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未来の昔ばなし

むかしむかしあるところに社会人2年目の青年がおりました。
彼は勤勉でよく働く男でした。

何事にもまじめに取り組み、頼まれた仕事も嫌な顔一つせずに引き受け
寝る間も、休日も全てを犠牲にして仕事をしていました。
そのまじめさから、周りも彼の将来に期待し、
より責任感のある仕事を数多く依頼するようになりました。

しかし彼の心はすでに疲れ切っていました。
プライベートな時間が確保できない事
自分のやりたい仕事ができない事。
まじめすぎて、頼まれた仕事は断れない事。

それでも彼は、社内を円滑に進めるためには、自分が我慢して仕事を引き受けるしかないと思い一生懸命に働いていました。

そんな気持ちで3年目を迎える直前の3月、
期末ということもあり社内は大忙し。
彼の業務量も今まで以上に増え、数字に追われ、仕事に追われ
彼は心身ともに限界に近い状態でした。

すると彼の体に異変が訪れ始めました。
・疲れているのに眠れない状態。
・何をやっても楽しくない。
・いらいらする

限界を迎えた彼はついに、
一人になったときに悲しくもないのに涙がこぼれました。

「もう限界かもしれない…」

そんな独り言がこぼれたときに、
彼は社会人になって初めて会社をずる休みしました。

「どこか遠くへ行きたい。」と思った彼は
バイクにまたがり、久しぶりのツーリングに出かけました。
バイクは社会人になって趣味で始めたものでしたが
仕事が忙しすぎてまったくバイクに乗れていませんでした。

到着した場所は海でした。
海岸付近にバイクを停め、彼は砂浜でずっと遠くを眺めていました。

孤独に海を眺めていると、一匹のウサギが近づいてきました。
ウサギは彼に近づくと彼に向って話しかけました。

「俺も昔は働きすぎて倒れたことがあるんだ」
「ウサギのくせにしゃべるのか?」
「エリート街道まっしぐらで働き続け、頑張りすぎて倒れたんだ」
「・・・ウサギの世界にエリート街道があるのか?」
「そのあとは休職さ。エリート街道まっしぐら、かつ、その時すでに家族がいたからお先は真っ暗だった。仕事に復帰できる見込みもない。こんな姿、誰にも見られたくない。誰にも会いたくない。
このまま死んでしまいたいと本気で思った。」
「・・・でそのあとどうした。」
「考え方を変えたんだ。どうせ死ぬぐらいなら楽しいこと、やりたいことをしてから死のうと思ったんだ。周りの目も気にせず自分のしたいことだけをして、言いたいことはきっちり言おうと。」
「周りから嫌われるのが怖くないのか?」
「どうでもよかったね。仕事を辞める覚悟、死ぬ覚悟ができてるウサギは
周りの目なんてちっぽけなことが気にならなくなったよ。怖いものが何もなくなったから思考と結論の間に邪念が入らない。迷いがなくなった分、逆に仕事がスムーズに進んだよ。」
「それでも無理やり仕事を押し付けてくる人間もいるだろう。
 俺の先輩みたいに」
「こいつは合わない。と思ったら心理的、物理的に距離を開ければいいんだ。合わない奴はとことん合わないんだよ、この世界は」
「じゃあ同じ部署の人間が合わなかったらどうするんだ!
そいつに仕事を押し付けられても距離をとれないじゃないか!!」
「線を引くんだ」
「・・・線?」
「理不尽に仕事を押し付けてくる上司がいれば、思いっきり反撃すればいいんだ。1回でいい。自分にできる最大限の反撃をすればいいんだ。
この線を超えると撃つぞ!という意思表示をすることが大切だ。
仕事を押し付けてくるような人間は、たいてい反撃してこないと思った人間にだけ上からの態度で理不尽を言ってくる。
反撃をすると相手はビビッて、
それ以上境界線を越えないよう気を付けるようになるんだよ。」
「・・・間違いない。」
「あとは、人生の先輩としてアドバイスだが
気楽に人生は生きていくといいぞ。
常に全力で走っていると必ず疲れる。
マラソンだってそうだ。頑張るときは頑張る。それ以外は80パーセントぐらいの気持ちで頑張ればいいんだ。何より仕事はただの生きていく手段だ」
「手段?」
「そうだ。人生を楽しむための手段でしかない。それなのにみんな周りが決めた【正しい道】にとらわれ劣悪な環境で働き、
思考が停止しているんだ。」
「・・・」
「【正しい道】ではなく【楽しそうな道】を選んだほうが人生は絶対幸せだ。そのためには違う会社でも戦うことができる準備はしておく必要があがな。」
「違う場所でも戦える準備は何をすればよい?教えてくれうさぎ!」
「自分が持っている今の武器を磨き続けるんだ。組織に依存していては武器は磨かれない。常に自分の武器を磨く意識をしている人間はどこでも戦えるんだ。人には誰でも自分に合った戦い方があるからな。」
「武器を磨くか...ありがとうウサギ。俺は元気がでたよ。
 心が一気に軽くなったよ。」

その後、しばらく2人(正しくは1匹と1人)は海を眺めていた。
しばらくしてウサギは去っていった。
去り際の言葉にまた、心を打たれた青年は、また明日から仕事を頑張ろう!
いや...これからの人生を最大限楽しんで生きていこうと思うのであった。

p.s 最後のウサギの言葉
「勝つことがだけが人生じゃねえよ。とにかく最後まで生きることが大切なんだ。自然界にはライオンもウサギもいるだろ?ウサギがどんだけ牙や爪を研いでもライオンには勝てやしない。だったら耳を長くして事前に危険を察知するようになったんだ。…ライオンだけが人生じゃねえよ。ウサギの人生も悪くないぜ。」

以上、めでたしめでたし。

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