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BTS "Dynamite" アルバム「BE」が示した光 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.42

今夜 僕は煌めきの中 だから見守っていて
たかぶる熱い気持ちが この夜に火を灯すのを
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

Dynamite


今夜僕は煌めきの中
そう 見守っていて
たかぶる熱い気持ちが
この夜に火を灯すのを

朝起きて 靴を履くよ
一杯のミルクでさあ始めよう
転がる石のように絶え間なく
ドラミングするキングコング
歌唄う 我が家への道
てっぺんまで飛べ レブロン
僕の電話を鳴らしてよ
冷たい紅茶と卓球を愉しもう

段々と低く重たくなっていく
ベースの音が聴こえるかい?
僕は覚悟できている
人生は蜜の如く甘し
カネの音に聞こえるそのビート
ディスコは最高潮
ノリにノってる 準備万端さ
僕はダイアモンド
輝いてるのがわかるでしょ?

それじゃあ さあ、行こう!
今夜 僕は煌めきの中
だから 見守っていて
たかぶる熱い気持ちが
この夜に火を灯すのを
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

一緒に来たいのなら
友だちを連れてきて
この輪に加わってよ 誰でもいいよ
その通り!言えてる
僕らただ馬鹿みたいに踊る
昼夜構わず 空は輝くから
朝が来るまで踊り明かそう

紳士並びに淑女の皆様
僕には信頼できる音楽がありますので
安心して楽しむことに集中して下さいね

段々と低く重たくなっていく
ベースの音が聴こえるかい?
僕は覚悟できている
人生は蜜の如く甘し
カネの音に聞こえるそのビート
ディスコは最高潮
ノリにノってる 準備万端さ
僕はダイアモンド
輝いてるのがわかるでしょ?

さあ、行こう!
今夜 僕は煌めきの中
だから 見守っていて
たかぶる熱い気持ちが
この夜に火を灯すのを
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

Dynnnnnanana
人生はダイナマイト
Dynnnnnanana
人生はダイナマイト
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

Dynnnnnanana eh
Dynnnnnanana eh
Dynnnnnanana eh
明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

Dynnnnnanana eh
Dynnnnnanana eh
Dynnnnnanana eh
明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

今夜 僕は煌めきの中
だから 見守っていて
たかぶる熱い気持ちが
この夜に火を灯すのを
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

今夜 僕は煌めきの中
だから 見守っていて
たかぶる熱い気持ちが
この夜に火を灯すのを
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに

Dynnnnnanana
人生はダイナマイト
Dynnnnnanana
人生はダイナマイト
少しのFankとSoulがあれば
街には光が差し込むよ
そして僕は明かりを灯そう
ダイナマイトみたいに


英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/32021988

『Dynamite』
作曲・作詞:David Stewart , Jessica Agombar


*******


今回は、2020年8月にデジタルシングルとしてリリース、そして同11月発表のスペシャルアルバム「BE」にされた "Dynamite" を意訳しました。

言わずと知れたこの歴史的大ヒット曲は、デジタルシングルのリリース日にオンライン開催された記者懇談会にて明かされている通り、シングルリリースを想定して始まった楽曲ではありませんでした。アルバム収録を見越した作業の中で、最早今となっては「運命的」に見出された "Dynamite" は、リリースと共に様々な媒体で快進撃を始めたのです。

ビルボードチャートHOT100初登場1位他、各方面での活躍を祝う公式ツイート



1.Light it upに込めた想い

"Dynamite" はDavid Stewart、Jessica Agombarの2名がCo-Writingで作詞作曲した作品で、クレジットに載るバンタンメンバーの名前は全員「Vocals」となっています。

その制作過程がJessica Agombar本人によって詳細に語られているインタビュー記事がこちらです。↓

“What would they need to say right now to uplift the world? It needs to be energetic, fun, hopeful, positive and just like a huge ball of energy.”
(世界を高揚させるために、彼ら(BTS)が今何を言う必要があるのか
それはエネルギッシュで、楽しく、希望に満ち、前向きで、巨大なエネルギーの球のようである必要があります。)

https://www.billboard.com/music/pop/bts-dynamite-jessica-agombar-writer-interview-9448606/

このような目的を持って制作された "Dynamite" は、歌詞においてもBigHitとの綿密なやり取りの上で使用する言葉が厳選されていったと語られています。

前出の記者懇談会にて、全編英語歌詞になった理由は「曲とメロディーを考えた時に、英語の方がより似合うと意見が一致」したからとVが説明しています。
また、同記者懇談会にてSUGAは、「幸せと自信」を主たるメッセージと紹介し、「“明かりを灯す”という意味の「Light it up」という歌詞が、多くの皆さんにとって力になることを願っています。」と発言しています。(出典)

隔離と断絶の年、2020年。
閉ざされた暗闇で誰もが求めていた「光」がひとつの楽曲となって、現れるべくして世に現れた。
それが "Dynamite" だったのです。


2.ディスコ・ポップ・ミュージック

"Dynamite" はいわゆる「ディスコ」と呼ばれるジャンルのポップ・ミュージックです。
「ディスコ」という言葉自体が人類にとっての「良き時代」と同義と言っても過言ではないのではと個人的には思っています。何故なら、「音楽に合わせて気持ち良く体を動かす」ことを追求したディスコ・サウンドは人々を幸せにできる魔法のような音楽であり、楽しむ側は複雑な知識もスキルも必要ないからです。
人々に幸せをもたらすという使命を担った "Dynamite" が、そんなディスコ・サウンドとして形になったのは必然的だったのではないかと思います。

必然的と言えば、バンタンとディスコとの関係を遡ってみると意外なところで接点がありました。


■Let's Disco!
彼らのデビューシングルアルバム「2 COOL 4 SKOOL」の1曲目、"Intro : 2 Cool 4 Skool" は、音源をサンプリングした「Ready, set, and begin」という印象的なフレーズから始まります。
これは1978年にK-Tel Recordsより発売された「Let's Disco!」というレコードに収録されている音声です。(出典:「Blood, Sweat & Tears-BTSのすべて」P114 "Intro : 2 Cool 4 Skool" の項)
※同じサンプルはEpik Highの楽曲 "Go" (2003)でも使用されており、また、2020年2月にリリースされた「MAP OF THE SOUL : 7」のJ-HOPEソロ曲 "Outro : Ego" でも再登場します。

「Let's Disco!」の原盤は残念ながらデジタル音源化されておらず、動画サイトにあるものも公式動画ではないので紹介は避けますが(検索してみて下さいね)、まさにゴリゴリのディスコなのです。

彼らが初めて世界を手に入れることになった記念すべき1曲が、まさかディスコ・サウンドになるだなんて…そんなことおそらく誰も考えていなかったであろう時代に既にあったディスコとの縁。サンプルを取り上げたきっかけが尊敬する大先輩だったとしても、ちょっと鳥肌ものです。


■Off the Wall
また、歌詞の上でディスコの要素を探るうちに「off the wall」というフレーズに目が留まりました。
以前書いた "여기 봐(Look Here)" の記事で「iTunesの検索窓に「Funk Soul Disco」と入れるとトップに出てくるアルバム」として紹介させていただいた、Michael Jacksonのアルバム「Off the Wall」を思い出したのです。(この記事を書いている2022年5月時点でも変わらずトップに出てきます)

「型破りな」という意味を持つこのフレーズに、FunkSoulDiscoの金字塔であるMJ作品の存在を潜ませている可能性はあるのではないかと思います。


3.僕らには音楽がある

次に取り上げたいのは、ナムさんが流れるような発音を披露してくれているこちらの箇所の解釈についてです。

Ladies and gentlemen 
I got the medicine※1
(私は薬を手に入れました)
so you should keep ya eyes on the ball huh ※2
(ですから、あなたはボールから目を離さずにいるべきです)

https://music.bugs.co.kr/track/32021988

※1
medicine=薬(医薬品)
medicineは医薬品としての「薬」のみを指し、drugは医薬品および禁止薬物をも含んだ「薬」の意味となります。(参考)
ここでmedicineという単語を敢えて使用する意味を深読みすると、我々は禁止薬物には関わりがないし今後もあり得ないよ、と、いたって健全なアーティストであることを示しているのだと言えるかと思います。

また、医薬品としての「薬」を持っている=悪い症状を快復に向かわせることができる、と単純に考えると、「病」に対しての効力があって信頼できるから安心してね、という自信に満ちた宣言にも聞こえます。見えない敵(病)におびえるしかなかった時期に、こんなシンプルな「大丈夫だよ」の気持ちが必要だと考えての単語チョイスだったのかもしれません。

※2
keep one's eyes on the ball=ボールから目を離すな(=集中しろ)
この部分は慣用句で、野球などの球技でボールから目を離すなと指示する時に使うようです。転じて、仕事などに集中するように促す場合にも使えるとのこと。
直前のmedicineのくだりを踏まえ、接続詞「so(だから)」で繋げて直訳すると、「私には薬があるから、あなた方は集中するべきだ」となります。

集中する?何に?

ここであらためて注意したいのは「Ladies and gentlemen」です。
これは古くから(19世紀半ば)演説、演劇などの公演会場で使われてきたフレーズです。興行主が観客に対してまず敬意を表することで、出演者への期待や関心を高めやすくなるという理由があるそうです。(出典)
つまり、この場面の想定は公演会場=ライブ会場であり、集中すべきは彼らの「音楽」なのだと言って間違いないと思います。

ここまでの深読みをまとめるとこんな感じになります。

・思うように活動が出来ない状況においても、自分たちにはこれまでの積み重ね、そして、その証である揺るぎない「音楽」がある。(=自信
・不安なこともあると思うけど、今は僕らを信頼して、僕らの音楽に集中して安心して楽しんでほしい。(=幸せ

以上の解釈を踏まえ、意訳では「紳士並びに淑女の皆様/僕には信頼できる音楽がありますので/安心して楽しむことに集中して下さいね」としました。

直訳するだけではとてもわかり辛い箇所でしたが、楽曲の主題「幸せと自信」を念頭にひとつずつ見ていくと、その意図をこのように推し量ることができました。


4.Can「BE」anything

アルバム「BE」関連のビハインドストーリーを総合すると、これらの楽曲の全てはまだ人類がパンデミックの入り口に突然放り出されて間もない頃に既に作業が始まっていたことがわかります。
その日一日をどう過ごすか。そんなシンプルな計画すらうかつに立てられない毎日が、おそらく誰の元にも訪れていた頃です。

日常と非日常、働くことと休むこと、あらゆる境界線が曖昧になりあげく破壊されていく中で、彼らは自分たちができること=「音楽」を頼りに前へ前へと走り続けました。

「BE-hind Story」と題した7人全員での座談会で、アルバムのタイトル「BE」の由来であるbe動詞についてナムさんがこう語っています。

저는 BE 라는 점이 왜 좋냐면
(僕がBEという点がなんで好きかというと、)
be 동사는 그 자체로는 별로 쓸모가 없지만은
(be動詞はそれ自体ではあまり役にたたないけれど)
다른 거랑 붙으면 뭐든지 될 수 있잖아요
(他のものとくっついたら何にだってなれるじゃないですか)
(中略)
뭐든지 그냥 될 수 있는 희망을 품은 단어라고 생각을 하고
(何にでもただなれる希望を抱いた言葉だと思っていて、)
(後略)
BTS (방탄소년단) BE-hind Story 26:37あたり

https://www.youtube.com/watch?v=cYX88pxQuCo&t=1999s

「何にでもなれる」という希望は、ひとりの人間の長い歴史の中で初期のごくわずかな期間にだけ抱くことが許されている、特別に与えられた資格のように思われている場合がほとんどかと思います。
でも、ナムさんが考えている「何にでもなれる」力は、いつでも、誰にでも平等に備わっているもので、それは生きている限り永遠に持ち続けることができるものなのではないかと思います。例え理不尽な状況で生活や生業が上手くいかなくなっても、生きている限り「何にでもなれる」のだ、と。

「BE」のアルバムデザインにクレジットされているナムさんは、この「何にでもなれる」を念頭にあの真っ白なジャケットデザインを生み出したのかもしれません。

ここで、アルバム「BE」の収録曲を振り返ってみたいと思います。それぞれの歌詞を訳して感じた印象を踏まえて、主たるメッセージを要約してみました。

  1. "Life Goes On" …人生は続いてゆくものだよ

  2. "내 방을 여행하는 범(Fly to My Room)" …発想の転換で楽しんでみよう

  3. "Blue & Grey" …自分の中の憂鬱に気付いてみよう

  4. Skit

  5. "잠시(Telepathy)" …焦らず支え合って乗り越えてみよう

  6. "병(Dis-ease)" …自分を労わることが大事だよ

  7. "Stay" …君がそこにいることが支えだよ

  8. "Dynamite" …こんな時も楽しむ心を忘れずに!

デジタルシングルとして異例の形でリリースされた "Dynamite" が、曲調や初の完全英語詞であることを含めたその強烈な個性から、海外市場を攻略するための単発曲であるという印象を受けている方は多いと思います。実際、歌詞を訳して読むまでは私自身もそうでした。

でも、こうして「BE」に収められた状態で頭から通しで聴いて、歌詞を読んでみると、その内含するメッセージがアルバムを通して一貫していることに気付きます。
"Dynamite" は、疲弊した世界がその鬱を周囲に理解され、癒されて、自身(自信)を取り戻し、幸せになるまでのストーリーの盛大なフィナーレなのです。

情勢は今も二転三転し、完全な回復を夢見ることにも疲れてきています。それでも人類は、トンネルの出口をいたずらに期待せず、なんとかして前に進む方法を編み出しつつもあります。いずれはそんな記憶も徐々に薄れていくでしょう。

「BE」というアルバムの存在は、或るアーティストグループの作品のひとつとしてだけではなく、世界を襲った脅威に対して人間が内面的にどう立ち向かったのか、その記録としての存在意義を持った作品に今後なっていくのではないかと思います。



最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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