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2017年9月17日 11:09
私は霧の中を歩いていた。誰かが前を歩いているような気がしたが、その人影はぼんやりと霧の中に隠されて、誰だか分からなかった。しかしどうやら、霧の向こう側から、無言で私を誘導しているらしい。私は安堵して彼のあとを追った。霧は深く、宙に漂う水滴一粒一粒がやけに大きい。魚の群れのように、水滴が空中で波をつくり、音もなく蠕動している。霧にまかれているはずなのに、不思議と肌は湿っていなかった。足にも感触
2017年9月12日 00:51
人疲れした夜は、誰もいない街を想像する。東京という大都会に、人が忽然といなくなった、静まり返った夜。都心から郊外へ、血脈のようにはりめぐらされた線路の上を、さびた鉄の音を軋ませながら、無人の電車が走っていく。繁華街のネオンは、招く客がいないのも無頓着な様子で、ただこうこうと光を放っているままだ。入り組んだ首都高はオレンジ色の光に照らされ、東京タワーは明々と夜闇に浮かび上がり、そびえ立つス