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第5章 本屋をダウンサイジングする(5)

 人をできるだけ雇わず、ひとりで目が行き届くようにするとなると、自ずと面積も決まってくる。物件の形にもよるが、具体的には二〇~三〇坪くらいだろう。

 それは、物理的に視線が行き届く限界であると同時に、作業量的な限界でもある。新品の本であれば年間八万点の本が出版され、古本であればその蓄積がすべて商品となり得る。それらが毎日売れていき、そのぶん新しいものが入荷する、変化のある売り場をつくり続けなければ、客も飽きてしまう。売り場の全体に、そのような変化を少しずつ出し続けられるように目配せする作業を、ひとりでやらなければならない。この部分は、経験や業態によってもまるで違うだろうが、やはり二〇~三〇坪がひとつの目安となる。本の点数でいうと数千~一万数千タイトルくらいだろう。

 店主の目が行き届くということは、客の目が行き届くということでもある。大型書店では、人の出入りを常に把握し、いま何人の客がいるかを認識することは難しいが、小さな本屋であれば、客が入ってきた瞬間にわかる。この客は自分の店で本を買いそうか。以前に来たことがあるか。店主がそんなことを考えているうちに、客の側も店内を見渡して、興味を引かれる本はあるか、あるとしたらどのあたりかを、目で探している。逆にあまりに狭すぎると、距離が近すぎて、本が選びにくいと感じる人もいるかもしれない。適度な広さが、ちょうどよい距離感を生む。

 だからサイズ感は、接客にもかかわっている。狭い空間の中に長時間いれば、会計をするときなどに、自然とコミュニケーションが生まれやすい。たとえ同じ本を後からAmazonで買えるとしても、いま直接この店で買いたい、また次も来たいと思ってもらえるような接客ができれば、いくらテクノロジーが進もうとも、リアルな店を続けていける。小さな本屋こそ、人と人との関係づくりが大切だ。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P193-P195より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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