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秋、はじめました。

ある日突然、姿が見えなくなった。
さよならも言わずに去っていった。
急すぎる別れだから、余計に胸に残る。
そんな終わり方だった、今年の夏。

気力と体力を奪い続ける暑さに、ほとほと辟易していたのは事実。
もううんざりだ、勘弁してくれと悪態もついた。
でも、だからって、こんなに急に居なくならなくてもいいじゃないか。

去りかけている気配に気づき、そうかもうそろそろお別れか、いろいろ文句も言ったけどありがとうね、と少し感傷的な気持ちになって見送るところまでが、私にとっての夏なのだ。
枝豆、もろきゅう、サンダル、ひとつひとつを「夏じまい」していくあの数日間がないと、次の季節を迎える心の準備ができない気がしてしまう。困ったなあ。

そんな戸惑い気分を連れて、散歩に出た。
空は晴れ、風は涼しく、枯れ葉を踏む音が心地よい。だんだん機嫌が良くなってきて、思ったよりも遠くまで来てしまった。
大きな公園を抜けていくと、広場でイベントをやっている。「野菜直売」「唐揚げ」「たこ焼き」などのノボリの向こうに「クラフトビ」と見えた。これはもう、アレに決まっている! 迷わず方向転換して賑わいの中を進んでいくと、やはり思った通りだった。

青空の下でクラフトビール。最高。

ひさしぶりの屋外ビールは最高においしかった。
ごくごくと飲むほどに気分は晴れ、なめらかな泡と一緒に夏への未練が流されていく。見上げる空はどこまでも青く広がっていた。
バイバイ、また来年ね。この一杯で、私の夏じまいは終わった。


さあ、次の季節を迎えに行こう。
「秋はじめ」の一杯を飲むために、私は再び列に並んだ。
ギラギラの陽射しも、刺すような照り返しも、もうそこにはない。だからちょっとくらい待たされても大丈夫。

さっきとは違う種類を飲みたいな。
唐揚げもいっちゃおうかな。
ああ、いい日だな。

こんなにウキウキするなんて、秋っていいじゃん。
秋、最高!

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