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『ONE PIECE FILM RED』ウタの「呪い」の言葉【中編※ネタバレ考察※】

※本記事は3部構成のうちの、中編に当たります。
前編からご覧になるとより分かりやすい内容となっています。
下記リンクから前編の記事にとべます。

【前編】

ルフィとシャンクスの見つめるモノ

 本作のラスト2カット(スタッフロール前)においてルフィとシャンクスは何かを決意した表情を見せます。
(また、この時にルフィとシャンクスが真逆の方向を見つめるという画面構成をしていることから対比表現があることが分かる。)

①:別々の何かを見つめるルフィとシャンクス

 この2人の視線を読み解くには本作でのルフィとシャンクスの役割を考える必要があります。

 結論から書けば、ルフィは「『夢』を続ける責任を負う者」で、シャンクスは「『夢』を葬る責任を負う者」という役割を持っています。

 まずはルフィから確認していきましょう!

ルフィの『夢』とウタの『夢』の衝突

 本作でのルフィは割と影が薄いと私は感じたんですけど、皆さんはどうでしょうか。
 原因として出番が少ないという点も大きいと思いますが、ここで注目していただきたいのは中盤、ルフィがウタへの攻撃をわざと外した場面です。

①:攻撃をわざと外すルフィとそれを見透かすウタ

 これはなぜかという問いに世界観に沿って答えるならば、ルフィがウタのことを大事に思っているから、と言えます。
 しかしここまで述べてきた内容を用いてメタい視点で答えると、ここでウタを蹴っ飛ばしてしまうとこの映画・物語・『夢』が終わってしまうからだと言えます。

 元も子もない表現になりますが、ルフィは主人公である以上、物語を投げ出すことができません。だからこそ自分の物語・海賊王になるという『夢』を終わらせることを目的にしているウタを対処しなければならないのですが、中盤に攻撃してしまえばそれはウタの思う壺。

 つまりルフィとウタは自分の『夢』を終わらせないために相手の『夢』を終わらせなければならないのですが、相手の『夢』を終わらせると自分の『夢』も終わってしまうため、終わらせられないという”どっちつかずな状態”に陥っている構造なのです。

 下の引用画像はまさにそのメタフィクション的な”どっちつかずな状態”を表現しているカットです。
 構成としては左から主人公ルフィ、中央に画面のこちら側(現実)へ続いていると解釈できる橋、右に本作のヴィラン役ウタ。

①:画面のこちら側(現実)へ続いている橋と、衝突するルフィとウタ

ウタの「呪い」と作家の責任①

 終盤になってご都合主義的にウタを撃破することに成功するルフィ。
 それは先にも書いたとおり、終盤だからこそできることです。

 主人公としてウタを撃破したルフィはウタとの別れ際に何を思ったのでしょう。

①:ウタから麦わら帽子を返してもらって涙を流すルフィ

 ウタはルフィにこのような言葉を残していきます。

ウ タ
「私にとっても 大事な帽子
いつかきっと これが
 もっと似合う男になるんだぞ」

 これはとても感動的に聞こえるかもしれませんが、よくよく考えてみるとじつは恐ろしい「呪い」のセリフなのです!

 思い出してください。
 この麦わら帽子はシャンクスから預かっているモノなのです。

②, pp50~51:シャンクスから帽子を預かるルフィ

 この麦わら帽子は、いつかウタのように元の持ち主に返さなければならないはずのものなのです。
 それを明らかに上の画像でのシャンクスのセリフをなぞるように、ウタは「いつかこれが似合う男になれ」と「自分のものにしろ」と言い放ちます。

 つまりウタのセリフはこのように変換することができるのです!

ウ タ
「この麦わらを返すな
 被り続けて、冒険し続けろ」

 このようにウタはまたルフィを『夢』の世界へと押し返したのです。
 恐ろしい…。

 さてこの「呪い」の言葉にルフィはどう対処するのか。

 それはラスト(エンドロール後)のセリフに如実に現れています。

①:いつものセリフを言うルフィ

 はい。
 ルフィは冒険を続けることを受け入れたのです。
 いや、受け入れる”しかない”のです。
 なぜならルフィは主人公だからです。

 しかしもっと引いた視点から見ると、このルフィのセリフには監督、脚本家、アニメーター、ひいては原作者である尾田栄一郎の気持ちを代弁しているとも考えられます。

 つまりルフィの視線・セリフは、

まだ『ONE PIECE』は終わらないぞ!
まだウソでもホントでもない『夢』を描き続けるぞ!

①:作家たちを代弁するルフィ

 という「『夢』を続ける責任を負う者」である作家たちの決意表明をルフィは代弁しているのです!


後編のリンクはこちら

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