のブランドユニクロです!って誇りを持って言うのは、気が引けたので、適当に流した。 けれど、私は、そこから話しを膨らます事ができず、少し申し訳ないなとも思ってみた。
スケボーのイベントは、マンハッタンのウエストにあるチェルシーピア付近で
行われていた。
会場に入っていくと、入り口付近で、綺麗なブロンドのモデルの卵の様なお姉さんたちが数名、様々なフレイバーのココナツウォーターの試供品を配っている。
私はマンゴー味のココナッツウォーターを一つ頂いた、
ふと、横を見ると彼は必死にいくつも試供品をもらいバックパックに詰め込んでいる、(げっ!まだもらうの?)
私の気持ちが、かなりの勢いで引き潮のように引いて行くのに気がついたが、この後まだ続くデートの事を考えて、一応見なかった振りをして、スケボーのステージの方に向かった、
ハドソン川沿いにあるそのイベント会場は、マンハッタンの高層ビル群の間を通り抜けた後、一気に空が広がって、ニュージャージーを背景に、川からこちら側に向かってくる風が、初夏の青空の太陽の匂いがしてすがすがしい。
2人のスケートボーダー達が、U字のヴァートの上を同じリズムで交互に綺麗な弧を描いている。最後にスペシャルでトニー ホークが滑り、スケボーに詳しくない私でもカッコいいなと思った。
会場を後にする時、まだ例のココナウォーターが配られていて、彼は、お姉さんが配るのを待たずに、商品が入ったカゴの中から直接、さっきよりもっと試供品を奪い、バッグの中に詰め込みはじめた、(あぁー、また、あなたのココナツウォーター待ちかい!なんか恥ずかしいな。。。他人の振りをしよう。)
ココナッツウォーターを、大量のココナツの液体を、背中に背負う男と横にいるのが本当に嫌になってきてしまった。
遅めのランチにwest village に歩いて向かう途中、彼はパンクロックの話、ラモーンズ、ピストルズ、マルコム マクラーレン、、、他は私の知らないバンドの話しを延々とし続けた。
お互い緊張もあるし、背中に大量のココナッツの水分を背負っているから、気の利いた話ができないのもしれないから、しかたない。
そして、あんなにココナッツウォーターを必死に奪っていた彼から推測する限り、お金が無いのだろうから、彼のふところ具合を考慮して、高そうでない、すいているピザ屋に入った。
席について、大量のココナッツウォーターを背中に背負う男と、道で横に歩かなくてよくなって、席に着き少しホッとした。
けれど、やはり、話が盛り上がらない、彼が試供品のココナッツウォーターを必死に奪っている姿が頭にこびりついて離れない、私の気持ちは萎えまくり、全く好きになれないよーと思っていると。彼はそんな私の気持ちを察することなく。「ピザはおごるから、この後、バーでおごってね!」って言ってきた。私は、デートサイトの初心者で慣れていなかったせいもあって、気が重いのにもかかわらず断れなかった。(今なら、もれなく帰る。)
仕方なく、目の前のアイリッシュバーに入り、ビールを2杯オーダーして、自分と彼のビール代とチップをカウンターで支払い。カウンターのスツールに腰掛けた。
さっき日に当たったせいか、普段より酔いが早い、周りの騒音や、大きいグリーンジャイアントみたいな人々の大声の会話で、彼の話は耳に入ってこない。
2杯目を支払い、私はこう思い始めた。なんでこの人といるんだろう?
私はピザを御馳走してもらった代わりに、今後ビールを何杯おごり返さないと、いけないんだろう〜。
ココナツウォーターの本数くらいかなー?そもそもこの人、何本ココナツウォーターもらったの?あぁーココナツウォーターの妄想に溺れるぅ〜!と途方にくれていると、髪の生え際の横の血管が、うっすら浮き上がってることに気がつき、そして、その血管が秒を刻む様に痛み始めた、
そして、私の出している微妙なオーラを察する事も無く、彼が「また今度会えるかな?」って訊ねてきた、
私は、うんざり顔になって、頭痛が本格化してきたので、帰る事にした。
体は正直だ。頭痛もこめかみの血管も正直だ。
この経験を元に、顔だけの写真と、仕事がぼやけている方には気をつけようと思った。
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