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おばあちゃんが教えてくれた2つのこと

私は今琉球食について、勉強をしている。新しく情報や知識を取り入れることもあれば、昔聞いたこと、食べたものを思い出しながら書き出すこともある。今日はその中の一つ。おばあちゃんが教えてくれたことについて、書いてみる。

戦争があった辛い時代を生き抜いて、6人の子供を育て、助産師として活躍し、定年を迎えてからは海外旅行を楽しんでいた。そして105歳まで生きた。パワフルな女性が私に教えてくれたこと。

黒砂糖は離島のものを選びなさい

私のおばあちゃんは、いつも黒砂糖をなめていた。この写真に写っているよりも小さい豆粒ほどの黒砂糖をガラスのタッパーに入れて、手の届くところに置いていた。

私が「喉が痛い」というと、風邪薬ではなく、まず黒砂糖を差し出してくる。おばあちゃんはいつも「黒砂糖は喉にいい」と言っていた。
喉がぎゅーっとなる感覚を味わいながらも、なんとかなめていた。

黒砂糖には鉄分、カルシウム、マグネシウムなど栄養素が少しずつ含まれている。だから、黒砂糖が直接的に風邪の症状を軽減することに繋がる、とはここでは言えないけれど。琉球を生きた沖縄の人たちは、黒砂糖を「ぬちぐすい」として頼りにしていたのは確かだ。

そんなおばあちゃんが、何度か私に言ったこと
「黒砂糖は離島のものを選びなさいよ」

大人になって知ったけれど、沖縄の黒砂糖は正式には「沖縄黒糖」と言って、8つの島でのみ作られている。
・伊平屋島
・伊江島
・粟国島
・多良間島
・西表島
・小浜島
・与那国島
・波照間島

きちんと定義もある。

黒糖及び沖縄黒糖とは次のとおりとする。
(1) 黒糖とは、さとうきびの搾り汁に中和、沈殿等による不純物の除去を行い、煮沸による濃縮を行った後、糖みつ分の分離等の加工を行わずに、冷却して製造した砂糖で、固形又は粉末状のものをいう。
(2) 沖縄黒糖とは、組合に所属する 3 企業 1 団体の製糖工場(8 つの離島工場)で生産される含みつ糖の代表的なもので、さとうきびの搾り汁をそのまま煮沸濃縮し、加工しないで冷却して製造したものをいう。成分として、糖分の他にカリウム、カルシウム、鉄等多くのミネラル成分を含み、特有の香味がある。

沖縄のサトウキビを使い、伝統的な製法で、栄養素をしっかり含むものが「沖縄黒糖」として認められている。

沖縄のスーパーでは、黒糖の売り場がある。そこには、ずらーっと黒糖の商品が並んでいるのだが、沖縄黒糖とそうでないものがある。ぜひ一度見てみて。

沖縄黒糖は「サトウキビ」のイラストが書かれた登録商標がついている。

登録商標のついていない黒糖を否定したいのではない。
水あめを添加しむっちりとした食感の黒糖や、ブルーベリーを混ぜたフルーティーな黒糖、コーヒーと合わせて苦味を楽しむ黒糖なども、味があって楽しい。

沖縄黒糖の9割以上が業務用として出荷され、家庭の消費用になるのは1割に見たないそう。こんなに美味しくて、栄養のある、素晴らしい調味料でありおやつである沖縄黒糖。
おうちでの楽しみ方、味わい方をまだまだ発明していきたい。

黒砂糖には「ボツリヌス菌」の芽胞が含まれる可能性がある。はちみつと同様に1歳未満の赤ちゃんには控えた方が良いとされている。

昆布を食べなさい

おばあちゃんは、私が髪を切るとすごく褒めてくれた。
だけど、髪を伸ばしていると「早く切りなさい」と言った。髪に栄養を持っていかれて身長が伸びなくなるから、と。
「それは迷信だ」と私は信じていなかったけれど、これもよく言っていた「昆布は髪にいい」というおばあちゃんの教えはしっかり信じていた。ここまでは余談。

「沖縄県民は、日本一昆布を食べる」というのは、昭和までの話。
平成になってからは、沖縄県民の昆布の消費量は減り、今は全国で20位くらい。

順位が大事なのではない。
それ以降に沖縄県民の昆布の消費量が減っていることに注目してほしい。

琉球時代には、昆布はよく食されていた。クーブイリチーや結び昆布などが代表的な昆布料理だ。北海道との貿易で、輸入するところから始まった食文化だ。

昆布には、ご存知の通りヨウ素やカルシウムや鉄分などのミネラル、フコイダンなどの水溶性食物繊維が含まれている。カルシウムは同量のプロセスチーズよりも多い。それなのに1食10kcalもない低カロリー。健康食品やサプリメントの原料にもなる。

脂肪摂取量の増加と昆布の消費量減少。
沖縄県民の平均寿命の順位低下。肥満率の上昇。
今はとても考えさせられる。

おばあちゃんが昆布を食べなさい、って言っていたのは、「ちゃんとミネラルを摂っておきなさいよ」っていうことだったんだなと今になり思うのです。

昆布に含まれるヨウ素は「過剰症」のリスクがある栄養素でもある。乾燥の昆布2グラム程でヨウ素の1日の必要量を満たしてしまう。だから、昆布を毎日大量に食べる必要はない。沖縄でも毎日食べるのではなく、多くても週に2回くらい。思い出した時に食べるのでちょうど良いのではないか。

おばあちゃんがくれたぬちぐすい

沖縄に昔から伝わる言葉に「命薬」というものがある。
命の薬と書いて「ぬちぐすい」と呼ぶ。
その意味は、まさに食が命をつなぐものであるということ。

口にする食べ物がどれほど、私たちの体と心に影響を及ぼすのか。科学的に解明されていない時代から、この言葉は存在していた。

離島産の沖縄黒糖と昆布。
おばあちゃんが「食べなさい」と差し出してくれたものは「ぬちぐすい」になるものばかりで、それは孫の健康を思う温かい愛情だった。
今になりしっかりとエビデンスを持って説明できるところもあれば、信仰というか思想というか不確かなところもある。

沖縄のぬちぐすいの食文化は、今こそ見直されるべきだし、アップデートすべきところもある。おばあちゃんや母、料理のプロ、本から学んで、これからも研究を続けていきたいと思っている。

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