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第2回 民主主義を実装する

2022年2月28日(月)に開催した、沼津市民シンクタンクキックオフ連続講座「まちづくりってなんだっけ」の第二回目のテーマは「民主主義を実装する」

ゲストには、茨城で活躍するVoice and Voteの徳田太郎さん、行政DXを手掛ける株式会社Liquitousの栗本拓幸さんをお呼びした。

徳田さんのお話し

最初のスピーカーは、徳田太郎さん。話し合いをキーワードに、政治学の研究をしているとのこと。

Voice and Voteは、  デモクラシーのバージョンアップを目的にする団体。「みんなが声を上げる、みんなで話し合っていく、みんなが決定に参加している」ことを目指す。

まず、徳田さんは、私たちの思い込みを崩してくれる。選挙は貴族制、議会は身分制、多数決は専制が民主主義と思ったら大間違い。これらは、民主主義とは関係ない。

そこで、一体、何が大切なのか。

「人民による、人民のための」が民主主義のポイント。私たちが私たちの手で平等にかかわること。正統性(みんなで決める)と正当性(みんなのため)の二つが大切。男女の偏りや資金力による偏りがあってはならない。

そこで、民主主義のイノベーションが取り組まれてきた。たとえば、抽選による代表制や熟議の制度化。市民会議、参加型予算、市民発案/直接投票、協調的ガバナンスなどがある。

市民会議とは、抽選制議会。抽選で社会の縮図をつくり、話しあって投票をし、提言・勧告をつくる。
気候市民会議がその代表例。このためには、2段階の抽選を行う。一回目は無作為抽出、二回目は希望者の中から多様性を確保するためのクオータ抽出。こうやって、ミニ・パブリックス(100人の村)をつくる。この議会が、数か月間の会議を行い、学習、熟議、投票を行い、提言は、法律や政策に反映される。アイルランドに例があるとのこと。ベルギーには常設型の抽選制議会もある。市民対話を行い議題をつくる。その一方で、選挙制の議会もある。日本では、総務省がかつて「議会参画員」を提言している。

次は、イニシアチブとレファレンダム。これは、アクセルとブレーキに当たる。

イニシアチブとは、署名→投票→立法のプロセス。直接イニシアチブと間接イニシアチブがある。直接イニシアチブは、投票の結果が、そのまま議会の評決になる。間接イニシアチブは、議会が受け入れなかったときに、住民投票になる。日本では、直接請求と言って、議会に審議してもらうだけの仕組みはあるが、直接投票がない。とはいえ、常設型の住民投票条例をつくることは可能であり、94の自治体で制定されており、議会の拒否権を回避できる。とはいえ、条例である限り、議会による改廃の可能性がある。

そこで、できそうなのは、単発の市民議会である。

理想形は、市民発案を、市民議会が議論して正当性を担保し、それを、直接投票で正統性を担保するもの。オレゴン州の市民発案レビューがそれである。熟議ののちに、投票を行うのが大切。

栗本さんのお話し

次のスピーカーは、栗本拓幸さん。なんと22歳。18歳選挙権から若者の政治参加に関心を持ち、次に、行政参加、そして、今は、地方議員のコンサルタントに力を入れているとのこと。市民の声が大事であり、テクノロジーを使って意見を聞くことに取り組んでいる。

まず、マジョリティとマイノリティの合意調整が問題になる。こうした合意調整は難しいので、場を開くことに躊躇しがちになる。「公正な移行」のためには、新たな参画の仕組みが必要で、関係人口にも参加してもらいたい。

そこで、新しい回路として、デジタルな仕組みを提案していく。ただし、この仕組みには、ガバナンスの視点が必要である。そこで、Liquitousでは、参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid」を開発している。そこでは、テーマ別に部屋があり、オンライン上でより良い案をつくっていくことができる。これが、参加型予算のようなものに転化していくことを構想している。市民議会のオンライン版に変えられるのではないか。

このような取組みを7自治体と進めている(他にもあるが、「7」は公表できる数)。スマートシティ、スーパーシティ、コンパクトシティなどといわれる取り組みである。たとえば、横瀬町における町有地利用のためのトライアル的運用、府中市のサウンディング調査、土佐町の基礎調査からの市民参加、河内長野市のデジタルデバイドをのりこえためのタブレット配布がある。大事なのは、新しいオンラインの接点をつくっていくこと。若い人がターゲットではなく、全員がターゲット。

このあと、欧州、南米を中心に、アジアでは台湾など、海外には、行政が運用し市民が参加する事例が30くらいある。たとえば、ヘルシンキ市では、課題提出から、共創/提案/コスト査定、そして、投票、実践というプロセスができている。マドリッド市の参加型予算では、討論、提案、支持、投票コスト査定と実現可能性のレポート、実行というプロセスである。パリ市は、プラットフォームが形成されており、オフラインのワークショップが開かれる。毎年、時期が決まっており、提案から、共創、選定と公開、投票、予算への反映という流れになっている。

このように、民主主義を実装するためには、デジタルとアナログと切り分ける意味はないが、そのためには、ネットアクセスの権利を保障しなければならない。たとえば、エストニアでは、公共情報法や公共図書館法(つまり、憲法ではない)で、アクセス権がユニバーサルサービスとして保障されている。このほか、スペインでは一般電気通信法、トルコではユニバーサルサービス法で保障している。

ところで、しばしば、ネット世論は民意を代表していないと言われるが、それはツールの使い方の問題である。たしかに、課題はある。たとえば、広告やマーケティング技術の政治利用(トランプの選挙、Brexit)、テクノロジーのブラックボックス化、スマートシティにおけるデータ利用の課題(データ取得に当たって意思表示の保障がなく、取得目的が説明されていない)といった問題である。とりわけ、ソリューショニズム、つまり、技術という解決策が先にあり、目的を見失っているという批判は重要である。

栗本さんが課題と感じているのは、技術的知見は欠かすことはできないが、技術的知見があるからと言って公共政策的課題への知見があるわけではないという矛盾であり、両方知っている人がムラ化してしまうという問題である。大事なのは、まずは、公のあるべき姿の議論をすること、単なる意見収集ではなく行政職員が共創していくことである。

質疑応答

以下、次のような質疑応答が行われた。

(問い) インターネットに答えがあるのだろうか。答えを見つけるというより、答えをみんなでつくっていくことが大事ではないか。
(答え)
徳田 正統性と正当性という観点に戻るのが大事。つまり、みんなで考えてみんなのためになるかどうかを考える。本当にみんなのためになるかはわからないけれども話し合って、理に適った結論に近づけていくことが大事。そうすることで、選挙によってえらばれた議会の機能不全を手当てしていくこと、回路を増やしていくこと。
栗本 答えはどこにもない。だからこそ、民主主義という仕組みをつくりだした。困難なときだからこそ民主主義という仕組みを使い、一部の人ではなく、一人一人が参加していくことが大事である。

(問い)
市民不在で、行政が意思決定することが多く、裏には、コンサルがいることが多い。市民参加の仕組みがあれば、コンサルは要らないんじゃないか。
(答え)
徳田 専門家が決めるのは民主主義ではない。専門家の役割は情報提供をすることである。一方で、抽選で選ばれた人たちは、実は、専門家の集団である。専門家は色々使える存在だと思う。
栗本 専門家の存在を否定することはない。むしろ、市民が対抗する力・未来を描く力が弱っている。だからこそ、市民が参加することが大事。行政も市民の意見を求めている。

(問い) 
海外の事例はすごいなあと思う。海外の事例を紹介して日本の市民を啓発しなければと思うがどうか。
(答え) 
栗本 今は、日本国内でもできるという成功体験をつくるフェーズだと思う。だからこそ、自分たちでそれをやっている。日本でどう実装するかに取り組みたい。

(問い) 
集めた声をどうやって政策立案に含めていくかが難しい。意見を集めて生かしていくスキーム・フローがはっきりしない。議会もあってパブコメもある中で合意形成プラットフォームをどう生かしたらよいか。
(答え)
栗本 政策形成プロセスの中で意見をどう活用するかはこれからの課題である。現時点では、自治体の大半はオンライン上で意見を聞くところから始めるという段階にある。予算を付ける仕組みを作っていくのがこれからの課題

(問い) 
土佐町の話をもう少し詳しく聞きたい。IT化が進んでいるが、町内会長がやらされて大変という感じになっていないのだろうか。高齢者は当事者として理解をしているのか。どんな働きかけをしているのか。
(答え)
栗本 今やっているのは、基礎調査。改革をする前の状態を把握する為のまっさらな状態での調査である。たとえば、「どういった感覚で住んでいますか」「どんな参加をしたことがありますか」「デジタルについてどう考えていますか」といった問いである。町と地区長会の関係は深く、信頼関係に基づいてやっている。土佐町は人口4000人で、大手のコンサルが入る自治体ではない。

 (問い)
この小規模の自治体に入る価値はなにか
(答え)
栗本 4000人という規模は、街区として街づくりの単位といえるので、今後の試行にもなる。また、テクノロジーを使えば、町の外に出てしまった人、これから入ってくる人を巻き込むことができる。また、この規模の自治体なら全戸調査ができる。

(問い)
民主主義とデジタルのできる人はどうやって育てたらよいのか
(答え)
栗本 地道な取り組みしかないと思う。身近なテーマについて身近なところから議論する経験を積み重ねる。デジタルな仕組みを使って、学校で総合的な学習や探究学習で継続的に、行政に参加するというのはよいと思う
徳田 時間が解決すると思う。そのときに地道に話し合って決めるのか、AIが決めるのかどっちになるかが心配である。

(問い)
これまで、ワークショップでまちづくりをやってきたが、結局、議会にまわるとグダグダになる。デジタルや抽選制に変わっても意味があるのだろうか。
(答え) 
徳田 まちづくりワークショップは、意見のある人が集まってしまうので、正統性がない。単発から常設になると、誰もが選ばれるようになってきて、正統性が担保できる。一方で、WSで出てきたものをどう扱うかが曖昧になると不幸な結果になる。出てきたものをどう扱うかが重要である。これは、政治家の役割である。
栗本 Liquitousが、なぜ、事業としてやっているかといえば、継続的にやる必要があるから。長い時間をかけてやるためには、事業として自走できることが大事である。法人であれば中立的な立場が取れ、長く法人を続けることで自治体に対し言い続けることができる。

(問い) 
ITはツールの一つであって、本質は地道にやっていくべき。どんな料理を作るのかという目的のほうが大事ではないか。
(答え)
栗本 大根おろしをつくってくださいといわれて、おろし器があるから、大根おろしがつくれる。ツールも重要だし、ツールをつくって何を作るのかも重要

担当者の所感

私たちが、地域において、どうやって市民の意志を反映させるか、その近未来がよく見えたと思う。参加型民主主義の基本的理念(正当性と正統性)を踏まえた上で、ツールを実装していく。