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Jimin "Alone" 繰り返される墜落 ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.087

寸分違わぬ 一日が
またしても流れゆく
どれだけ耐え抜けば
俺は元に戻れるのか?

Alone


いつからだっただろうか
目の前で笑っている皆が
恐ろしく感じられるのは
逃げ出そうとしたけれど
進む道を失ってしまった
今の お前

酒に酔い寝入って思い出せない時
考えてみた 今俺は何してるのか
何故 俺だけがこんなふうなのか
いいや、誰もが皆そうなんだよな
毎度 平気なフリをする俺の姿が
情けなく 感じられる

寸分違わぬ 一日が
またしても流れゆく
どれだけ耐え抜けば
俺は元に戻れるのか?

冷たくて寂しい夜
何も考えずに
明かりの消えた部屋の中を歩く 俺独りで
大丈夫だと言っていたけれど
ますます自分を
失っていくだけみたいだ

絶え間なく繰り返される墜落
不吉な黄昏に背を向けるけど
絶え間なく繰り返される墜落
(助けて 俺を連れ出してくれ)
うまくいくさ 大丈夫だろう

嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘

お前は
まことしやかな弁明をしてみても
目を閉じ素知らぬ顔をしてみても
わかってるだろ
既にダメになったことは
後戻りは できないんだ

寸分違わぬ 一日が
またしても流れゆく
何を どうすれば
この暗闇は終わりになるのだろうか?

冷たくて寂しい夜
何も考えずに
明かりの消えた部屋の中を歩く 俺独りで
大丈夫だと言っていたけれど
ますます自分を
失っていくだけみたいだ

絶え間なく繰り返される墜落
不吉な黄昏に背を向けるけど
絶え間なく繰り返される墜落
(助けて 俺を連れ出してくれ)
うまくいくさ 大丈夫だろう

嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6194164

『Alone』
作曲・作詞: Pdogg , Jimin , GHSTLOOP , Evan


*******


今回は、2023年3月リリースのJiminのソロアルバム第1集「FACE」収録曲 "Alone" を意訳、考察していきます。

パンデミックの間の活動を通して感じた「寂しくて空虚な感情をたくさんこめた」とインタビューで語るジミン。他にも無気力、恐怖、心配といったキーワードを並べ、当時の感情をレコーディングで再現するために苦労したと振り返っています。↓

冒頭に挿入された目覚ましのアラームからは、代わり映えのない一日が容赦なく訪れた時の虚無感が伝わってきます。スケジュールが頓挫して、極端に言えば「食べて寝るだけ」の生活が彼らにとってどれだけ精神的に過酷なものであったのかが窺われます。
近々のグループ楽曲で言うと、"Dis-ease" が同様の心境を下敷きにしているのではないかと思われます。

"Alone" と同じ時期の気持ちを元に作業されたであろうBTSのアルバム「BE」は〈疲弊した世界がその鬱を周囲に理解され、癒されて、自身(自信)を取り戻し、幸せになるまでのストーリー〉であったと私は受け止めているのですが、「BE」が暗闇の中でもなんとか工夫して光を見出そうとするまでの物語であったとすれば、「FACE」はそんな闇の中のありのままの自分を同じ闇の中に敢えて飛び込んで見つめ直す行程なのではないかと思います。

楽曲 "Alone" は、そんな「BE」とはある意味対照的なスタンスでこの数年を振り返る「FACE」を構成している感情たちの、最もコアな部分であると思われる「孤独感」をあるがままに綴ったものとなっています。



1.「お前」=「

歌詞には「お前」という二人称が登場します。これは自分以外の誰かに対する呼びかけではなく、兼ねてより自身との対話をテーマに楽曲制作を重ねてきた彼が用いる、自分自身に対して物言う際の「方法」のひとつであるのではないかと思います。

언제부터였을까
(いつからだっただろうか)
눈앞에서 웃고 있는 모두가 무섭게 느껴져 ※1
(目の前で笑っている皆が恐ろしく感じられる)
도망치려 했지만 ※2
(逃げようとしたけれど)
갈 길을 잃어버린 지금의
(行く道を失ってしまった今のお前)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6194164

※1 느끼다(感じる)+지다(~られる)=感じられる(参考
※2 ~려(고) 하다 ~しようとする(参考

넌 그럴듯한 변명을 해봐도 또
(お前はもっともらしい弁明をしてみても また)
눈을 감고 외면을 해봐도 oh
(目を閉じて無視をしてみても)
알잖아 이미 망가진 건
(わかっているじゃないか 既に壊れてしまった事は)
되돌릴 수 없는 걸
(後戻りすることはできないんだ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6194164

あらゆる行動を制限される中、なんとかして「こうありたいと思う自分」を保とうとする一方で、自分の力だけではどうにもならない現状に絶望する様が綴られています。彼にしかわからない彼自身の感情を自分で自分に突き付けることで、その生々しさが一層際立っています。


2.朝4時の君へ

"Alone" の歌詞を読んでいると思い出す、どうしても頭から離れないWeverseの投稿があります。2021年のとある夏の日、夜明け前の「毎日毎日会いたいです」というジミンの投稿です。

この時、正直言って「この子大丈夫かな…」とめちゃくちゃ心配したのをはっきりと覚えています。↓

少年の頃から実力で舞踏の道を歩み、デビューしてからも当然「表現している自分を誰かに見せる」事で自分の輪郭を確かめ続けてきた彼が突然「(直接)人に見てもらえなくなった」今のこの状況が、どれだけ心許ない事か。
実際には世界中に彼を見守っているARMYさんがたくさんいるのですけれど、そしてもちろん本人だってそれはわかっているのだろうけれど、喝采や歓声を直に浴びる事が出来ない配信や収録ライブを重ねる度に、その不在に対して感じる虚しさとどうやって向かい合っているのか、それを考えると胸が痛い。
――"네시(4 O'CLOCK)" 考察記事より抜粋

https://note.com/nozomiari/n/n7bc836c10a76

その後すぐ私は「MAP OF THE SOUL ON:E」を購入したDVDで鑑賞することになるのですが、そこで目にしたのは、彼が舞台上で涙する姿でした。

「슈취타」第7回では、"Like Crazy" の作業をしていた頃、行き詰っていた自分に気付かずに楽しい曲を書こうとしていたと打ち明け(ハイになろうと)お酒も飲んで酔っ払って…と振り返っています。
傍から見ればおそらく典型的な「荒れた生活」を送っていたのではないかと思うのですが、メンバーは皆そんな彼に敢えて声を掛けることはなかったとユンギが話しています
そんな状態のときに「大丈夫か」と声を掛けるのは逆効果だ、と。

この判断に同意を寄せるジミンは、"Alone" の歌詞でこう言っています。

괜찮다 했었지만
(大丈夫だと言っていたけれど)
점점 날 잃어가는 것만 같아
(ますます俺を失っていくだけみたいだ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6194164

ちなみに「BE」収録の "Blue & Grey" には、ユンギが書いたこんな歌詞がありました。

괜찮다고 하지 마
(大丈夫って言わないで)
괜찮지 않으니까
(大丈夫じゃないから)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/32075137

そんな中、コロナウイルス感染と虫垂炎が重なり手術・入院、しばらくの間の静養を余儀なくされたのが2022年1月末
虫垂炎を引き起こす細菌増殖の原因のひとつとして「不規則な生活や暴飲など」も挙げられるとのもあり、当時の彼のコンディションが元々決して良くはなかったことがうかがわれます。

その後ジミンは、PTD ON STAGEのラスベガス公演(2022年4月)の際に「目が覚めた」とのこと。
この時我に返ることがなかったら、ソロアルバムも出ていなかった、と。↓

"Alone" という楽曲が世に出たことによって、私の中でずっと気がかりだった「朝4時の君」の存在が相殺されたというか…確実なことを知る由もない彼の私生活や心境に対する個人的な心配が少なからず的中していたことによる落胆と、もうそんな心配は全く無用なのだという安堵が同時に訪れた気がしています。

パンデミックによって囲い込まれてしまった闇の中で、自分自身の弱さや本音と対峙することに及び腰だった彼は、まだこの歌詞に書かれている状況の時点では一縷の望みすらつかめないままでいます。うまくいく、大丈夫と言いながらも、それが嘘であることに気付いているのに気づかない振りをしようとしている。

曲を覆う負の感情があまりに深いこの "Alone" ですが、彼がそれらを克服した証拠でもあるのだと思うと、後に続く "Set Me Free Pt.2" はひとつの「勝利宣言」であるとも言えるのではないかと思います。

"Face-off"、"Like Crazy"、"Alone"、"Set Me Free Pt.2" と、アルバム「FACE」の楽曲歌詞をここまで辿ってきてみた上で今現在の彼の表情を見てみると、この丸二年で起こった全てのことを受け入れ、完全に自分のものにしたのだということがありありと伝わってくるようです。そして、これからどうありたいかという目的に対する強い気概も感じます。

人間パク・ジミンの今後から目を離すことは本当に難しいですね。



今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
🥃