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おもわず表紙買いしてしまう装丁の素敵な本

Dynamite Brothers Syndicateのデザイナー、本名(ホンナ)です。
本屋さんに行くことは、私にとっては宝物発掘のイベントで、
目的はなく、「なにか素敵な本と出会えないかな」とワクワクしながら行く場所だったりします。

今回は、装丁デザインに一目惚れした本達をご紹介しようと思います。
表紙は、
・目を引くデザインであるか?
・中身のコンテンツが想起できるか?
・そのコンテンツへの期待感を高められるか?興味を湧かせられるか?
の3点をとくに意識し、手にとってもらえるための工夫や視点が必要だと思っています。

あくまで個人的視点にはなってしまうのですが、
上記を踏まえて、表の顔のどこに惹かれるものがあるのか
自分なりに分析したことも併せてお伝えできればと思います。


デザイナー 渋井直人の休日 / 渋谷直角

出版:宝島社/装丁:渋谷直角、大島依提亜

しっとりとした質感で、少しリッチさを感じさせるカバー。主人公、渋井直人の顔は線のみで描写されており、このイラストとテキスト箇所は金の箔押し。写真や、いわゆる「デザインされた」感のあるタイポ等は使わずに、シンプルな構成である装丁だからこそ、オシャレな独身デザイナーの、楽しくもほろ苦い日常物語の様を抽象的に表現している素敵な装丁です。

おさらのしたく / 松長絵菜

出版:文化出版局/ブックデザイン:平林奈緒美

パッと見の装丁では、レシピ本であることがわからないですが、どこか手に取りたくなる温かみ。
手書き風のラフなタイトルデザインは、黒の箔押し仕様でなんだか色あせたかのように感じるカバーに少しだけ高級感をプラスしています。
ブックデザインは、平林奈緒美さん。
「あ〜平林さんっぽいなぁ」と感じる、計算していないようで緻密に計算されたであろう文字組やレイアウト。デザインはごちゃごちゃといろんな要素を掛け合わすものではなく、レイアウトと文字で設計して魅せるものなのだと感じた一冊です。

何モナイ君タチヘ / 鳩也 直

出版:KADOKAWA/装丁:LIGHTNING

太いカギカッコの中にキャラクター、そしてカギカッコに収められたタイトルを収めた入れ子構造的な表紙。
大きなカギカッコが空間を作り、それがブランク状態(何モナイ)になっているデザイン。
カギカッコはデザインでよく活用されるモチーフではあるものの、
やはり大胆な余白のあるデザインはどこか目を引くものがあります。

ウグイス アヒルのビオトーク〜ヴァン・ナチュールを求めて〜/ 紺野 真、齊藤 輝彦

出版:マガジンハウス/ブックデザイン:平林奈緒美

またもや平林奈緒美さん。
自然派ワインとその周辺の人々が持つ、ロックでパンクな精神を訪ねて、自論を展開する対談形式で展開していく本。
「自然派」というワードからかっちりした書体よりも親しみのある丸みのある書体を選択したのだろうと予測をしつつも、変に凝っていない正統派な書体でデザインしすぎていないことでスッと本編に入れるデザインです。
著者である2人のお店から名付けたタイトルと、イラストもスパイスとなっています。

どうぶつ会議展

出版:ブルーシープ/ブックデザイン:大島依提亜、中山隼人

PLAY! MUSEUMの「どうぶつかいぎ展」公式図録。
ドイツの詩人・作家のエーリヒ・ケストナーが描いた絵本『動物会議』(1949年)を、現代のアーティスト8人が再解釈を加えリレー形式で表現した展覧会の公式図録。
戦争を止めようとしない愚かな人間を痛烈に批判しながら、それでもユーモアを通じて子どもたちに伝えようとしたメッセージを、カバーでは新聞のようなデザインで表現。中のコンテンツを最大限に活かす、すてきな装丁デザインです。

てがみがきたな きしししし / 網代幸介

出版:ミシマ社/ブックデザイン:大島依提亜

怪しげなカバー絵に、かわいい長体のかかったタイトル。
そのちぐはぐなデザインにまず心惹かれます。「てがみ」から連想される切手やスタンプのあしらいも可愛すぎて憎い。
絵本ではあるものの、どちらかというと大人が楽しめる世界観で怖くて不気味ながらも、すこしユーモラスな作品です。

豆大福と珈琲 / 片岡 義男

出版:朝日文庫/ブックデザイン:大島依提亜

小説的企てにみちた「珈琲」をめぐる5つの物語集。
こんなにもメタ化しているにもかかわらず伝わる珈琲感。
中心に向かって濃い面になっているのは、珈琲そのものの深みなのかはたまた物語の深みなのか。
それぞれの面に合わせて整頓されている文字組みもまじまじと眺めたくなります。

偽姉妹 / 山崎 ナオコーラ

出版:中央公論新社/装幀:大島依提亜、装画:扇谷みどり

まったく新しい姉妹像から、現代の家族観を揺さぶる、山崎ナオコーラのポップで自由な家族小説。
読み終わったあとはどこかほっこりする小説です。
まず第一に、自転車に乗った少女の切り取り方に衝撃を受けます。斬新な切り取り方で「新しい(家族の)価値観」を暗に表現しているのでしょうか。
その少女に沿った文字組み、和文タイトルと合わせた欧文タイトルのかわいらしさというちぐはぐ感。しかしひと目ではそのちぐはぐ感を感じない調和感。脱帽です。

朔が満ちる / 窪 美澄

出版:朝日新聞出版/装幀:大島依提亜、装画:木内達朗

父親を殺そうと手にとった斧。
斧はそんな家族と「決別」するためのメタファー。
タイトルや著者名とは版を分けて印刷された斧は、ラフな加工がされており、また何かが覆っているかのような加工がされています。
それゆえにただ斧が印刷されただけでは感じない、それ自体の裏の意味を勘ぐらざる得なくなる気持ちになります。
加えてどうやって印刷したのだろうか?とまじまじと見てしまうほどに凝っていて、カバーだけでも楽しめる一冊です。


同業者さんや、ファンの方ならばもう感じ取っているかもしれないですが、
ほとんどが大島依提亜さんデザインの本です。
映画パンフレットといえば、この方なのですが、私も大ファンです。

冒頭でも書きましたが良い表紙というのは、
どこか目を引くデザインであり、中身のコンテンツが想起でき、かつそのコンテンツへの期待感を高められるものです。

シリアスな雰囲気のミステリー小説の表紙では、赤や黄色、骨太なゴシック体は異物でしょうし、地方の新聞を題材にしたカタログがあるとすれば、ポップな色味や大胆なイラストは誰もが「なんか違う」と感じると思います。

タイトルロゴを手書き風にして温かみを出したり、
大胆なアングルをうまく取り入れて斬新な切り取り方をしてみたり、
緊張感を持たせるために余白感を大事にしたり、
ワクワクするような、にぎやかでポップなイラストを採用してみたり。
中身のコンテンツを理解し大事にしつつ、すこしだけ異なる角度から表現の手法を探るのがポイントです。

そのような装丁デザインは手元にコレクションして、
眺めてうっとりしたり、ときに「どういう観点でこの表紙にしたのだろう?」と思慮し、視点の違いを学んでいます。

皆さんの一目惚れした表紙はどんなものですか?




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