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インド:ベーシックレポート

分断化する世界で、第三極を形成する

政治経済両面で大国である

 インドは、政治経済両面で、大国と位置付けられる。国際政治における存在感は、独立後、一貫して大きかった。
 近年は、目覚ましい経済成長を続けており、経済面でも、その影響力は、年々、大きくなっている。次の表は、インドの主な経済指標をまとめたものである。表にあるように、2021年の名目GDPは、3兆ドルを超え、実質GDP成長率も8.7%という高水準の伸びを達成している。今後も長期継続的な高成長が期待され、世界屈指の経済大国への道を歩んでいる。かなり先のことにはなるだろうが、将来、アメリカや中国を抜いて、世界一の経済規模になる可能性もあると見られている。
 インドの経済成長を支える一つの要因は、人口増であるが、少なくとも2050年頃までは、増加が続くものと予想されている。現時点でも、中国を抜いて、世界一の人口になっているものと推定されているが、長期的にも、世界一の座を維持するものと考えられる。
 人口増のみならず、ITなどの先端技術の面でも、インドは先進国に肩を並べている。とりわけ、IT関連業界におけるインド人エンジニアやインド企業の占める地位は、非常に高くなっている。

経済大国インドの実態

主要経済データ1

 インドは、経済成長が著しく、世界銀行によれば、2021年度の名目GDPは、3兆1,763億ドルに達している。また、実質GDP成長率も、2020年度こそコロナ禍の影響で、マイナス成長となったものの、2021年度には、8.7%成長と、V字回復を果たしている。
 一人当たりの名目GDPも既に2,000ドルの水準を超え、中所得国に位置付けられる。今後も順調に成長を継続していくものと期待されている。インドは、IT産業が有名だが、石油化学産業などの発展も著しい。インドの主要輸出品目の筆頭には、石油製品があげられる。ロシアに対する経済制裁導入後は、ロシア産原油を大量に輸入し、精製・加工後、周辺国等に輸出しているとの話も聞かれる。実際、2022年1月から11月までの貿易統計を見ると、インドの対ロシア貿易は、輸入主導で、前年同期比3.4倍の349億ドルに急増している。
 また、コロナ禍の影響から脱却するために、公共事業を積極的に展開しているが、社会インフラの整備は、長期的に充実させていく方針であり、当面、高水準の公共事業が実施される見込みになっている。将来、先進国の仲間入りを果たすためにも、社会インフラの充実は必須の要素であり、これを機に、整備を加速させていく方針になっている。
インドは、14億人の人口を背景とした内需の規模が大きいため、貿易依存度は31%となっており、相対的には低い方である。日本とほぼ同等の水準であり、国内市場規模の相対的な大きさが際立っている。
主要経済データ2

 インドは、貿易収支が1900億ドル程度の赤字となっているが、経常収支では387億ドルの赤字にとどまっている。また、外貨準備高は、6,500億ドル程度に達しており、対外債務残高を上回っている。国家としての信用力に何ら問題はないものと考えられる。

更なる躍進が見込まれる

 IMFによれば、2022年におけるGDP規模は、イギリスを抜いて、世界第5位となったとされる。さらに、2025年にはドイツを、そして2027年には日本を抜いて、世界第3位の経済大国になるものと予想されている。
 また、2023年の成長率についても、7.2%という高水準を維持する見込みであり、世界経済が減速気味なのに対して、インドの成長性の高さは、際立っている。さらに、モディ首相は、独立100周年の2047年までに、インドは、先進国になると宣言している。
 インドは、国民の経済的格差が大きいなどの問題点も指摘されているが、高水準の経済成長が、諸々の問題点をも覆い隠すほどのインパクトを、もたらしているようにも見える。

国際政治における存在感はさらに大きくなっている

 インドは、国際政治の枠組みにおいては、大国としての扱いを、長らく受けてきた。また、軍事面でも、核保有国の一つであり、国際的な影響力は、非常に大きいと評価される。
 ここ近年は、さらにその独自の国家戦略が注目される存在となっている。米中対立構造が進んで、独裁国家と民主主義国家の対立に移行しているが、インドはどちらの勢力にも属さず、第三極の中心的立場を果たそうとしている。
 グローバル化の巻き戻しが起こる中、インドは漁夫の利を得ようとしているようにも見える。ロシア産原油の輸入と精製加工後の石油製品輸出というビジネスに象徴されるように、二つの勢力の間の緊張関係は、時として、インドを始めとする第三極にとっては、チャンスともなり得る。
 逆に、ロシア等の独裁国家陣営とアメリカ等の民主主義陣営は、インドを自陣営側に引き込もうとして、努力をせざるを得ない状況である。
 しかし、インドは、独自路線を歩み、自国の利益を最優先しているように感じる。一言でいえば、「厄介な大国」あるいは「異形の大国」ともいえる。どちらの陣営からも、思う通りにならない存在であり、今後もそういった立ち位置を維持していく可能性が高い。
 インドは、中国とは、歴史的に緊張関係にあり、両国間には、過去に軍事的衝突も起こっている。両国間には、領土問題も存在しているため、中国とは国際政治の舞台においても、一線を画している。

インドとの関係性強化を推進すべき

 インドは、2023年は、G20の議長国を務めるが、途上国全体の利益代表者としての役割も意識していると推察される。先進国に対して、途上国の立場から意見を主張していくことも考えられる。この面からも、インドが第三極の中心的役割を担う可能性が高い。
 なお、インドは、伝統的に親日的な国として知られている。日本としては、経済取引の増大も含めて、インドとの関係性をさらに強化していく方向が望ましいだろう。交渉相手としては、一筋縄ではいかない面もあるが、日本の国益を実現するためにも、インドとの良好な関係性を、政治経済両面で推進すべきだと、私は考えている。

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