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Vol.14① 法学徒の判断 〜2016年秋冬、本郷〜

Vol.13② 法学徒の発見 〜2016年夏、本郷〜

わくわく感より粛々感

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▲この学期もまた「蒼穹のファフナー」イベントで歌い踊り舞い語る!

こうして、4年生の夏学期の試験でもすごく成果を上げられました!
ご自分の実感として、法学の勉強方法などがもうしっかりと身についたような感覚がありましたか?


佐々木(以下略) その、法学や法学の勉強方法がしっかりという感覚は、実はいまだにないんですよね。
ただ、この頃はもう、法学部に入ったばかりの頃のわくわく感とか法学がわからない焦燥感とかはなかったです。

それよりも、法学の勉強に対しても、大学で単位を取っていくことに対しても、粛々感みたいなものを感じてました。

粛々感?

変な言い方ですけどね。

法律への興味は尽きないですし、勉強することは楽しいんです。
でも、その取り組み方が、好きなものに対してわくわく取り組むというよりは、好きなんだけどタスクみたいに捉えて、ひとつひとつの科目を確実に理解して試験を確実にパスする、それが自分に課せられた業務というか使命というか、という感じに変わってきたんです。

うん、タスクですね。対象にパッションはもちながら、確実に、かつできるだけ良い結果を出すように取り組んでいくという。

それはきっと、お仕事に対してとすごく似た取り組み方なのかもしれませんね。
プロフェッショナルの、というか。


ああ、仕事もそうですよね。
声の演技も、好きなことで、パッションは尽きないですけど、取り組んでるその瞬間は、わくわくというよりは確実にとかしっかりととかいう精神状態でいますもんね。

だから、勉強も、派手系な刺激がモチベーションアップになったというよりは、むしろ粛々と頑張ってる人を見ることがモチベになってたと思います。

東大野球部のエースでいらした宮台康平さん(現・北海道日本ハムファイターズ所属)も法学部生だったんですけど、よくご活躍を拝見してました。
当時の報道で、宿舎に六法を持ち込んで、夜は試験勉強されているという記事を読んで、「おおー、宮台さんも頑張っている!」と嬉しくなって、自分も頑張ろうと発奮しました。

そうなのですね! 宮台さんとは同学年でいらしたんですか?

いえ、学年はもともとは私の方が一年上でしたけど、私は学部の長期滞在者なので(笑)、2回目の4年生では同学年になりました。
お目にかかったことはないんですけど、きっと同じ科目を履修してたと思いますし、同じ試験を同じ教室で受けていたと思います。
ひそかに応援してました。

では佐々木さんもスタジオに六法を持ち込んで?(笑)

いや、スタジオで法律の勉強はしなかったですよ!(笑)
鞄に入っていることはよくありましたけどね。重いですけど。



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ラスボス民法第3部


この冬学期は、必修科目として「民法第3部」を履修しました。

民法という科目がこれまで何度もお話に出ていますが、民法第○部というのは扱う範囲で分かれているということでしたよね?

ええ。
夏学期の民法第4部は親族法と相続法だったんですけど、民法第3部は債権総論と担保物権法が範囲でした。

物権と債権とか、耳にすることはあっても一般的にはそれほど馴染みがないというか……。

ざっくりいうと、物権というのは人が物に対してもつ権利のことで、債権というのは人が人に対してもつ権利のことなんです。
……これじゃちょっと抽象的すぎですけど。

物権と債権についてもうちょっと読んでもいいよという方はコチラ

民法では、財産がよく問題になるんですけど、その中で三つの関係性を考えることができるんです。

ひとつは、①人が物に対してもつ関係です。
たとえば、私がペットショップで血統書つきの犬を買ったら、その犬はショップにいたときから受胎してたみたいで、家に来たらいきなり子犬を産んだんだけど、この子犬の所有権ってペットショップにあるの?それとも私にあるの?みたいな。

ちなみに、心情的にはだいぶ違和感がありますけど、民法とか刑法の上では、ペットって「物」と同じ扱いなんですよね。

もうひとつは、②人と人との関係で、契約によるものです。
私ピカソ大好きなんですけど、たとえばピカソの絵を本物と信じて買ったら後になって贋作だとわかって、ぎゃーそんなん話が違うわ、あんたとの売買契約はなしじゃ金返せ!とか。

絶対絶対迷惑かけないから借金の保証人になってって知り合いに頼まれて、嫌だけど断れなくて保証人になったら、その知り合いが連絡取れなくなってしまって自分のところに取り立ての人が来た、どうしよう!とか。
保証人には絶対なっちゃいけないって、まだ意味もわからない子どもの頃から聞いてたフレーズでしたけど、民法第3部でやっとその意味を詳しく知ることになりました(笑)。

残りのひとつは、③人と人との関係だけど、契約によらないものです。
たとえば、私が道を歩いているとヤギがいたとして、どこからか逃げてきた様子なので、そのままにしておけないと思ってそのヤギを捕まえて持ち主を探してたんですけど、その間にヤギが私の持っていた六法を食べてしまいました(うメエ)。
その後ヤギの持ち主と出会えて、ヤギを無事に返せたんですけど、で、私はヤギの持ち主に対して、「おたくのヤギさんが私の六法を食べてしまったので、新しい六法を買ってくださいな」と言えるのか、言えないのなら、私は厚意でヤギを保護したのに私の大事な六法は食べられて、それってどうなの?みたいなことです。

①を、人が物に対してもつ権利「物権」といって、②と③を、人が人に対してもつ権利「債権」というんです。

それと、よくローンなんかで「家を担保に」なんて言いますけど、借りる人の財産をあらかじめ押さえておくのが「担保物権」です。


で、この民法第3部は、東大法学部の科目の中で「ラスボス」と呼ばれてるんです。

ラスボス?! そ、それは、一番難しいということですか?

難しい、というのに加えて、範囲が膨大なんです。
他の法律科目もだいたい範囲が膨大ですけど、その中でも超膨大というか……。

そして法学部は単位認定も厳しいので、民法第3部の試験を3年生のときに受けて不可になる人もわりとたくさんいるんですね。

不可になると、単位は取れないので……。

そうですね、そうなったら翌年の4年生でもう一度試験を受けないといけないんです。

しかも、これ、(当時は)法学部生全員にとって必修科目なんですよね。
だから、4年生で受ける人は単位を取れないと留年が確定してしまうんです。

卒業をかけた試験なんですね。

ですね。
この大物をクリアしないと法学部を卒業できないという。

就職先が決まってても、1月の試験で民法第3部を落としたために留年して、就職も白紙に戻ったという先輩がかつて何人もいらしたという話を聞いて戦慄しました。

こわい!
本当に「ラスボス」ですね。


試験範囲が膨大ということは、教科書なども分厚いのですか?

私の受けた年に指定された教科書は、債権総論が600ページ、担保物権法が500ページくらいでした。
教科書の他に判例集も使ったんですけど、それも400ページくらい。
さらに、講義の書き起こしも読まないといけなくて。
書き起こしは600ページ以上ありました。

うわあ……。
全部合わせて2000ページ超えるじゃないですか!!
1科目で!!


あらためて、やっぱり膨大ですよね。
これ全部頭に入れることなんてとてもできなかったです。

在学期間を延ばしたのであと2年あったんですけど、この民法第3部に関しては、落とした人たちの話をいろいろ聞いてしまってこわくなったので、翌年に回そうなんて考えずにこの学期で単位を取ろうと思ってました。



お読みいただいてありがとうございます。
次回に続きます!
Vol.14② 法学徒の判断 〜2016年秋冬、本郷〜

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↑ 本noteの元記事

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