Vol.9① 法学徒の脇道 ⑵ 〜2014年冬、駒場〜
蔵書と大学がつながる経験
▲ 各種の教室・研究室を有する建物はちょっとした迷宮
佐々木(以下略) 『ストリート・コーナー・ソサエティ』を読んで、あれ、たしか似たような本を持ってたなと思ったんです。
自宅の本棚をさらってみたら、参与観察の方法を使って書かれた本をいくつか見つけました。
『ハマータウンの野郎ども』とか、『ニッケル・アンド・ダイムド』とか。
なんと! すでにそのジャンルの本をお持ちだったのですね!
自分でもびっくりしました。
大学に入るまでは、社会調査もフィールドワークもほぼ知らなかったので、普通に読み物として楽しんでたんですね。
どうりで、「コミュニティ・スタディ」はけっこう好きなジャンルかも、と思ったわけです。
実際好きなジャンルだからその手の本をいろいろ持ってたんでしょうからね。
以前から個人的にお持ちで、読まれていた本が、実は大学で学ばれていることと共通した分野だったということですか!
もともとの幅広いご興味や知識と、新しく出会っていく学問がつながっていくなんて、お話を伺っているだけで、なんかもうドキドキします!
自分の蔵書と大学の勉強がつながった経験はこれ以外にもよくありましたけど、とくに「コミュニティ・スタディ」かつ「参与観察」というカテゴリーで多かったです。
どうも、どこの国のことでも、人について知るのが好きみたいです。
やっぱりそれは、役者さんでいらっしゃるからというのもあるんじゃないでしょうか?
そうかもしれないですね。
人を演じることを仕事にしているので、およそ人、それも現実に生きる人々に対しての興味はすごくあると思います。
コミュニティ・スタディとはちょっとずれるかもしれないんですが、いわゆる社会派の潜入記みたいなものも好きです。
ある集団に入ってそこで生活を体験してみた人の手記、という意味では似てますよね。
たとえば、黒人差別の実態を探るために肌を黒く変色させてアメリカの南部で生活してみたという、白人のジャーナリストの手記『私のように黒い夜』とか。
それは凄まじい体験ですね……。
いつ頃のことなんでしょうか?
1950年代頃です。
映画化もされてるんですよね。まだ観てないですけど、ぜひ近いうちに観たいと思ってます。
60年代にも同様の手記があるんです。
『私のように黒い夜』に影響を受けて、女性の白人ジャーナリストが同じように肌を黒く変えてハーレムや南部で生活した “Soul Sister” という本です。
私が読んだのはこっちの方が先でした。
文学だけでなく、本当にいろんなジャンルの本をお読みなんですね。
どうやって読む本を探したりされるんですか?
普通に書店で探しますよ!
ネットで買うこともありますけど、大きな書店の中を歩き回って書棚を見て回るのが大好きなんです。
「徘徊と渉猟」というタイトルをつけてます。
タイトル?
自分のその日の行動に、です(笑)。
「今日は徘徊と渉猟の日だ。さあ出かけよう」て言って書店に行って、店内を徘徊して本を漁るんです。
至福のひとときです(笑)。
本屋さんに泊まれるっていう企画があると聞いたことがありますけど、その気持ち、よくわかります(笑)。
ありますね、その企画!
泊まられますか?
いえ、泊まるって想像しただけでワクワクするので、その気持ちだけで十分です(笑)。
“Soul Sister” は、以前、もう10年くらい前ですが、ボストンにプチ留学していたときに、現地の本屋で「徘徊と渉猟」をしまして(笑)、そのときにたまたま見つけて、興味を惹かれたので買いました。
プチ留学!
どのくらい行かれてたんですか?
ほんとにプチで、たった2週間なんです。
あるときふと、人生どこかで留学してみたかったなあって思ったことがあったんです。
そしたら、「してみたかったって言ってるなら今すればいいじゃん」みたいに、いきなり出現したもうひとりの自分が言いだして(笑)。
もうひとりのご自分が!(笑)
もうひとりの自分は私に似ないで、けっこう強気のイケイケなんですよ(笑)。
でもまあ、それもたしかにそうだなあと思って。
それで、直近で仕事に影響しない箇所のスケジュールを押さえてぱっと行ってきました。
そのあとちょっとシカゴに寄ったりしましたけど、本当にあっという間のプチ留学でした。
たしかに、「したかった」って過去形で言ってしまうのは誰しもありがちなことですけど、普通は本当に実行するのは大変ですから、それを行動に移せてしまうお力がすごいですね!
ぜひ、そのプチ留学のお話も伺いたいです!
わかりました。
いつかぜひ(笑)。
なんかもう、そのうち伺いたいことがたくさんたまっているんですが(笑)。
佐々木さんは汲めども尽きないようなご経験や教養をお持ちなので、いつまでもインタビューできてしまいます!(笑)
いや、あれもやってみたいこれもやってみたいって、きっとよくばりなんでしょうね。
いえ、それだけバイタリティーをお持ちなんだと思いますよ。
それで、そのペーパーバックはどうでしたか?
白人のハルセルさんは、肌を黒くして、黒人のメイドとして上流階級の白人の主人に仕えるんですけど、その主人や家族から受ける仕打ちがかなりリアルにきつくて、かつハラハラする展開で、すごく面白かったです。
帰国する飛行機の中でずっと寝ずに読みふけってしまいました。
……そういえば、本とは別に、そのとき面白いことがありました。
シカゴ発成田行きの便で、私は通路側の席だったんですけど、窓側にいらした女性が、「私はお手洗いに頻繁に行くと思いますけど、(そのたびに前を通ることを)どうか許してくださいね」と離陸前におっしゃったんです。
それは、英語で?
そうです。
私がそのとき英語のペーパーバックを読んでいたので英語が第一言語だと思われたからなのか、もしくはその女性が普通に英語で話す方だったからなのか、そのときはわかりませんでした。
実際に、離陸したらその方は何度か席を立たれて、そのたびに「ごめんなさいね(Excuse me.)」といって私の前を通られました。
私は全然構わなかったんですけど、度々だったので向こうは恐縮してらして。
気を遣われたのか、席に戻られるたびにちょっとしたことを話しかけてくださって、英語で会話をしてました。
そしたら、何度目かに席を立たれたときに、その方が、後ろの方に座っている娘さんと思われる方と話をする声が聞こえたんです。
日本語で(笑)。
日本の方だったんですね(笑)。
なんだー、みたいな(笑)。
まあ、普通は国籍がどこかなんて人に言ったり聞いたりしませんからね。
わからなかったですよね。
席に戻ってこられたときに私の方から日本語で話しかけたら、すごく驚かれました。
驚かれた?
ええ。
その方は最初から私を日本人じゃないと認識してらしたようなんです。
まったく日本人に見えなかったとすごくびっくりされて、逆に、な、なんでだ?って思いました(笑)。
ど、どうしてなんでしょうか?
私の英語の話し方がいわゆる日本人ぽくないみたいなことをおっしゃってました。
それは他の人からもよく言われるんですけど。
でも、それよりも、ちょうどペーパーバックを読んでたり、CAさんとも英語で会話したりしてたからなのかもしれません。
留学という意識があったので、行きの飛行機に乗ってから帰りの成田に着いて飛行機を降りるまでは一言も日本語を話さないぞって決めてたんですよね(笑)。
それが気迫で伝わったのかも(笑)。
(笑)。
せっかくの留学ですもの、できるだけ英語を使うようにしたいですよね。
実際、向こうにいたときはずっと英語で通して過ごしてきてたんですけどね。
日本人留学生と話すときでも。
でも、そんなわけで、その飛行機での隣の方とは、「なあんだ、日本の方でしたか」みたいになって、日本語の会話に切り替わって、より打ち解けました(笑)。
そしたら、今度は後ろに座ってらっしゃる娘さんの話から始まって、ご家族おひとりおひとりのお話をずっとずっと聞かせてくださって、終わらない終わらない(笑)。
なので、成田に着いて飛行機を降りるまでは一言も日本語を話さないという私の気概は、太平洋上空でもろく崩れました(笑)。
成田まできっとあと数時間でしたでしょうに(笑)。
でも『私のように黒い夜』も、“Soul Sister” も、読んでみたいです!
“Soul Sister” はぜひ佐々木さんに翻訳していただいて!
いいですね(笑)。
この本に限らず、英語で書かれた作品を読んでいると、人に紹介したくなることはありますよね。
ぜひぜひお願いしたいです!!
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お読みいただいてありがとうございます。
次回に続きます!
Vol.9② 法学徒の脇道 ⑵ 〜2014年冬、駒場〜
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