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哲学×投資~幸せになるお金の法則~その3「幸福とは?」

興味を広げる

小川:ここまでの話を幸福論に繋げていきたいと思います。投資をすることで幸福になるのかどうか、あるいはお金をどういう風に活用すれば、投資に限らず私達は幸せになっていくのか。奥野さんに言わせると最後は「自立」ということになるのかもしれませんが、まずは会場の皆さんのお声を聞いてみましょう。お金と幸福について、また事前にお悩みを頂いています。

・哲学者はお金のことをどう考えているのか。お金に振り回されないようにするにはどうしたらいいのか。
・ライフスタイルの変化や時代の変化が不安で怖いけれどどうやって対処していけばいいですか。
・お金について不安になることがありますか?登壇者のお考えを話してほしいです。

お金に関して不安を感じていらっしゃる方が多いようですね。お金に振り回されているから不安になったり、あるいは逆にお金があることで幸せを感じられたりということもあるのかもしれませんが、この部分どうでしょう。会場の皆さんで、お金に自分の幸せが振り回されている、左右されているなと感じる方、手を挙げてもらっていいですかね。やっぱりいらっしゃいますよね。でも数人っていうのがちょっと意外ですね。全員挙がるかと思ったんですが。割と自立した人が多いのかもしれない。

奥野:もしくは大富豪かも。

小川:その発想はなかった(笑)
私は最初にまた哲学を切り口に紹介したいんですけど、ラッセルの幸福論。幸せになるっていうのはラッセルに言わせるとこういうことなんです。

『幸福の秘訣はこういうことだ。あなたの興味をできる限り幅広くせよ。』

だから興味を広げなさいというわけですね。これは正にそうだなと思っていて、結局お金に振り回されないようにするためにはお金を軸に考えなければいいわけです。全てがお金で回っている、お金が軸になっていると思うから振り回される。これは当たり前の話で、自分の興味を別のものに広げて、そっちに軸を移せば少なくとも論理的にはお金に振り回されることはない。

つまり、予算ベースで思考しないこと。興味ベースで思考すればいい。そもそも子供時代は誰だってそうだったわけですよ。お金がいくらあるからこれがしたいとか、いくらしかないからここまでしかできないなんて思ったことないですよね。とにかくやりたいからやるっていう。そういう意味ではみんな幸せだったんですよ。でも、だんだん大人になると予算ベースになっちゃって、「あれができない、これが買えない」と不幸になっているところがある。私にはラッセルの言うことはすごくしっくりきます。

こういうこと言うと、いやでも自分が興味のあることにお金がかかる場合はどうするんだって聞かれます。でもこれは簡単で、お金はそう簡単に増やしたり減らしたりできないけど、興味は自分で変えられますからね。興味の対象を増やすこともできるし。ラッセル自身もそういう生き方だったんですが、もっといっぱい興味を持ってリスクヘッジしなさいってことを言っているわけですね。だから私も、さっき物欲がないと言いましたが、ラッセル流に考えてあまりお金に捉われずに生きています。奥野さんはお金と幸福をどういう風に結び付けますか?

有能の境界

奥野:小川さんはお金以外に自分の興味を広げて、自分でコントロールできるものにフォーカスすると仰いました。これ実はウォーレン・バフェットさんも同じことを言っています。「サークル・オブ・コンピテンス(有能の境界)」、つまり、自分の能力が及ぶ範囲内のことにどれだけ集中できるか、ということです。最初に言った精神的な自立の話にも繋がるんですが、自分でコントロールできる領域っていうのは一体どこまでなのかっていうことをよく考えなきゃいけないと思います。

何を言っているのかというと、この縦軸を自分にまつわることと、自分以外のことで取ります。自分以外というのは、もちろん他人も入るし、例えば天気みたいな話もありますよね。今日の天気が良いか悪いかなんていうのは、自分ではどうにもなりません。それで、横軸のこっちが過去、こっちが未来です。真ん中は今ですね。この4象限に分けた場合に、過去に起こったことに対して、やっぱり僕達は何もできない。たとえそれが自分のことであったとしても。

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そういう風に考えた時に、サークル・オブ・コンピテンス、有能の境界っていうのはこの右上にあるんですよ。自分のことで、かつ、現在から未来の部分です。ここに自分の興味をどれだけ集中できるかが重要です。左下の所は、例えば芸能人の不倫の話。他人の話で、しかも過去の話でしょ。どうでもいいわけです。左上の所、例えば昔どんな女の子と付き合ったとかそういう話ですよ。そんなこといつまでも考えていたってしょうがないわけですよ。何も起こらない。右下、他人の将来。そんなこと知るかっていう話です。

こうやって言うと笑い話みたいですが、よく考えてみて下さい。実は、みんな結構こういうことに興味を持ってしまっていると思います。他人がこういう風に言ったとか、自分は昔こうだったなって思い悩むんですね。そんなことで悩んでいるんじゃなくて、もっと自分が今できることにどれだけ集中できるか。これが自立だと思うんです。

この境界をさっき小川さんも仰ったみたいにできるだけ大きくする、同じところに留まらずに興味をたくさん持って、ここの領域をどんどん大きくしていくと幸せになれます。というのが、僕が考える精神的な自立で、自立した個人同士が結び付いて資本主義を作っていった時に、たぶん利己が利他になるんです。アダム・スミスの話っていうのは、他人に依存しまくっている人達どうしで単純に持たれあっても所詮は単なる依存です。何も生まれません。そうじゃなくて自分がまず独立していることっていうのは結構大事だと思います。サークル・オブ・コンピテンスに集中しましょう。

だから、バフェットさんは相場の予測なんていうのはしないわけです。みんな投資って相場を予測することだと思っているでしょうけど、そんなことは無理です。そんなことができるんだったらあっという間に大富豪ですよ。時間掛けて長期投資なんてやる必要ありません。だけど、企業が稼ぎ出す営業利益を予測するんだったら、ちゃんと事業を見極めるっていう人間の理性で判断ができるわけです。相場の動向なんてものは、サークル・オブ・コンピテンスの外側です。だから彼は、仮に中央銀行の総裁がこれから予定している金融政策について耳元で呟いたとしても、自分がやることは変わらないと言っています。

これこそが幸せになる秘訣だと、僕は思います。つまり、お金に振り回されるとか、自分でコントロールできないことについてウジウジしたって仕方ないんです。それよりも今の仕事に一生懸命取り組むとか、将来のために自分に投資をするとか、そういう話になるわけです。

小川:なるほど。だからその有能の境界の所が大きくなればなるほど幸せになるということですね。それとお金の関係で言うと、自分の未来に対してどんどん投資をすればいうことですか?

自分の頭で考える

奥野:そういうことです。だから投資っていうのも、お金だけではありません。僕は人に与えられているアセット(資産)の中で一番重要なものは時間だと思っています。誰にでも1日24時間は必ず平等に与えられています。

当然、アセットにはお金もあります。それからもう一つは自分の能力、才能です。もっと言っちゃうと人間力みたいな話かもしれません。この3つっていうのは交換可能です。子どものうちはお金は自由にならないので、時間を使って勉強して能力を上げましょうとしかならないわけですけど、大人になれば、自分で稼いだお金で時間を買うこともできるんです。能力を買う、つまり人を働かせるということもできます。それがさっき言った永守さんやミッキーマウスに働いてもらうような投資ですね。時間を使って才能を伸ばす、これが自己投資ですよね。いずれにしてもこの3つのアセットをグルグル回してできるだけ大きくしていくと、お金の話は全然心配する必要がないと同時に、たぶんキャリアとしても成功する。

小川:メカニズムはよく分かりました。あとはこういう仕組みの中で、具体的にどういう所に自分の未来を賭けるかとか、どういう価値を求めていくかっていう所、それはどう決めていけばいいんでしょうか?

奥野:身も蓋もない話になりますが、それは自分で考えるしかないと思います。それこそが哲学だと思うんですよ。なぜ僕が小川さんにお会いして「この人だ」と思ったかというと、やっぱりそういうマインドセットやライフスタイル、自分の頭で考えるスタイルっていうことが、実はお金の話以上に重要だと思うんです。ということを僕がどれだけ言っても、所詮金融屋ですから伝わらないんですよね。そこをやっぱり小川さんは、それをずっと一般の人にもわかりやすく伝えてきた方だから、この人だと思ったんです。

小川:なるほど。それはたぶん今日は皆さんにも伝わったんじゃないかなと思いますね。最初の話でお金っていうのはやっぱり手段で、何をやりたいのかっていう価値と結び付けないと意味がないという話があったと思いますが、そういう風に考えると、やっぱり自分にとっての価値が何かっていうのを見極めないといけない。最後の奥野さんの話もやっぱり、自分にとって重要な領域を特定して、そこに集中して投資をして大きくしていくことが幸せにつながるというお話でした。

投資自体がどういうものかというのは真ん中の所で十分お話を頂きました。決してゲームやギャンブルではなくて、世の中を良くしていったり、自分が欲しいもの、良いと思うものが生まれることを想像して、それを求めていくことなんだというお話でした。それが結局何かっていうのを見極めることができたら、お金はそのための道具と輝くもので、宝の持ち腐れでもないし汚いものでもないし、有効なツールとして自分が欲しいものとかやりたいことを実現するための道具として使っていけるということなんだってよく分かりましたね。だから本当に最後の最後のところで、自分が求める価値は何なのかというのは、これは奥野さんに言わせると自立した自分になったら見えてくるっていうことですかね。

奥野:たぶん自立できるんです。ある所で自立するわけではないんです。偉そうなことを言ってみたって、僕だって明日雨が降ったらうっとうしいなって思ってしまうわけです。そんな雨程度の話で左右されてしまうくらい弱いです、たぶんみんなそうなんです。みんなそうなんだけれども、そこを意識できるかどうかなんですよね。エレベーターを待っている時に「なかなかこねーな、あ、でもこれは有能の境界の外にあるな」という風に思ったら、ちょっとイライラも収まりますよね。そういうことを繰り返すっていうことかなと思いますね。

一歩、踏み出してみる

小川:私がよく言っているのは、さっきのラッセルみたいな話なんですが、「とにかく何でもやってみなさい」とうことですね。そしたらひょんなことが趣味になったりします。

私で言えば韓国ドラマですよ。最初は時間の無駄かなと思ったけど、今じゃもうドハマリです。毎日2、3話見て睡眠不足ですよ。だからそういう風に何でも色々やってみるっていうのも一つだし、あとプラグマティズムで言うと、人間ってやっぱり叩き台がないと何がいいかって分からないですよね。これがやりたいとかって急に抽象的にポーンと出てくるわけじゃないですから。よく学生とも話をするんですけど、就活していて何がしたいかわかりませんって、そりゃやってみないと何がいいかわかんないよと。だから、僕は悪い先生と言われるんですけど、就活なんかどこ行ってもいいんだよと言っています。どうせ最初に行った所は叩き台で、あっちの芝生が青く見えるための道具に過ぎないから、まず何かやってみたらやりたいことが見えるよと。結局、何もやらない人に限って、何がしたいか分からないとか自分とっての価値が分からないと言っているんですよね。まずは、一歩踏み出すこと。

奥野:本当に一歩踏み出すってすごく大事だと思います。
これは企業の話ですが、「イノベーション」という言葉がありますよね。例えばAppleはすごくイノベーティブな会社でどんどんイノベーションを生んでいるとか言われます。

じゃあそのイノベーションっていう現象が本当にあるのか、明確なアイデアがあって一直線で進んでiPhoneができたのか、というとそんなことはないんですね。何を言っているかというと、最初からこういうイノベーションを起こそうと思ってAppleという会社があったわけではなくて、毎日毎日ちょっとずつ違うことをやっただけなんです。これやってみたらダメだった、じゃあこっちいこう。これやってみたらダメだった、じゃこっちいこうってやっているうちに、生き残った所がイノベーションなんです。イノベーションって、ビジネス本なんかでは、何やら最初からその定式や法則があるような書かれ方をしていますが、あんなのは嘘です。最終的な成果になったところにたまたまいた奴が自慢しているだけです。本当は這いずり回りながら毎日違うことをやるっていうことの結果でしかないんです。秀才になればなるほど、頭が良くなればなるほど何か法則のようなものが見えるような気がするんですが、そんなの幻想です。

小川:ありがとうございます。今ようやく奥野さんが誠実な方だというのが分かりました。

奥野:なんで今頃。

小川:そんなおいしい話はないっていうのを正直に言ってもらったような気がして。どうでしょう、最後に会場からご質問どうですか?

参加者:お二人がこれ幸せだなって感じる瞬間ってどんなときですか?

小川:これは哲学者として答えるべきか私の本音を言うべきか悩みますが……夜ハイボールを飲みながら韓国ドラマを見ること。急になんかしょぼい人になってしまいますね。

でも、ちょっと後付けにはなりますけど、やっぱり自分で自分をコントロールできているということですよね。もう何のストレスもない状態です、このことに関して自分ができないことないから。だって飲むだけだしテレビ観るだけでしょ。別になんにも自分が困ることないんですよね。全て自分で実現できているっていう、まさに有能の境界のど真ん中なんですよ。あとは、今のその作業がマネタイズできたらいいなと思っていて、韓国ドラマで哲学するという題材で本を書こうと思っているから、よりなんか有意義な気がしてものすごい幸せな時間になっているということです。

奥野:僕は別に変な意味じゃなくて、やっぱり僕らが投資している企業の思っているような利益が出る時。つまんない人だなと思われるかもしれないけど、あまり僕の中ではプライベートと仕事の区別がないんです。この考え方をもってうちの会社はブラックだという風に言われているんですが、僕にとってはそれが一番ハッピーなんです。自分がやりたいことをやりたいようにやらせてくれる会社なんてそうそう世の中にはないわけだし、そういう意味で言うともう毎日ハッピーです。こんな僕と一緒に働いている人がハッピーなのかどうか僕は知りません。それは僕の境界の外だから(笑)

小川:っていうことは結局一緒ですね。自分が完全にコントロールできて、将来のために見据えてやっているんだと思える時間ですよね。

奥野:最後に1個いいですか。「マチネの終わりに」っていう映画観た人います?ネタバレになっちゃうかもしれないけど、福山雅治と石田ゆり子が出ていて、その中のあるセリフがすごく好きなんです。

さっき言ったことともしかしたらちょっと矛盾しちゃうかもしれないんですけど、「人は未来しか変えられないと思っている。だけど実際は、常に未来が過去を変えているんだ」って言うんですね。かっこいいですよね、福山が言うと。

これは何言っているのかっていうと、実はここ(右上の領域)がここ(左上の領域)をちょっとずつ変えているということなんですよ。でも、実際そうだと思うんですよね。人間ってずっと生きている中で、過去のあの時の事実って実はちょっとずつ薔薇色に変わっていくんです。これはもしかしたら僕が幸せなだけかもしれませんけど。

過去から未来に向かって考えるのは不幸です。過去に縛られて、あんなことがあったから自分は今こうなっちゃっているんだっていう風に考えるのは不幸です。でも逆に、今こうなっているのは、昔のこういうようなことからつながっているんだ、あれも意味があったんだねって考えると、完全に事実が変わっているわけですよね。そういうことなのかなって。

小川:哲学でも結局過去っていうのは記憶の問題であって、だからいくらでも変えられるっていう考え方もあるんで、仰った通りだなと思います。

今日奥野さんのお話聞いていて一番やっぱり印象に残ったのは、私も何かやってみないと変わらないなってプラグマティズムの本書いていたから思ってはいたんですけど、イノベーションでさえそうなんだっていう話を聞いて、これはもうとにかく一歩踏み出さないとダメだなと思いましたね。だから皆さんもそうかもしれませんけど、たぶん多くの人が投資を始めますよ。

奥野:今日お越しいただいている皆さんは、もうそれだけで一歩を踏み出している。こういう場に来るのだってエネルギーいりますからね。そうやって何か少しでも動いてみる、違うことをやってみる。それだけで人生がちょっとずつ動き始めているんですよ。

小川:ってことは、ここに来た時点で皆さんは幸せになる一歩を踏み出したということで。

奥野:間違いない。

小川:では、その第一歩にエールを送りましょう。皆さんどうもありがとうございました。

(本シリーズ、終わり)