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「学校は子供の創造力を削ぐか?」大反響ケン・ロビンソン卿TEDレクチャー(前編)


はじめに

本稿はTOEFL Web Magazineの筆者のコラムFor Lifelong Englishにて2016年「“Do schools kill creativity? ” A TED talk by Sir Ken Robinson—約39,725,000 Total views!」と題し掲載したものです。アメリカ留学を目指す若者に向けた記事で各所に英語学習のヒントを付していますが、ロビンソン卿のTEDレクチャーそのものは言うまでもなく教育関係者、産業界など社会全体に向けたものです。18年後の現在にも通じる大切なメッセージを発し続けています。以下、タイトルを変え、(前編)と(後編)の2つに分けてお届けします。


2006年2月にリリースされて以来10年後の2016年でも大反響

Sir Ken RobinsonのTEDのレクチャー“Do schools kill creativity?”は、2006年2月に公開されるや人々の関心を集め、10年後の2016年の半ばになってもその勢いは留まるところを知りません。本稿執筆中の2016年6月末日のTotal viewsは約39,725,000回、40,000,000回に迫る勢いで、賛否両論入り交じり、教育者を含め世界中の老若男女の間で幅広く視聴されています。教育は国家の根幹に関る大事であることから、これほどまでの反響を受けるレクチャーを無視できないからでしょう。とても分かりやすくユーモアに富んでいます。聞いてみましょう。英語の字幕を表示できます。もちろん日本語も含め多くの言語の字幕も選択できます。読者の皆さんには英語の字幕を勧めます。何度か聞くうちに分かるようになります。(*1)

ロビンソン卿の略歴、貧しい労働者階級出身、小児麻痺を抱える

Sir Robinsonのtalkをより正確に理解するには生い立ちと略歴を念頭に入れておく必要がありそうです。Knightの称号であるSirを見て上流階級出身かと思いきや、1950年にLiverpoolの7人兄弟の貧しい労働者の家庭に生まれ、父親は作業中の事故で四肢麻痺、自身4才で小児麻痺に罹り下肢に障害を抱え相当苦労されたようです。そのために1961年から1964年までを身体障害児童が通う特別支援学校で過ごした後にWade Deacon Grammar Schoolに進学して1968年に卒業し、Breton Hall College of Educationに進んで英文学(English)と演劇(drama)を専攻し1972 年に学士号を取得しました。その後The University of London大学院へ進み1981年にdrama and theater in educationで博士過程を修了して博士号(Ph.D.)を取得しました。

学歴からもarts、特に、dramaやdanceなどのperforming artsへの関心を持ち続け、教育に活かすことに情熱を向けてきたことが分かります。徹底していますね。生まれ育った場所がShakespeareの生誕地Stratfordの近郊(Stratford-on-Avon)であったことから、幼少時より演劇に慣れ親しみ関心を持ったようです。その後の1980年代には“The Arts in School Projects”を立ち上げ、全英2000人以上の教員と共同で英国の学校教育におけるartsの普及に務めてきました。The University of Warwickで教育学の教授として12年間教鞭をとり、現在は退職し同大学の名誉教授の肩書を有しています。同時に米国を初めとするperforming arts系の大学や学部より名誉博士号を受け、英国と米国の文化交流に貢献したことを表され、Benjamin Franklin Medal of the Royal Society of Artsを受け、2003年に芸術教育への功労を評されてKnight Bachelorの称号を与えられました。これがSir Ken Robinsonと呼ばれる所以です。

学歴と経歴から察するに、貧しい労働者階級に生まれ、4才の時に小児麻痺に罹り障害を抱えながら、好きな芸術、特にdramaやdanceなどのperforming artsに情熱を傾け、それをベースに教育を考え実践してきたSir Robinsonの一貫した生き方が氏の主張するところに説得力を与えているようですね。人は生きて来たようにしか教えられません。体験が人の共感を生みます。氏のTED talkに対して教育者から賛成と同時に当然反論もありますが、実践報告、講演、著書、論文、エッセイなどにそれら反論に対する具体的な答えがあるので読むよう促すに留めています。そうした反論の多くが体験に基づいたものでなければ無為の議論に終わることを避ける為と述べています。ともあれ傾聴に値するレクチャーであることは確かです。

明快なメッセージ「世界中の公共教育は子供の独創性を抹殺している」

“Do schools kill creativity?”でSir Robinsonの訴えは単純明快です。世界中の公共教育は子供が生まれながらに持つcreativityを生かさず殺してしまっていることへの警告です。同時に、氏の長年にわたるcreativityを生かす取り組みを背景に、それを生かす教育に変換するよう促しています。子供達は多様で幅広い創造性に富んでおり、何が起こるか皆目見当もつかず予測不能な彼らの将来を切り拓くのは、彼らのcreativity以外にないからであると訴えています。Sir Robinsonの関心は自ずと教育に向けられます。掴むことのできない将来に導くのは教育であるからには、誰しもが関心を持つべきものであるからです。

このtalkがされた2006年に小学校1年生だった児童は2065年頃に引退します。その時、世の中はどうなっているでしょうか?否、5年後さえどうなっているか分かりません。予測の不可能さはまさに極まりつつあると指摘します。(*2)どんな将来を描いて教育するのでしょうか?子供はそんな不測な事態に対応しうる計り知れないinnovation能力を有していることは確かであるからには、その原動力となるcreativityは、学校教育においてliteracyと同じ位重要なものとして取り扱われるべきだと主張します。

「子供たちはみな芸術家」ピカソ

Sir Robinsonは子供達の行動を観察することを通して、彼らが間違いを恐れず(“not frightened of being wrong”/“prepared to be wrong”)大胆に行動し(“take a chance”/“have a go”)オリジナルなものを生成しながら、持って生まれたcreativityを保持し育てていることを確信します。しかし、残念なことに、成長するにつれそうした大胆な行動は影を潜めて成人になる頃にはすっかり消えてしまうのです。行き着く職場は減点主義のもとで間違いをスティグマ化 する(“stigmatize mistakes”)悪習が常態化され、それが教育現場に反映されて間違うことを悪いことと見なす教育システムが横行し、子供達のcreativityを削いでしまっていると述べています。ピカソの明言「子供達はみな生まれつき芸術家である(“All children are born artists”)」を引用し、子供達が成長にともない芸術家であり続け、creativityを持ち続けるにはどうすべきか、これこそが教育問題の争点ではないかと正します。(2016年7月22日記、2016年8月5日入稿)

後編)に続きます。

(*1)TED talksでは色々な言語の字幕を選択して画面下に表示できるのはご存知だと思います。これを他言語の読解の練習に利用できます。筆者の場合、英語を聞きながらフランス語の字幕を出してフランス語のスピード リーディングの練習をします。読者も第二外国語の字幕を出して練習してみてはいかがでしょうか。画面下のSubtitlesをクリックすると字幕は出て来ます。また、Transcriptをクリックするとフルテキストが表示されます。

後記(2024年5月)

この記事に関連し筆者の別稿「"学ぶ"から"する"英語コミュニケーション!---言語+5感覚表現媒体フル活用」もお読みください。



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