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意識科学会イージー・プロブレム? ハード・プロブレム?OpenAI/ChatGPTはどっちに挑戦?(その1)




イージー・プロブレム、ハード・プロブレムとは?

1994年アリゾナ州ツーソンTucsonで行われた意識科学会議The Science of Consciusness Conference(主催アリゾナ大学意識学研究所Center for Consciousness  Studies)にて、D.チャルマーズ David Chalmersは、意識についての研究は、イージー・プロブレムeasy problemsとハード・プロブレムhard problems に2分されると述べました。以来この問題は今日至るまで神経学会で賛否両論にの大議論を巻き起こし今日に至ります。

イージー・プロブレムとは、脳がどうして環境から集めた情報を弁別、連合、統合し言語・非言語的行動をコントロールするのか、という問題を指します。主として中枢神経と末梢神経からなる神経システムの物理的構造と機能に還元できる客観的な問題です。これとて決してイージーな問題ではなく依然未知の領域ですが、徐々に解明されていくであろう問題です。意識に関わることは確かで、神経学者の多くが意識を語る際に中心に据えたがるが、これは意識ではない、とチャルマーズは主張します。

ハード・プロブレムとは、こうした物理的構造と機能がどのようにして個人的、主観的な経験をもたらすかという問題を指します。チャルマーズにとっての意識は、イージー・プロブレムが扱う客観的かつ物理的プロセスではなく、ハード・プロブレムが扱う主観的、経験的プロセスに属する現象なのです。意識は脳の物理的プロセスから生じることは確かであるが、それがどのようにして生じるのかそれがハード・プロブレムであると主張します。

詳しくはチャルマーズ著The Conscious Mind 『意識する心』"Episode 83, The David Chalmers Interview (Part I - Consciousness)". The Panpsycast Philosophy Podcast. 19 July 2020. Retrieved 2020-09-05.などを参照してください。

ハードプロブレムの思考実験例と反論

例として使われてきた例の一つがヒトとゾンビの違いです。ゾンビはヒトのような構造・機能を持つことができますが、個人的、主観的な喜怒哀楽などの感情や5感などの感覚についての知識は持つかもしれませんがそれらを意識的に経験ができません。ヒトがもつ自分が人間であり、それぞれ固有の個人であるという自我の意識はありません。イージー・プロブレムを究明してもゾンビについては語れるものの、ヒトがどのようにして意識をもつのか語れないのでません。ハード・プロブレムはそこに挑戦する難題であると主張します。

ハード・プロブレムのが存在するかしないかを実証する思考実験としてゾンビphilosophical zombies, メアリーのルームMary's room, ナーゲルの蝙蝠 Nagel's batsなど提示されてきましたが、唯物論的見地から意識の研究に迫るConciousness Explainedの著者 D. Denett ダニエル・デネットはハード・プロブレムなどはイージー・プロブレムの延長で神経学の研究が進めば意識の問題は解決すると反論しています。

OpenAI/ChatGPTはどっちに挑戦?扱う情報の種類は?

ここ数年AIテクノロジーがすさまじく進歩しています。OpenAI/ChatGPTはその最先端の技術で将来は人間の仕事を奪うのではないかとまで恐れられ、ヨーロッパなどでは規制する動きさえ出始めています。OpenAIに質問すると、古今東西の膨大な量の情報を集め、解析、分別、統合してたちどころに答えを提供します。個々の人間はその情報量と処理能力とスピードに圧倒されてしまいます。

ヒトがもつ意識

さてOpen AI/ChatGPTが扱うこの情報についてです。チャルマーズは情報には2つの基本的側面があると述べています。物理的側面と経験的側面です。意識の情報はこの経験的側面の情報であると主張します。そうだとするとOpen AI/ ChatGPTが集積するで情報は物理的側面の情報であり、経験的側面の情報ではなく、どんなに膨大であろうともヒトのもつ意識的側面の情報は扱えないことになります。すなわちヒトが驚くほどの速さと量で処理された膨大な情報には意識の痕跡が無く、ヒトの意識が生み出す主観的経験的情報とは異質のものということになります。

AIがいずれDenettが目論むような意識ある心conscious mindをもたない限り、ヒトのように経験的側面の情報処理を行い意識的体験ができないでしょう。チャルマーズは、物理学が質量、空間、時間が当然存在するものとして受け入れているように、意識も存在するものとして受け入れるべきと述べています。意識は、質量、空間、時間と同じく他の何かに要素還元できるものではないと述べています。

他方、Denettはすべて物質的要素に還元できると主張し、実際に物理的に意識をもつ人工知能の開発に邁進していると聞きました。どちらが正しいとしても確かにヒトには意識があり、現在のAIはそこまでに至っていません。意識的経験それがOpenAI/ChatGPTに勝るヒトの能力です。(その2)に続きます。

参考文献
Chalmers, D. J. The Conscious Mind.1996.Oxford University Press
Denett, C. D. Consciousness Explained. 1991. Backbay Book.
"Episode 83, The David Chalmers Interview (Part I - Consciousness)". The Panpsycast Philosophy Podcast. 19 July 2020. Retrieved 2020-09-05.などを参照してください。
「脳のハード・プロブレム、D. Chalmersに聞く」『最新脳科学:心と意識のハードプロブレム」1997. 学研ブック (Heinz Horeisによるインタビュー)pp.104ー112




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