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銅:長期継続的な需要拡大へ

電化が進むと銅が不足する!

はじめに

 脱炭素によって、あらゆる分野で電化が進むことになる。長期継続的な動きであり、これを止めることは不可能であろう。現状でも、自動車のEVシフトに見られるような、大きな電化の動きが出ているわけである。まだかなり先の話ではあるが、仮に将来、核融合技術が実用化され、人類が事実上無尽蔵のエネルギー源を確保すれば、電気の用途はさらに広がるであろう。
 しかしながら、電化には課題もないわけではない。今、懸念されているのは、電力を供給する際に、様々な局面で、電線が必要にはなるが、その素材として最適な銅が、世界的に不足する可能性が高いことである。銅は、歴史的には、金や銀と並ぶ貴金属として位置付けられたこともあったが、現在は、主に工業用、しかも電気関係に使われる素材となっている。非鉄金属という括りに入る素材だが、その中では比較的高価なものである。
 そして、電化という長期継続的な動きによって、明確になっているのは、銅に対する需要が拡大し続けることである。現時点では、銅を上回る効率的な素材は存在せず、また、コスト面でも銅の優位性は明らかである。しかし、長期的には、銅が不足し、価格が高騰するものと予想されている。銅鉱山の開発等も進むが、供給拡大のペースが、需要拡大に追いつくのかどうかは、非常に厳しいと言えよう。銅の供給不足によって価格が高騰し、電化の経済性全体にも影響することを想定しておくべきであろう。

脱炭素のカギを握る素材

 電化があらゆる分野で進むと、電気を送る経路として、電線が必要になるのは、明白な事実である。電線の素材として、現時点で最も効率性が高く、最適な素材と言えるのは、銅である。銅は、電化には不可欠の素材で、電化を進めるためには、十分な量の銅を、確保することが求められる。例えば、急速に普及が進むEVだが、内燃機関を使う自動車に比べて、およそ3倍もの量の銅を使うとされる。これだけでも、銅に対して、非常に大きな需要を生み出す。
 また、発展途上国には、まだまだ電気を供給する体制が貧弱な国も多数ある。今後、そうした国々で、インフラ整備の一環として、電線を張り巡らせることも、必要になってくるのは間違いない。電力供給体制を整えておかないと、文明の恩恵を享受することは、できないものと考えられる。途上国のインフラ整備の面だけを見ても、銅の需要は、長期継続的な拡大が見込まれている。

銅の需給見通し

 2022年時点の銅の世界全体の需要は、2200万トン程度と推定されている。そして、急拡大する電化需要によって、2030年には、3300万トンまで拡大していくものと予想されている。
 一方、供給量は、2022年においては、ほぼ需要量に見合う水準だが、今後予定されている増産や新規開発を含めても、2030年時点で2300~2400万トン程度にとどまるとの予想がある。そうなると、1000万トン近い供給不足ということになり、かなり深刻な状況に陥ることが懸念される。
 このままでは、銅不足によって、電化に対しても急ブレーキがかかる可能性すら指摘されるところである。
 現在予定されている増産、開発計画だけでは、全く不十分であり、さらなる開発投資が必要だと考えられよう。

日本の総合商社も積極姿勢を見せる

 銅採掘ビジネスにおいては、日本の総合商社も積極的に取り組んでいる。
例えば、三菱商事は2022年10月から、イギリスのアングロ・アメリカン社と参画するペルーのケジャベコ銅鉱山からの出荷を開始した。総事業費は、55億ドル(約7500億円)とされている巨大プロジェクトである。
三菱商事としては、2012年から関わる当該プロジェクトだが、資源バブル崩壊後の市況悪化などで生産開始が、2016年の当初予定から6年も遅れた形にはなる。三菱商事は、プロジェクトを再検討し、2018年にケジャベコ銅鉱山における権益を、当初の2倍強となる4割に引き上げたうえで、今回の出荷にこぎ着けた。
ケジャベコ銅鉱山では、今後10年間、平均30万トン程度の生産量を想定している。2030年時点の世界の銅需要の1%程度に相当する量となる。その4割について、三菱商事は、権益を確保することになる。

まとめ

 EVの普及などに代表される電化の流れは、今後、世界的に急速に進むものと考えられる。その結果、銅に対する需要は、大きく拡大していくものと予想されている。2022年の世界の銅需要は、2200万トン程度と推定されているが、2030年には、3000万トンに達するとの予想もある。
この需給ギャップを埋めるべく、日本の大手総合商社も含めて、銅鉱山の開発や増産に資金を投下しているが、現時点で予定されている増産体制では、2030年時点でも、世界の銅供給量は、せいぜい2300~2400万トン程度にとどまるものと見込まれている。
今後もさらなる銅供給体制の強化がない限り、銅の供給量がボトルネックとなって、電化が思うように進まない事態も想定される。銅の十分な供給拡大が、実現するのか否かについて、引き続きしっかりとフォローしていきたい。

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