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本日から、アルバム『Beatles For Sale』収録曲の解説に移ります!
ボブ・ディランとの出会いからのフォーク色の強まった作風の変化。
楽しんでいきましょう。

アルバム『Beatles For Sale』について

ビートルズ4枚目のアルバム『Beatles For Sale』は、1964年12月4日に発売されました。
タイトルは発売時期からお察しの通り、クリスマス商戦に引っ掛けたものですが、当時のビートルズの異常なほどの人気をも反映しています。

アルバムに通底する雰囲気を一言で表せば、「大人になっていくビートルズ」でしょうか。
ジャケット写真の4人の表情も、どことなく物憂げで大人っぽいですね。
ジョージの髪が玉ねぎのようになっているのはご愛嬌(笑)。

これは、メンバー個々の精神的成熟に加え、ボブ・ディランとの出会いが大きく影響しています。

ボブ・ディランはビートルズと同じ1962年に、アメリカでデビューします。
当初は生粋のフォーク歌手で、 “Blowin’ In The Wind” をはじめとした社会派ソングで、学生たちの心を掴みます。

当時のイギリスには、こういった若者の社会運動に紐づいたような曲を作るアーティストは出ておらず、アメリカに渡ったビートルズはたいそう衝撃を受けたそうです。

それどころか、実際にディランに面会したビートルズは、彼に「君たちの曲には中身がないよね」と一刀両断されてしまいます。

確かに、これまでのビートルズは「僕と君」のラブソングが中心。
当時のディランや、彼を支持する若者達からは、物足りなく映ったのかもしれません。

そんな意見を聞いたジョンは、悔しがるかと思いきや「たしかにそうかもしれん!」と、自分の詩作を見直し始めます。

『Beatles For Sale』は、そんな彼らの脱皮の過程が始まる時期に位置付けることができる作品です。

とはいえ、鬼畜とも言えるライブのスケジュールに追われる毎日。
じっくり腰を据えて新しいことに取り組む暇も無く、突貫工事でのレコーディングを強いられます。
結果、レノン=マッカートニー作品8曲、カバー6曲(うち1曲はメドレー)と、再びカバーを多く取り入れる選曲となっています。

シリアスな始まりが新たなビートルズを告げる “No Reply”

『Beatles For Sale』1曲目。
ジョンの作品で、リードボーカルもジョンが務めます。

出だしの不安げなボーカルが、一気にリスナーの心を掴みます。
そして、すぐさま入ってくる控えめなアコギは、「今度のビートルズは一味違う」という予感を強くさせます。

その予感は現実に。
「♪I saw the light, I saw the light」とシャウトするジョンとポールの声は破壊的で、ショッキングですらあります。

そんな “No Reply”。
これまでには見られなかったシリアスな雰囲気と同様、詩作にもジョン独自の進化が見られる最初期の例です。

「彼女を他の男に取られる」という、一見これまでにも取り組んできたような失恋ソングですが、よく聴いてみると、情景描写がこれまでになく豊かになっていることに気づくでしょう。

突然連絡が取れなくなった彼女。
居留守を使っても、窓から彼女の姿は見える。
他の男と手をとって家に入る姿…。
シンプルですがあまりに生々しく、聴いている側も胸が締め付けられそうです。

張り裂けそうな心情を叫ぶサビは、ポールが高音域を歌っていますが、最初はジョンが高音担当だったそうです。
ところが、ジョンが喉を痛めていたために変更になったのだとか。
ここにも、ハードすぎるライブ活動のあとが窺えます。

サビの合いの手を入れるように入る、銅鑼のようにシンバルを鳴らすドラムも印象的です。
主人公の悲痛な心情を一層際立たせ、ドラマチックに仕上げています。

この曲を聴いた関係者たちは、「ジョン、なんか大人になったなあ」と感嘆したのだとか。

ロックンロールにR&Bに加え、心情豊かなフォークの色も加わったビートルズ。
アルバムのトップナンバーとして、他ほど取り上げられることは少ないですが、新たなビートルズの始まりを告げるという意味では、もっと重要視されて良い曲です。

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