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新留学事情:目指す分野の「本場」で学びたい!がもたらす海外留学(その2)


はじめに

今から8年前2016年に掲載した「新留学事情:目指す分野の「本場」で学びたい!がもたらす海外留学」記事です。(その1)と(その2)に分け少々加筆しお届けしています。前半(その1)では、何でも留学するということではなく、まず、自らの領域の「本場」the home of learningを見極めることが大切で、それが海外にあればそこに出向くということです。

いずれにせよ「本場」での「修行」は大変です。もしアメリカであるなら日本の大学入試で勉強する科目、特にverbal(English)とmathで向こうのネイティブと比肩する英語力が必要です。ご存じのように、SATのverbalの難易度はTOEFL iBTどころではありません。「アメリカ理系Ph.D.取得者、日本人は大激減、中国人、インド人、韓国人、台湾人は大激増 ・・・Survey Earned Doctrates調査」で述べたように、外国人には無理だと言っても中国、インド、韓国などからは学部、大学院に大勢の学生を送っています。圧倒的に理系です。理系の「本場」がアメリカだからでしょう。

しかし、2016年にはすでに日本人の海外留学への志向が希薄になりつつあり懸念する声も…..

留学への関心の薄さは「本場」に身を置く精神の希薄さ

(2016年現在)ここ数年の日本では、SATのみかTOEFL iBTテストにさえチャレンジする事を避けてしまう消極性が、高校生のみならず大学生の間でも際立っているように見えます。それはアメリカ留学への関心が薄れていることと無関係ではありません。どうやらアメリカだけではなく他の国への留学も芳しくないようです。言い換えれば、「本場」に身を置きチャレンジする精神が一時期より希薄になっているものと思えます。それを反映してか、ここ数年アメリカでは日本人留学生の数が著しく減っていることが話題になっているようです。

そこで、インターネットでHow many Japanese students are in US universities?(2016年現在)と入力し検索すると、“Why are so few Japanese overseas students in the U.S, compared to the number of students from other Asian countries? ”との質問をしているサイトを見つけました。一般のアメリカ人が現地から4年前の2012年に掲げたものです。早速読んでみました。

この人は東海岸の大学で6年間(2006年から2012年の6年間)勉強していたそうですが、その時に見かけた日本人留学生の数が他のアジア諸国の留学生のそれと比べて極少数であったこと、The New York Timesの“Young and Global Need Not Apply in Japan”と称する記事を読み、自分が見て感じた通りであったと述べ、次の2つの質問をネットで投げかけています。(1)日本人は海外留学を望んでいるのか?(2)日本人にとって海外留学に対する認識とモチベーションとは何か?

この人がこれら2つの質問をするきっかけになったこのニューヨークタイムズの記事は、2012年前後に海外留学から日本に帰り就活をした何人かの人たちのインタビューに基づいて書かれています。欧米のトップ校の学位を持ちながら日本の企業で冷遇されたこと等が記載され、それが海外留学へのモチベーションを下げていると結んでいます。ちなみに、この人が投げた2つの質問への反応もそのような内容のものでした。

アメリカにおける大学、大学院在籍留学生国別統計、かつては断トツでトップの日本は7位に後退(アメリカ大手新聞)

具体的な人数を見てみましょう。2012年11月28日のCBS News“10 Most Popular Universities for Foreign Students”は、2012年におけるアメリカの大学や大学院の留学生の数を国別に分け、上位10か国を発表しています。

1位 China(194,029)
2位 India(103,895)
3位 South Korea(73,351)
4位 Saudi Arabia(22,704)
5位 Canada(27,546)
6位 Taiwan(24,818)
7位 Japan(21,290)
8位 Vietnam(14,888)
9位 Mexico(13,713)
10位 Turkey(12,184)

日本は7位に名を連ねているものの、実は、かつてのダントツ1位の座から大きく後退しています。その激減幅については、上述のThe New York Timesの記事Young and Global Need Not Apply in Japan”を筆頭に、The Washington Postの“Once drawn to U.S. universities, more Japanese students staying home”と称する記事、The Wall Street Journal誌の“Home Schooling: Fewer Japanese Head to U.S. Universities”と称する記事、ニューヨーク発共同では“Number of Japanese students at U.S. colleges dips 1.2%”と称する記事で扱われています。

この件に関するアメリカの大手新聞・報道の関心の高さが窺えます。共同の記事は2012年以降の最新データを基に、2013-2014年度の日本人留学生の数は前年度から更に1.2%減って約19,000人までに減少し、全米留学生の内の2.2%を占めるに過ぎないこと、1994年から1997年には47,000人を送りトップの“the leading dispatcher of foreign students to the United States”であったことを報告しています。

ハーバード、中国、インド、韓国からの留学生2倍、日本人たったの1名!(2009年)

これら全ての記事に共通してみられるのは、中国、インド、韓国からの留学生の急激な増加に比較して日本からの留学生が急激に減少したことに対する驚きです。The Washington Postの記事とThe Wall Street誌の記事のデータを総合すると、2000年からの10年で、中国からの留学生の数は約164%伸びて全留学生中18%、インドからの留学生は190%伸びて全体の15%、韓国からの留学生は日本人留学生の2倍半の10%を占めるのに反して、日本からの留学生は逆に52%減り全体の3%を占めるに過ぎないと報告しています。例えば、Harvard大学では、中国、インド、韓国からの留学生が2倍に増えているのに、日本からの留学生は減り続け、2009–2010年度の入学者は、

“Just one Japanese undergraduate entered Harvard's freshman class last fall [Fall, 2009].”

なんと1名であったと嘆いています。(“Once drawn to U.S. universities, more Japanese students staying home”参照)

The Washington Post誌の記事の以下の文には、これらアメリカの主要新聞の論調のbottom line(要点)が隠されています。

It is a steep, sustained and potentially harmful decline for an export-dependent nation that is losing global market share to its highly competitive Asian neighbors, whose students are stampeding into American schools.

すなわち、競争相手のアジア隣国に貿易グローバル・マーケットのシェアを奪われつつある貿易立国日本にとって、この減少傾向は高くつくであろうということです。アメリカの大学から撤退することは、グローバル競争から撤退することになりうると見ているからでしょう。

これらの記事の論調、優秀な日本の若者がアメリカの大学に来てもらいたいという気持ちか

そうした見方に同意するか否かは、冒頭で述べたとおり、グローバル社会においてそれぞれの学問分野を学ぶ「本場」がアメリカの大学であるか否かにあるかでしょう。多様化するグロ—バル社会にあって、目指す分野も多様化し「本場」がどこにあるのかは一様ではなく、それぞれが真剣に考える必要があります。もしその「本場」がアメリカにあるとしたら、今は挑戦してみる絶好機かもしれません。というのは、これらの記事のどれを見ても、優秀な日本人に来て貢献してもらいたいとの願望が間接的に読み取れるからです。前述の2009年の秋に入学した日本人留学生がついに1名になってしまったとの報告は、Harvard大学の総長が直接日本を訪問して行った講演で伝えられたものです。(“Home Schooling: Fewer Japanese Head to U.S. Universities”参照)もっと日本の高校生に留学してもらいたいからでしょう。

アメリカは、人文科学、社会科学、自然科学、ハードサイエンスなど多くの分野における先端的研究が盛んなところです。先端的な研究テーマは縦割り型ではなく融合型で、様々な分野がコラボレーションしなければ達成できません。世界中から様々な国の人たちが集まるアメリカには、先端研究が芽生える素地があります。多くの先端研究の分野の「本場」がアメリカの大学(leading universities)である可能性は高いと思われます。 それぞれの目指す学問分野の「本場」がまずどこにあるか確認し、アメリカであると判断したら、TOEFL iBTテストとSATにのテストにチャレンジすることを切に願います。

後記(2024年5月24日記)


分野、領域の「本場」には優秀な人材が集まって切磋琢磨しながら交流します。世界中から多種多様な人材が集まります。筆者は、留学後5年目に言語学の本場がアメリカであることが分かり英文学から転向しました。母校Georgetown大学で毎年3月に催されたRound Table in Languages and Liguisticsには世界中から新進気鋭の言語学者と言語学の学徒が集まり大くの刺激を受けました。人生最大の宝と思っています。「アメリカ留学(1968-1978)を振り返って,恩師の方々」をご覧ください。






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