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新型コロナの影響で、仕事や住まいを失った人々を支えてきた 「住まいとくらしSOSおおさか」の現在地

このレポートは、WAM助成(社会福祉振興助成事業)に取り組む釜ヶ崎支援機構の居場所・住まい・仕事・社会参加バージョンアップ!ヨル・ベース事業を記録し、最終的に報告書として紹介する目的で作成されました。

牧憲一さんと笠井亜美さん

今回は萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社の牧憲一さんと釜ヶ崎支援機構の笠井亜美さんに、住まいとくらしSOSおおさかの事業(旧新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA)についての変遷をお聞きしました。

編集・執筆:狩野哲也


「住まいとくらしSOSおおさか」が行う3つの事業

ーーー旧名の「新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA」はどんな経緯で誕生したのでしょうか?

笠井さん
最初は釜ヶ崎支援機構の小林がはじめました。コロナ禍がはじまって、 支援事業もすごく縮小した形になって、利用者の方もあまり来ないでくださいというような時期でしたが、そういう時にこそ住まいやくらしのことで困難に直面し孤立している人と出会える機会をつくりたかったのです。

当時の東京の例を見ると、コロナの影響で仕事や住まいを失ったりしている人がいて、おそらく大阪も同じ状況になるだろうから宿泊支援やクラウドファンディングをしようと小林が積極的に動いて、ビッグイシューさんとかHomedoorさんとか大阪広域で声をかけて、20団体ぐらいに協力してもらって得意分野を持ち寄って、ワンストップサービスをしようと考えました。私は当時Homedoorのスタッフでしたが、初回から参加しました。

牧さん
うちの団体は居住支援で、住まいの相談にのっていましたね。2020年2月から学校が休校する状態となっていましたが、5月のゴールデンウィークに立ち上げました。その時期は、予想以上に相談が多く私たちも慌てたりしましたが、翌年2021年のゴールデンウィークでは相談がめっきり減ってしまったんですよ。

東京ではたくさんの困っている人にアプローチできていると聞くのに、大阪の僕らはできてない。なんでやろと話し合って、僕は「食料を配る」というアナウンスをしてなかったので、アナウンスしたら全体の規模が大きくなって、ある程度相談が聞けるんじゃないかと思って提案しました。

それで西成区民センターの方でするようになってからは、参加者数はものすごい数に増えていたんですね。

牧さん
住まいとくらしSOSおおさかでは緊急宿泊支援と、食料配布支援と、子育て層の女性向けのポンポコカフェという3つの事業を行っています。

笠井さん
ポンポコカフェは区役所の一角を使って、 食料相談会や歯科検診、子育て向けの紙芝居などのイベントとともに開催しています。

ーーー子育て世帯や女性向けにしているのは何か理由があるのでしょうか?

牧さん
最初に開催した相談会の参加者の大半が男性だったという背景があります。でも困難な状況にあるのは男性ばかりということではありませんよね。そのためアプローチの方法を模索した結果です。多言語でフライヤーを作成して海外から来られている方への支援もしているのですが、その層に情報を届けるのはなかなか難しいですね。


実行委員会に関わったことでネットワークが広がった

ーーー新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKAは住まいとくらしSOSおおさかに改名されたのですね。この取り組みに関わってみて、どうでしたか?

牧さん
この地域で困窮者の支援をいろんな形で取り組んでいる団体と知り合うことができたという意味では良かったですね。知らない団体とかも結構ありました。

これまでも誰かに聞けばあそこの団体にたどり着くということは多分あったとは思うんですけど、1つの会議室にみんなが集まって、1つの目的で1つの取り組みをする場面は、なかなかこれまでなかったのではないかと思うので、良い機会になっていると思います。

ーーーHoomedoorに所属されていた頃の笠井さんは、他の団体の人たちと連携することはあったんですか?

笠井さん
大阪市北区で主に活動していたので北区とかではあったんですけど、西成区というのはなかなかなくて。ベテランたちがいっぱいいるので関わってみて楽しかったです。先輩たちに相談できるのって頼もしいなと思いながらやっていましたね。

ーーー他団体と協力し合うのはたいへんじゃないですか?

笠井さん
たいへんだけどお互いの強みを生かせるのと、お互い頼れるので心強いですけどね。例えば緊急宿泊で支援した方の家探しを牧さんの萩まち不動産にお願いしていたりします。

ーーー最初のクラウドファンディングで貯めたお金で活動されていたけれど、徐々に減っていくので、「WAM助成の申請」を検討されたのでしょうか?

牧さん
実際そうです。去年2023年の段階で残金がカウントダウンに入っていました。助成金を申請することに加え、これから寄付を積極的に呼びかけていけるように、運営体制を強化することにしました。団体はそもそも規約も役員体制もない状態だったので、そのあたりを改善しました。コロナ禍で立ち上がった団体なので、収束してきたらおしまいにすることもできたけれど、このネットワークをこわすのはもったいないという思いでしたね。


コロナ初期と最近の利用者の変遷

ーーーコロナ禍初期と収束して以降の利用者の変遷はどんな状況かお聞きしたいです。2020年6月30日の報告書によれば、

宿泊支援
延べ利用者数48人
延べ宿泊数302泊

とあります。これは利用者が多いイメージでしょうか?

牧さん
最初の1年が一番多かったね。

笠井さん
多かったですね。最初の1年はあまり西成区在住の方はいなかった気がしますね。

ーーー相談件数は4回にわけて報告されていますね。

相談件数 計80件
相談会① 11人
相談会② 27人
相談会③ 33人
相談会④ 9人

web相談件数26件

笠井さん
そうですね。 相談会④は北区も含まれています。コロナの影響で住むところがなくなってしまう人がいました。派遣で住み込みだったけれど、住み込み先から出ないといけないという人が来ていました。

ーーー年ごとに変化はありますか?

笠井さん
相談会のやり方とかも変わったので並列では考えにくいですね。

コロナで失業した人向けというのが最初のスタートで、そこから落ち着いてきて 大規模相談会は去年2023年からはじめました。

牧さん
発足して2年目の秋に区民センターに切り替えて、そこでは西成区で保護を受けている人とかが多かったです。圧倒的に人数は増えたけれど、西成区在住の人が増えました。

笠井さん
ウェブの相談は西成区以外で手持ちのお金がなくなって、家賃が払えなくなって、住むとこないというのが多いですね。西成区の人も時々いるけれど、それこそウェブなので、大阪にいない人からも相談がありますね。落ち着くために宿泊してもらって、1週間を目安に次を決めてもらうようにしています。

2023年度は宿泊支援が20人で、宿泊数の合計が58泊なので、かなり減ってます。

ーーーホームレス状態の人の実数も減っているんですか?

笠井さん
ホームレスの方の実数調査だと減っているという結果が出ています。かつて公園で野宿していた方は、テントを張って生活するパターンでその方々はもう高齢化したけれど、今は夜になって公園のトイレを借りて寝泊りしてますという方など野宿している人の年齢が50代60代前半ぐらいに下がってきていると聞いています。また、24時間営業の店舗などで過ごしていたり夜通し歩いて過ごしているという20代〜40代の方もいました。そういう方々は街中ですれ違っても「ホームレス状態」ということがわかりにくいため、実際ホームレス状態の方が減っているとは言い難い状況だと思っています。

牧さん
食料配布を受け取っているのは圧倒的に60代ですね。

笠井さん
宿泊支援は30代、40代、50代とかが多く、逆に60歳以上は少ないですね。LINE相談はユース向けにもがんばっていきたいので、もしかしたら10代、20代の相談が増えてくるかもしれません。

ーーーさきほど雑談で難民の方も来ているとおっしゃっていましたね。

笠井さん
やはり居住支援において、難民の方のお部屋探しは難航する場合が多いですね。例えばパスポートの期限が切れているとか、身分証を持ってないとか。たまたま今来られている中国の方の場合は健康保険証を日本で取っているのでそれが使えたりするんですけど。

携帯電話に電話連絡できないと審査が通らないとかいろいろあります。だから、そこに理解のある仲介業者さんに物件を探してもらわないと難しいということがあります。なので、難民の方を支援する機会は増えてきていますね。

私自身としては難民申請の理由にはいろいろあるかもしれませんが、住まいを失って路上に出てしまわないように応援しようと思っています。ただ、言葉がなかなか通じないので言わばハートとハートのぶつかりあいになりますね。


宿を提供したことで生まれる効果

ーーー宿を提供するとどんな効果がありますか?

笠井さん
みんな安心して寝れる場所を求めておられ、食事の提供も受けられるので、安心感というか、とりあえずは一息つけたというところで、みんなほっとされています。ただ、その次を決めないといけないというプレッシャーはあると思います。

ーーー次はどういう選択肢が多いんですか。

笠井さん
自分でもう1回仕事を見つけますという方もいれば、部屋を借りて生活保護を受けるという方もいます。あとは住み込みで私たちと提携している会社さんのところにご紹介することもありますね。

ーーーコロナ初期と今年2024年4月以降の違いはありますか?

笠井さん
緊急宿泊の人はコロナ初期よりは減っています。ウェブからメールで相談してくれる人の場合、家があるんだけど、お金がない状態になっちゃったとか、知人の家にいるけれど、という状態の方が増加傾向にあります。年末年始の役所が閉まっている時期はやっぱり増えます。12/29から1/3までの間は、ネットからの相談が多いですね。

牧さん
うちの団体も居住支援法人としてフリーダイヤルを公開しているから、それを見て電話をかけてこられます。事情を聞くと、「もう今日の晩泊まるとこがない」という人だったから、SOSの緊急宿泊を使った、というケースもあります。

笠井さん
多分そっちの方が多いですよね。釜ヶ崎支援機構でもそうです。

ーーーホテルや宿泊施設の方は協力的なのでしょうか?

笠井さん
コロナ禍初期は旅行客が少なくなった分、部屋が空いているので提供してもらいやすくなったけれど、インバウンドが戻ってきてからは満室と言われやすいですね。

牧さん
観光客が多い分、部屋の価格もあがっているので長く泊まっていただくことも難しい。だから宿泊場所の確保が不安定なんですよね。

笠井さん
週末の価格が高いので土日は宿泊できないですね。でも相談者は金曜日の夕方とか土曜日に連絡が来ることが多いのでマッチングに苦労します。

最近びっくりしたのは北区のホテルの宿泊代が高すぎるのと満室が続いており、個室ビデオ(客が専ら映像ソフトを借り個室で鑑賞するための店)に宿泊してもらう対応をせざるを得なかったことがあったと聞きました。


WAM助成柱立て1「生活困窮者のためのホテル・簡易宿所宿泊支援」の今後の課題は?

ーーーさきほど宿泊場所の確保が不安定なことが課題だと聞きましたが、そのためにたくさんの宿泊所に連絡されているのでしょうか?

笠井さん
電話とかもしてたんですけど、全部ことごとく断られてしまうので、致し方なく今は臨時の対応として新しく加盟してくれている団体さんのお部屋の一室の鍵を預けていただき、そこを活用する形にしてますね。利用した日数と人数に応じて支払することにご協力いただいていますが、より安定して宿泊の支援ができるようにしたいのですが。

牧さん
うちも1部屋を3月末まで無契約で借りることができていましたが、ご協力いただいている方の事情もあり終了となってしまいましたね。

ーーー協力団体でいっしょにどこかに部屋を借りるのは難しいですか?

笠井さん
今話していたら、そうしようかなとも思いますね。1室を年間でおさえる方法のほうがいいかもしれないですね。

牧さん
365日ずっと誰かが使っている状態にはならないけれど、そうせざるをえないかも。


宿泊支援を受けた場合に泊まる場所の一例

最後に、萩まち不動産を運営されている牧さんに釜ヶ崎支援機構が借りる予定の部屋について案内していただきました。

萩まち不動産は萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社の不動産事業部居住支援課が運営しています。

再び牧さんにご登場いただきます。

屋上から見た風景がこちらの、大阪メトロ動物園前駅から徒歩3分程度の物件をご案内いただきました。

冷蔵庫、テレビ、ベッド、キッチン、エアコン完備の一室。これだけ揃えようと思えば軽く10万円以上かかります。

別室はこちら。「ちょっと狭いですよ」と案内されましたが一人暮らしなら十分なスペースです。

ベット側から見た風景。

住むところを失い、居住の支援などが必要となった生活困窮者のため、仕事探しができる環境が整っています。


まとめ

インバウンドの影響で宿代が高騰しているので支援団体は部屋を確保するのもままならない状況ですが、なんとか工夫しながら借りているのが現状です。さまざまな団体と協力しあって一室を借りるのも出口としてはありかもしれないと感じました。




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