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自分の関心を追究し、自分に合う専攻を探せるアメリカの大学カリキュラム


はじめに

TOEFL Web Magazineの筆者の連載コラムFor Lifelong Englishに2015年に掲載した記事です。留学を考えている高校生や大学生に向けて書いた記事です。 別稿「アメリカ理系Ph.D.取得者、日本人は大激減、中国人、インド人、韓国人、台湾人は大激増 Survey Earned Doctrates調査」、また、「新留学事情:目指す分野の「本場」で学びたい!がもたらす海外留学」(その1)および(その2)で触れたように、現在アメリカ留学が激減していると聞き改めてお届けします。本文中参照サイトは2015年当時のものです。


大学は自分探しの旅、一味違うアメリカの大学、ワシントン州立大学を例に

日本人の男女平均寿命は、現在、80才前後です。将来はそれ以上に伸びるかもしれません。高校生や大学生は、その4分の1程度の道のりを辿りつつあり、これからの行く先をじっくり考える時期と言ってよいでしょう。アメリカの大学の良さは、大学教育を自分探しの旅と位置づけていることではないでしょうか。日本では、高校生のうちから進学か就職か、進学するなら公立か私立か、専攻は理系か文系かを考えさせられます。今回(2015年現在)はワシントン州の州立総合大学ワシントン大学(University of Washington)略称UWを例に、日本の大学とひと味違うアメリカの大学の教育方針の大枠についてお話しします。

卒業必要単位180、3つの科群から

UWの“UW Undergraduate Advising: Degree Requirements”と称するサイトを開くとパイチャートの図が出てきます。UWでは、どの学部でも卒業に必要な単位(credits)は180 単位です。 大きく分けて、1.General Education(一般教育科目)、2.Major(専門科目)、3.Electives & Optional Minors(選択科目&オプショナル副専攻科目)の3つの科目群があり、それぞれ以下のように細分されています。

  • 1.General Education(一般教育科目、最低50単位取得し、90単位までを卒業単位に認定)

  • (1)Area of Knowledge(知識分野科目)

    • 1)Visual, Literacy, Performing Arts(VLPA、ビジュアル、リテラシー、パーフォーミング・アーツ)

    • 2)Individuals & Societies(IBS、個人と社会)

    • 3)Natural World(NW、自然世界)

  • (2)Basic Skills(ベーシック・スキル科目)

  • 2. Major(各専攻の専門科目、最低50単位取得し100単位までを卒業単位に認める)

  • (1)Prerequisite courses(専門導入科目)

  • (2)Core courses(専門コア科目)

  • (3)Program electives(専門プログラム選択科目)

  • 3.Electives & Optional Minors(選択科目 & 副専攻科目)

それぞれの科目群の具体名は省略しますが、沢山のコースと科目が設置されています。科目数の多さもさることながら、卒業単位180に対して、1のGeneral Educationは50単位~90単位で、2のMajorは50単位~100単位とされています。ただし、3のElectives & Optional Minorsは下限も上限もありません。ということは、卒業単位の半分をGeneral Educationの単位で満たせることになります。Majorで50単位、すなわち卒業単位180単位の3分の1以下でもMajorの単位を満たす事ができます。その場合、恐らく3のElectivesの科目を取るか、Optional Minorsを併用することになるでしょう。

こうしたことを可能にしているのは、まさしくこの3のElectives & Optional Minorsで、オプションで副専攻を選択できる制度です。UWだけではなく、他の多くの大学でも設置されており、理系専攻の学生が、文系副専攻を選択するというケースはよくあります。もちろん、その逆のケースもあります。大学に入ってから他分野への興味を持つようになることはよくありますが、それは副専攻の分野の視点から専攻分野を見直す事により、新しい発想が生まれることがあるからでしょう。

アメリカの大学は専門に特化せず幅広い知識を

アメリカの大学カリキュラムは、入学直後から専門分野に特化するというイメージを持つかもしれませんが、Harvard大学のCore curriculum (The Harvard College Curricurum and Graduation Requirements2024年5月現在)などをみると、そうではなさそうだということに気づくでしょう。Harvard大学のCore curriculumでは、冒頭に大学生が幅広い知識と技法を身につけるよう謳い、以下のような科目群を設置しています。

Foreign Cultures
Moral Reasoning
Historical Study A
Quantitative Reasoning
Historical Study B
Science A
Literature and Arts A
Science B
Literature and Arts B
Social Analysis
Literature and Arts C

全学生が取らなければなりません。幅広い知識と技法の上で専門知識を身につけることを教育の目標としているからです。

アメリカの大学学部には専門性が高い法学部と医学部が無い


ちなみに、以前このコラムで述べたように、アメリカの大学には医学部と法学部はありません。大学卒業後に各地の大学に設置されているMedical School(School of Medicine)やLaw Schoolに入らなければ成りません。どこの総合大学でもpre-med courseがあり、それを取れば各地に散らばるMedical Schoolを受験できます。極端なケースでは、学部で文学専攻でもpre-med course requirementsを満たしていればよいのです。日本の大学の医学部受験に失敗したからといって医学の道を諦める必要は無いのです。UWのPre-med course requirementsを見てみましょう。UWのElectives & Optional Minors科目群に設置されているでしょう。

1970年に遡りますが、筆者はSan FranciscoにあるUniversity of California Medical School で歯の治療を受けていた時に、多くの日系三世の医学生に会いました。何人かは大学に入った当初には医学など考えた事が無かったものの、そのうち関心を持つようになりpre-med courseを取り、合格してUC Medical Schoolに入ったと述べていました。また、1990年代筆者が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで立ち上げたWilliam and Mary大学での夏季研修で、アシスタントとして参加してくれたAmerican studies専攻の学生の中に、卒業後にHarvard Medical Schoolに進学した人がいたと記憶しています。彼女も学部中にpre-med courseも取っていたことになります。

日本の大学の一般教育科目とアメリカの大学のそれとの決定的違い

話は少々逸れましたが、日本の大学にも一般教育科目はありますが、総じてアメリカのそれとは差違があります。まず、アメリカの一般教育科は、外国語も含めてかなり厳しいことです。また、内容的にもいわゆる一般教養的な授業ではなく、将来学問をする上で必要な基本的なこと、特に、リサーチ、プレゼンテーション、ディスカッションの方法を徹底的に訓練することです。筆者の記憶では、1970年代のカリフォルニア大学Berkeley校では、1、2年生でほぼ半分の学生がGPA(grade point average)2.0、すなわちA, B, C, D, Fの5段階評価C 以上の平均点が取れずに退学(flunk out)していました。

現在ではこれほど厳しくないかもしれません。いずれにせよ、これら多くの大学でオンライン・コースを配信しています。一見の価値ありです。アクセスしてみましょう。


2024年5月後記

その後のCOVID-19 パンデミックでアメリカの大学は変革をしています。しかし、上記で述べた基本路線に変化はありません。むしろオンライン化も含め学生のニーズに合うカリキュラム編成に相当の力を入れています。例に挙げたUniversity of Washington(2024年5月現在)のホームページをチェックしてみてください。本文中には触れませんでしたが、日本では入学後の転部・転校は大変ですが、アメリカではよく見られる光景です。大学院などは他大学に行くのが普通です。自分探しのライフスタイルに合います。筆者などは10年の間に5校、アメリカは東西南北を渡り歩きました。アメリカ人の友人の中には国内のみか外国も合わせて5校、6校なんてのも居ました。


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