BTS "병(Dis-ease)" 朝だよ、今日を生きなくちゃ! 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.039
병(Dis-ease)
何か 見過ごしたみたいだな
コーヒーひと口で不安を解消
終わらない休息
僕に急に近づいた迷惑な幸せ
24時間 有り余って仕方ない
一日中眠っても今は問題ない
体に鞭を打ってでも
何かをするべきみたいだけど
ひたすら一日三食全て食べる
僕という能天気な奴
僕の罪 罪、罪、罪
休息は僕自身を噛みちぎる犬
やめろと叫んでみても
成果にすがり寄る毎日
日々やることをやって
もし失敗しても
吠え叫び続けて
朽ちた綱を選ぶ
危険だよ これは病気
物理的なのは
職業が与えている衝撃
たぶん 僕が辛いから
そして考え過ぎたせい
嫌いだよ
単純じゃない幼い僕
僕も本当に幼いよな
身体だけ大人
足を引き摺る 人生の歩み
第一に笑顔 第二にショー
あっという間に僕は超元気
毎日僕を労わるよ
誰もがみんな同じ人間なのさ
そこまで特別じゃないってば
そう ワン、ツー、その調子!
落ち着いて全部治してみよう
僕の病気 捨てなよ 恐れを
心にも休暇が必要だよ
ただ仕事は仕事でやる
僕は病気だ そうさ
僕が 仕事そのもの
休息という友 ああ
僕は彼が好きじゃなかった
幾ら稼げば幸せだろう?
このガラスみたいな病が
殴るよ お前の頭を
病んだのは
世界なのか 僕なのか
わからなくなるよ
メガネを外しても
暗闇は薄まらない
この 時間の後で
どんなラベルが付こうと
どうかそれが全て
君であるよう願うよ
君の君
残らず病人だらけだ
僕が理解し難いのは
人間とは元来
醜悪な心を持つということ
心の病の種類だけで
400個以上にもなるが、
該当しない者が大していないこと
なぁ 病んだのは
世界なのか 僕なのか
単純に、見通している解釈の違いなのか
それが全てなのか 僕はわからない
誰かを変えてみること
それより早いのは僕が変わること
たぶん 僕が辛いから
そして考え過ぎたせい
嫌いだよ
単純じゃない幼い僕
僕も本当に幼いよな
身体だけ大人
足を引きずる 人生の歩み
第一に笑顔 第二にショー
あっという間に僕は超元気
毎日僕を労わるよ
誰もがみんな同じ人間なのさ
そこまで特別じゃないってば
そう ワン、ツー、その調子!
落ち着いて全部治してみよう
僕の病気 捨てなよ 恐れを
もううんざりだ
でも僕は台無しにしたくない
人生は続いていくものだから
燃え盛る炎を掻い潜り
歩いていくつもりだよ
もっと僕らしく
(歩いて行こう!行こう!行こう!)
夜になれば目を閉じて
(歩いて行こう!行こう!行こう!)
僕が知ってた自分を再び信じるよ
さあ 起きて!もう一度
また朝だよ!
今日を生きなきゃならない
行ってみよう!もうひと晩
その終わりに
何かがあるかもしれないよ
永遠の夜はないさ
僕は強くなったよ
火花が噴くよ
僕は決して
消えてなくなりはしない
毎日僕を労わるよ
誰もがみんな同じ人間なのさ
そこまで特別じゃないってば
そう ワン、ツー、その調子!
落ち着いて全部治してみよう
僕の病気 捨てなよ 恐れを
韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/32075140
『병(Dis-ease)』
作曲・作詞:j-hope , Ivan Jackson Rosenberg , GHSTLOOP , RM , Pdogg , SUGA , 지민 , Randy Runyon
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今回は、2020年11月にリリースされたスペシャルアルバム「BE」に収録されている "병(Dis-ease)" を意訳してみました。
この楽曲はJ-HOPEが作詞作曲に主力として参加した作品で、クレジットには他にSUGA、RM、JIMINの名前も挙がっています。
1.不(Dis-)+安(ease)=Disease(病)
「BE」のビハインドエピソードを語るインタビュー動画にて、J-HOPEへのインタビューはVが担当しています。↓
この動画でホビは自ら語っていますが、「병(意味:病/瓶)」 という名のこの楽曲では「職業病」がテーマとして掲げられています。
欲しがっていた休暇がいざ手に入ったとたんに感じる、何かしなきゃならないのでは、という「不安」。この不安感を、本来「Disease(病)」となる綴りを敢えて「Dis-(不-)ease(安らぎ)」とすることでタイトルにも反映させています。
何もない日だからこそ何かやらなくては、という気持ちは私も常にあります。「体に鞭を打ってでも何かをするべき」とか、「休息は僕自身を噛みちぎる犬」とか。すごく共感します。
私の場合仕事の半分が妻業・母業なので「今のうちにあれやらなきゃ」「この隙にこれやらなきゃ」のエンドレスリピートということもあり、自分のことだけに集中できる方が考える職業病のイメージとはまたちょっと違う気持ちなのかもしれませんが…自分のやりたいことを済ませる為ならどんな隙間時間も無駄にできない!という気持ちがとても強いです。
たまに「なんでそんなに時間がない、ないって言うの?」と家族から疑問に思われます。私の場合、アウトプットに費やす時間が特に足りません。音楽や映画・ドラマ鑑賞などのインプットは「ながら」でもできることが多いのですが、絵を描いたり文を書くといったアウトプットにはそれなりの環境とまとまった時間が必要なので、なかなか「制作欲」が解消できず、常にストレスを感じている状態です。(なんなら今、この文章も、夕飯のシュウマイを蒸し器で蒸しながら書いています。)
だから本当は身体はきついのに、今やらなきゃ次いつ時間がとれるかわからない、という強迫観念から無理して夜更かししたりして…。
そんな風に「やりたい事(趣味など)」と「やるべき事(仕事、もしくは成果を出したいジャンルのこと)」の境目が曖昧な人が敢えて身を滅ぼすような行動を選び取ってしまうことについて、"병" の歌詞では次のような表現が成されています。※引用文につけた和訳は直訳
2.「朽ちた綱」を選ばないように
「썩은 동아줄(朽ちた太い綱)」は、韓国の「해님 달님(お日様 お月様)」という童話がモチーフになっているようです。
この「해님 달님」、2020年5月にV LIVEで公開された「슙디의 꿀 FM 06.13」ジンくんゲスト回の読み聞かせコーナーで取り上げられており、ジンくんとユンギの熱演を楽しむことができます。(07:09~)↓
―余談ですが…
以前の記事でも書きましたが、声優ヲタ歴30年余りの私の耳が聴く限り、俳優を志していたジンくんは言わずもがな7人全員「声」の演技がめちゃくちゃ上手い。見せる演技と聴かせる演技とでは必要とされるスキルが別次元なので(俳優が声優業に手を出すと下手だと叩かれがち)、歌手としての表現力が声の演技と相性が良いのではないかと思います。タルバンのアニメ吹き替え回も超絶面白かった。
さて、肝心の童話の内容はというと、綱が出てくる部分のあらすじはこのような感じです。
世にある数多の伝承話と同様、この「해님 달님」もご多分に漏れず、紹介されている先々で内容が少しずつ異なっているようです。꿀 FMで朗読されているバージョンは、虎が間違えて腐った綱を降ろすよう神様に頼んでしまった為、千切れて落ちてしまったというオチになっています。
"병" の歌詞においてこの「朽ちた綱」を選び取る行為は、「やりたい事」と「やるべき事」の境界線がはっきりしない人が知らぬ間に受けてしまう身体的なダメージに対する警鐘なのだと思います。
「物理的なのは職業が与えている衝撃」とは正にこのダメージのことを指していて、精神的・論理的な職業病を進行させると肉体的・物理的に悪い方向(綱が切れて落下してしまう)に向かってしまうんだよ、と。逆に、今現在身体が不調をきたしているならば、それは職業病のせいかもしれないよ、と自覚のない人にも訴えかけているのです。
インタビュー動画でホビはテテの質問に答える形で、「楽曲制作において最も重要だと思うこと」について答えています。一つは「今自分が何を感じているか」、そしてもうひとつ、「キーワード」の重要性も挙げています。
私がこれまで翻訳してきた作品の中だけでも、ホビが取り上げているキーワードにはそれ自体が物語の顔(実際に物語のタイトルも含まれている)だとも言えるような選りすぐりの言葉たちが並んでいます。
「灰色のサイ」(Blue & Gray)
「耳の下のステッカー」(Whalien 52)
「海底二万里」(Hope World)
そして今回の「朽ちた綱」然り。丁寧にリサーチした上で使われているこれらの具体的なキーワードは、それ自体が歌詞の世界を更に深く知るための入り口となっているので、必ずその扉を開けて中の世界を覗いてみることをおすすめしたいです。彼はこういう文学的な表現がすごく上手だなぁ、思慮深い人だなぁ、と毎度しみじみ思います。お父様が文学の先生でいらっしゃったというバックボーンも影響しているのかもしれませんね。
☆
キーワードと言えばナムさんのパートでも、例のごとくハイレベルな言葉遊びが繰り広げられています。※引用文につけた和訳は直訳
ここは「일(仕事)」と「ill(病んでいる)」の発音を掛けているのだと思われます。
また、インタビュー動画でホビからも言及がありましたが「병」の同音異義語である「瓶」と掛けた表現も成されています。※引用文につけた和訳は直訳
「この時間」を乗り越えた時にどんな肩書(ラベル)がついていても、仕事で身体を壊す(ガラスみたいな病=職業病に殴られる)ことなく「自分は自分のもの(君の君)である」というコントロールの効いた生き方をして欲しい。そういう思いがこの節には込められているのだと思います。
3.Just like I'm so fine
職業病をもたらす「不安」には、
・休んでいる間に成果面で誰かに先を越されてしまうかもしれない
・休んだ分だけ金銭的に損をするかもしれない
・休んでいるうちに居場所がなくなるかもしれない
などといったものが含まれるかと思います。
また、彼らほど唯一無二の著名人ともなると「自分の代わりはいないのに休んでなんかいられない」といったことまで考えてしまう可能性もあるでしょう。それらは「不安」であると共に「恐れ」でもあるのです。
「不安」「恐れ」といったものは、自分の身ひとつで人前に出ることを生業としている彼らが常に抱えているであろう感情です。何故なら「自分=仕事」、I'm 일だからです。では、今となっては切っても切れないその関係を保ちながら、いかにして「不安」を乗り越え職業病を、身体的苦痛を回避するのか。
抱えている「Dis-ease(不安)」によって体が不調を来しているのかもしれないと気が付いた「僕」が負のスパイラルから抜け出すためにしたことは、「自分で自分を労わること」そして「自分は特別ではないという自覚を持つこと」でした。※引用文につけた和訳は直訳
ホビが「自分の話」として始めた物語だということを踏まえてこの歌詞を読んでいると、「Ay man keep one two step」の所などはダンスレッスン中の風景が思い浮かびます。お前はよくやっているよ、と労い、みんなも同じだと安心させる。落ち着いて、恐れを捨ててと背中を押してくれる。いつも練習室でチームを引っ張っている彼がエールを送っている姿は想像に難くありません。
また、前出のサビ部分の直前に出てくるフレーズもホビっぽいなぁと思いながら読みました(サビ含めこの部分の作詞は彼じゃない可能性もあります)。
こちらのページから飛んだリンク先の解説によると、この「One for ~ two for ~」の言い回しは、古くからあるカウントダウンの定型句が元になっており、様々な楽曲で引用されているようです。
つまり「One for ~」の部分は、I'm so fineになるまでのカウントダウン、ということになります。moneyが laughに差し替えられているところが粋ですね。笑顔でショーをしたら元気になれる!というニュアンスも感じます。トラック的にもここからサビに向けて盛り上がりを見せる部分なので、不安を解消するために自分を鼓舞していく雰囲気が歌詞にもあふれています。
そして、ジミンちゃんが作曲をし、ナムさんが作詞をしたというブリッジに突入すると、さらにその高揚感がヒートアップしていきます。
4.言語を超越する表現力
楽曲制作過程で行き詰ってしまったホビが、ナムさんとジミンちゃんに助けを求めたことにより今の形に仕上がったというブリッジ。(詳細は動画参照)
できないことを無理してひとりで進めずに、周りの力を遠慮なく求められるホビをすごく尊敬しますし、そういう環境があるということがとても素晴らしいなと思います。
「うんざりだ」という本音から始まるこのブリッジの歌詞の中でも、私が特に好きな部分はグクとテテの掛け合いの部分から始まる以下の部分です。※引用文に付けた和訳は直訳
「不安」について歌ってきたこの楽曲のラストでは、それらを払拭して今の世を生き抜いていこうとする強さを表現するために、エネルギッシュで多元的な歌詞を求めていたというホビですが、なかなかうまくいかずウリリーダーに助けを求めたとのこと。
このブリッジなのですけれど、音だけ聴いていた時と、歌詞の意味を知った時の印象のギャップが限りなくゼロに近くて鳥肌ものでした。
聴いていると励まされる、背中を押してもらえる、歩きだそうと思える、やってやるぞと上を向ける…そう感じながら今まで聴いていたからです。
つまりは、メロディー・トラック・声色・パート分けといった言語要素抜きの手段だけで、言語相当(あるいはそれを超えるもの)の表現力を彼らは持ち合わせている、ということなのだと思います。
歌詞を知る事で楽曲を一層深く理解することができるのではと思い、こうして1曲1曲翻訳を進めてはいますが、世界中の人が彼らの楽曲を愛し始める理由はその言語を超越した表現力にあるのだなとあらためて思いました。
2019年12月のV LIVEでユンギが、流れてきた英語のコメント(「何を言っているのかわからないけど愛しています」)に対して「わからなくてもいいんです」と返した後にこう続けています。
それでもやっぱり私は、彼らが言っていることを言葉でも知ってみたくて、今日も今日とてこうして韓国語と向き合っているのでした。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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