Vol.10④ 法学徒の手探り 〜2016年初頭、本郷〜
憲法も政治学も同じように、ひたすら関連の文献を集めました。
政治学は、教科書はあったんですけど、教科書で講義の範囲のすべてを網羅していたわけじゃなかったので、結局、講義で扱った中で自分でいくつかトピックを決めて、そこを深掘りしていく感じでいろんな文献から情報を入れて、それについて話せるようにしました。
先ほどの、口で言ってみるというやり方ですね?
そうです。
憲法は、先生がものすごく独自の、後にも先にも他に似た先生がいらっしゃらないくらい強烈な個性をおもちの方だったんです。
もうご退官された方ですけど、いつまでも印象的です。
お話が本当に面白かったです。
ただ、お話は面白いんですけど、声が小さくていらっしゃるので全然聞こえないという(笑)。
ええっ?!
講義でですか?
先生、マイクはお使いではないのですか?
いや、マイクはあるんです。
それでも聞こえないんです!(笑)
絶望的にマイクとお口の距離が遠いとか(笑)、マイクが先生の頭に向いてるとか胸に向いてるとか、肩に向いてるとか(笑)。
そもそも、マイクがオンになってないこともありました(笑)。
学生はみんな「マイク入ってない?」「マイク入ってないの?」「マイク入ってないよね!」みたいに内心思ってて、当惑した顔で周りを見回す人たちもいて、そんな中で先生だけマイクが入ってないことに気づかないまま講義が進んでいくんです(笑)。
いやほんと、笑いごとじゃなかったですよ(泣)。
……マイクのせい、ではないですね(泣)。
マイクのせいではないです(泣)。
授業中に教壇に行って、マイクの音量を上げて先生にマイクとの距離と角度を教えてさしあげようかと何度も思いました(笑)。
みんな聞こえなくて困っていて、声優がこの教室にいるのにマイクの調整もしないで座ってていいのか、みたいに思いましたけど、さすがにそれできませんよね(笑)。
もうこっちで高性能のマイクと爆音が出せるアンプを用意するべきかも、みんなの幸せのために、とわりと本気で考えたりもしました(笑)。
テレビの撮影とかで使う長いガンマイクを先生の頭上に吊るしたらどうだろうとか、集音マイクみたいなものをこっそり教壇の側面に貼り付けてみようかとか(笑)。
(笑)。
そんな感じでしたから、憲法の授業中は教室がものすごく静かでした。
先生の言葉が聞こえなくなるので、誰も音を立てられないんです(笑)。
みんな、ものすごく耳を澄ませて聞いていて、足音とか咳払いとかくしゃみとかでちょっとでも音を出した人は一斉にキッと睨まれたりします(笑)。
私も誰かを睨んだかもしれません(笑)。
ノートやなんかの紙物をぺらってめくる音もはばかられるので、みんな、そおっとそおっとページをめくるんです(笑)。
駒場キャンパスの900番講堂という大教室だったんですけど、憲法のときはピンひとつ落ちても聞こえるような空間になってました(笑)。
学生に集中して聴かせるために、あえて聞こえにくくされていたとか?(笑)
いえ、その意図はまったく持っていらっしゃらなかったと思いますけどね(笑)。
でも、たしかに集中して聴きました。
で、試験は、どの文献よりも、その先生が話された内容こそ理解できてないといけなかったんです。
また違う勉強法が必要になったんですね?
そうなんです。
試験対策をどうしたらいいのか本当に途方に暮れてました。
だって、まず、聞こえないというところからですよ!(笑)
こういう難関があったこともあって、2年生のときに憲法の試験を受けずに後回しにしたんですよね。
ああ、そういうことだったんですね(笑)。
でも、もう今回は受けるしかないと思って。
先生が憲法判例の膨大なリストを配られたので、その中で、講義で取り上げられた判例を全部調べて、カテゴリ分けをして、それらを先生がお話された内容や、先生の問題意識に基づいて理解しようとしました。
そして、どのカテゴリについても、そのように分けた理由と、カテゴリの特徴みたいなことについて語れるようにしました。
なるほど、先生の問題意識に基づいて!
長年その科目をご研究されてきた方の問題意識なわけですものね。
一方こっちはその科目についてまったく素人ですからね。
憲法については、文献を多少は集めて、あとは判例集一冊を辞書的に使いながら、講義内容に集中してひたすら勉強しました。
先生のお話された内容は、一部、というかだいぶ聞こえなかったので(笑)、それを補完するために文献を調べました。
最終的には、すごく大げさな言い方ですけど、自分の頭の中にその憲法の先生がいらして、先生がしゃべっているような感じで、試験の答案を書きました。
す、すごい!
いや、ものすごく大げさに言えばですよ!
先生と同じように理解してたとかでは全然ないですからね!
でも試験中は、講義で先生がおっしゃった通りのことを書けたので、ちょっとハイな気分になりました(笑)。
お話が面白かったって言いましたけど、決して憲法や法律だけのお話じゃなかったんです。
先生のご専門の国法学関連や、昔の東大法学部のお話も面白かったです。
中でも覚えてるのは、あるとき、ハリウッドの赤狩りの時代にリリアン・ヘルマンが非米活動委員会に召喚されたときのことを話されたんですね。
思わぬところで「リリアン・ヘルマン」という名前が出てきて本当に驚きました。
※アメリカ合衆国の劇作家です。
憲法の授業で!
リリアン・ヘルマンをご存知の学生さんの方が少なそうですよね。
私はリリアン・ヘルマンがすごく好きなので嬉しかったです。
ヘルマン原作の映画「ジュリア」が好きですね!
本だと『未完の女』が。
それに、『一緒に食事を』っていうレシピ集みたいな本も出てるんですけど、これもいいですよ!
レシピ集まで読まれるんですか!
映画にも本にも、本当にお詳しいですよね!
佐々木さんの映画と小説のお話は、それだけでも本当にそのうちどこかでお話していただきたいです!
で、その試験を受けられた4科目ですけど、成果としてはいかがでした?
それが、全部優をいただいたんです。
驚いたことに憲法は優上でした。
す、すごいです!!
あ、この勉強のやり方でいいのかも、と思って多少安心しました。
このやり方で来学期からも勉強していこうと。
もう4年生になるというところで、やっと、なんとなくですがやっと、法学部の勉強との向き合い方が見えてきた気がしました。
今思うと、時間の許す限りですけど、いちおうどの科目も、その時としてはやり込んだと思います。
文献を集めまくって読みまくるというのは、やたら時間のかかるやり方なので、いわゆるコスパがいい方法とは対極にあるんですけどね。
自分はもともと、勉強についてはコスパを求めないので、これでいいと思いました。
このやり方が楽しいと思えましたしね。
そうですよね。
社会人の方がお仕事に関係なく大学に行かれているのですから、そこで勉強にコスパを求めるのはおかしいですものね。
でも、次から次に試験を受けてきたので、単位を取った科目は試験が終わるとつい遠ざかってしまって内容も忘れかけてるのが悲しいところですね(笑)。
また復習しなければ!
それまでは法学の勉強に悩まれたりもしていらっしゃいましたけど、ここでこうやって結果を出されて。
やっぱりどんなことにもとことん手を抜かずに向き合われる方なんですね。
いや、これは決して私が真面目な学生だったというのでなくて、いやけっこう真面目ではありましたけど(笑)、正直に言うと、学部の試験に対してどこまで勉強すればいいのか見当がつかなかったんです。
だから、手を抜かなかったというより、そもそも手を抜ける判断ができるような状態になくて、それでやれるだけをやっていたら結果的にかなり深掘りになったという。
それは勉強の理想の形のような気がします。すごく。
もちろん、全範囲にまで手は回りませんでしたし、手元に集めておいて結局読めなかった文献もたくさんありましたし、深掘りといっても自分の感覚での深掘りなので、本当にその部分を深く理解していたかというと、そんなことはなかったのかもしれないんですけどね。
3年生冬学期の高成績、本当におめでとうございます!
それも、佐々木さんらしい取り組み方をされてのご成果、すばらしいです!
ありがとうございます!
「選択と集中」がうまく回りそうかなと思えるようになってきた、それが3年生の終わりでした。
さあ、次は4年生ですね!
この先が楽しみです!
どんな科目を履修されたのか、どんなお勉強をされたのか、まだまだお聞かせください!
次回は、4年生夏学期! 引き続き快進撃なるか?!
⁂
お読みいただいてありがとうございます。
次回に続きます!
Vol.11① 法学徒の自覚 〜2016年春、本郷〜
佐々木望の東大Days:https://todaidays-nozomusasaki.com
↑ 本noteの元記事
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