見出し画像

見えなくても当事者役は当事者に


5月18日、コロナ禍を挟んで5年ぶりにお客様を迎えてこうばこの会第59回チャリティ
ー公演を行った。

ちなみにこうばこの会は視覚障碍者を中心に活動している朗読とかお芝居をしている
グループだ。

こうばこの会ホームページ
http://www.koubako.jp/


もうすっかり皆に忘れられてしまっているだろうからこのままではお客さんはヘルパ
ーさん10人くらいになってしまうと思い、皆集客を頑張った。
もちろん練習も頑張った。


はじめ、お客さんは多くても70人位を想定していたのだけれど、蓋を開けたら100人
オーバーの人に来ていただけて感謝感激!!


私はclubhouseの「膝枕リレー」でお世話になっている脚本家の今井雅子先生が書い
た芝居「ファイティング黒田のラーメン劇場」という作品を朗読劇にして4人のメン
バーと演じた。


最近は映画館でも「バリアフリー対応」と言うアナウンスが流れているのを聞いたこ
とがある人もいるかと思うが、その音声ガイド制作現場を舞台にしたドタバタコメデ
ィーだ。

見える人が音声ガイドのたたき台を作った後、それを実際視覚障碍者に聞かせてちゃ
んと映画の画面を思い描けるかを確認する。

「視覚障害者モニター役はぜひ当事者に」と言う先生の意向があったので、これはも
うウチらがやるっきゃないじゃんと私1人が盛り上がり、メンバーを巻き込んだ。

モニター役はもちろん、ついでに音声ガイドを作っているディスクライバー役もディ
スクライバー経験者にお願いした。
すると脚本家役が余ってしまった。脚本家役が視覚障害者である必要は全くないのだ
けれど、余ってしまったので私がやることにした。


私たちのグループには指導者もいなければ演出もいない。
皆でわちゃわちゃ、お菓子を食べながらああだこうだ意見交換をする。

皆事前に役作りはしてくるけれど、自分では想定していなかったような方向性の意見
が飛び出してくる。一人朗読もいいけれど、グループだと自分にはない感性に出会え
るのが楽しい。


まず「音声ガイドのモニター検討会」なるものがあまりにも一般的じゃないから
前提を説明するナレーションが必要なのではないか。

そしてナレーターはどうしようかと思ったところ、いつもガイドヘルパーとして来て
くれている人にちょっと読んでもらったら行けそうなのでそのまま抜擢。

SEも必要なのでオーディオに詳しい弱視の友人にお願いした。


練習は自分たちが読んだものを録音してそれを聞きながら意見を出し合う。

脚本家はあまりヒステリックになると後味が悪い感じになる。あくまでコメディーな
んだから面白おかしい方向性で。

モニターの青井は先天盲の真面目なパソコンの先生。最初からテンションが高いと面
白くない。

ディスクライバー、「はてなだらけの作品を音声ガイドでどうにかする」と言うのは
いくらなんでも違和感ありすぎ?音声ガイドは見える人と見えない人が画面を共有す
るためのツールなんだから、よくわからないものはよくわからないものとして伝えな
ければいけない。
いやいや、登場人物は全員変なんだからこれはこれであり。

モニター赤井は男なのか女なのか?最後に自分を「オレ」と言っている。
モデルがかわいということなので、女性なはずだから、ここはちょっと何かのキャラ
に扮してみるということでクレヨンしんちゃん味を入れてみることにした。


他にももともと立ち芝居を想定して書かれた台本なので朗読劇としてやる場合はわか
りづらいところもある。

映画本編を流しながらディスクライバーが音声ガイドを入れていくという体なのだが
、どこからがスタートなのかがよくわからないということなので、ビデオの「再生」
とか「停止」と言うセリフを入れた。

全盲の青井は目の前に標語が書かれた紙が貼ってあるなんていう事はわからないはず
なので、さりげなくディスクライバー役が教えると言うアドリブを付け加えた。

最後のナレーションは、ラストの拍手の後に入れてほしいと言う今井先生からのリク
エストがあったけれど、最後のセリフを最後だと見えないお客さんはちゃんとわかる
だろうかと言う意見も出た。
見えている人たちはお辞儀をすれば終わったとわかるけど見えない人はそれがわから
ない。
ここは役者の聞かせどころ。セリフの言い方で、どうにかこれが最後だと言うのがわ
かるように工夫してみた。


後から「脚本家の黒田さんいい人すぎ」と言う意見もいただいたけれど、最後に脚本
家にやっかみモードが発動してしまうとなんか嫌な後味になってしまう。
お客さんにすっきりした気持ちで帰っていただきたかったのであくまでいい人キャラ
を貫いた。


当日はお忙しい中今井先生ご夫妻も膝枕リレーの仲間たちと来てくださった。
皆楽しんでいただけたようなので、とりあえずやれやれである。

先生には「脚本家は現場では弱者」というセリフに共感してもらえた。
映画やドラマの脚本家なんて皆憧れる華やかな仕事。でもその裏には大変な努力も苦
労もある。
図らずも私はそこら辺を今井先生のエッセイや膝枕派生作品などで履修していたので
先生のお言葉は何よりもうれしかった。


私の趣味に付き合ってくれたメンバーにも感謝感謝。今は毎週の練習がなくなってし
まったのでぽっかり穴が開いてしまった感じだ。


コロナ禍を経て、こうばこのメンバーも高齢化の一途をたどっており、やれ腰が痛い
だの体調が悪いだのと言ってい人もちらほら。

どこまで続けられるかははてさて疑問だけれど、80代でも90代でも朗読を続けている
人はいるのだから、細く長く頑張っていきたいと思っている。

口を動かす事はアンチエイジングにとても大切。人としゃべらなくても朗読さえして
いれば衰えてはいかない。筋トレが必要なのは首から下だけではないのだ。
がんばれ私の咬筋!!

そしていつの日か、こうばこの誰かが当事者俳優としてデビューできたら「オレ、一
緒に朗読やってたんだぜ」と自慢してやるのだ!!


この記事が参加している募集

#やってみた

36,935件

#多様性を考える

27,818件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?