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BTS "내 방을 여행하는 범(Fly to My Room)" 僕の部屋を旅する方法〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.041

喜びも悲しみもどんな感情も
おそらく此処は
ただ 受け入れてくれるね
時にはこの部屋が
感情のゴミ箱になっても
僕を 抱きしめてくれるね

 방을 여행하는 (Fly to My Room)


出掛けようか?
僕を羽ばたかせてよ
視線を落として
どこだって今すぐ 僕とひとっ飛び
僕を羽ばたかせてよ
憂鬱から連れ出して
そして今
僕は新鮮な気分でいるよ


毎日
退屈で狂いそうだ
まだ始まったばかりの様に感じる
誰かあの時計をちょっと返してよ
今年の全てを奪われた
まだ 僕はベッドの中
痛む胃が僕をじわじわと苦しめる

とにかく
出かけたいよ 何としてでも
為す術がない
この部屋が僕の全て
じゃあまあ、ここを
僕の世界に変えてみればいいか…

出掛けようか?
羽ばたかせてよ僕の部屋に
視線を落として
どこだって今すぐ 僕とひとっ飛び
羽ばたかせてよ僕の部屋に
憂鬱から連れ出して
そして今
僕は新鮮な気分でいるよ

どこもかしこも
此処ってこうだったかな?と思う
俄かに見知らぬこの風景
無性に思い出に浸るよ
年季の入った机も
うつろう陽の光も
特別に見えるね
少し寂しさが和らぐよ

もっと良い方法
僕は更に良い方法を見つけたばかり
いつか、僕らはわかる様になる
壊れたものは美しい
軽いよ 身体が
飛んで行け 遥か彼方へ
とても 非現実的なこと

出掛けようか?
羽ばたかせてよ僕の部屋に
視線を落として
どこだって今すぐ 僕とひとっ飛び
羽ばたかせてよ僕の部屋に
憂鬱から連れ出して
そして今
僕は新鮮な気分でいるよ

この部屋は小さ過ぎるよ
そう、僕の夢でいっぱいだから
ベッドのその上に着地
此処が一番安全さ
喜びも悲しみもどんな感情も
おそらく此処は
ただ 受け入れてくれるね
時にはこの部屋が
感情のゴミ箱になっても
僕を 抱きしめてくれるね

更に僕を歓迎してもくれるね
人々のような僕の部屋のオモチャたち
まるで市街に出たように
TVの声はごった返すよ
考え方は考え方が変えればいいよ
此処は僕だけが楽しむことができる旅
デリバリーフードは三つ星の味
楽観的に満たしてみてよ
僕はおなかいっぱい

出掛けようか?
僕を羽ばたかせてよ
視線を落として
どこだって今すぐ 僕とひとっ飛び
僕を羽ばたかせてよ
憂鬱から連れ出して
そして今
僕は新鮮な気分でいるよ

出掛けようか?
羽ばたかせてよ僕の部屋に
視線を落として
どこだって今すぐ 僕とひとっ飛び
羽ばたかせてよ僕の部屋に
憂鬱から連れ出して
そして今
僕は新鮮な気分でいるよ

出掛けようか?
羽ばたかせてよ僕の部屋に
視線を落として
どこだって今すぐ 僕とひとっ飛び
羽ばたかせてよ僕の部屋に
憂鬱から連れ出して
そして今
僕は新鮮な気分でいるよ

韓国語歌詞はこちら↓ 
https://m.bugs.co.kr/track/32075136

『내 방을 여행하는 범(Fly to My Room)』
作曲・作詞:Cosmo’s Midnight , Joe Femi Griffith , RM , SUGA , j-hope


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今回は、2020年11月にリリースされたスペシャルアルバム「BE」に収録されている "내 방을 여행하는 범(Fly to My Room)" を意訳してみました。
この楽曲はSUGA、J-HOPE、JIMIN、Vの四人によるユニット曲です。歌唱には参加していませんが、RMも作詞で参加しています。



1.部屋を旅行する方法

作詞に参加したナムさんは、「BE」に収録された楽曲の中でこの「내 방을 여행하는 범」が最も書きやすかった(理由:自分で歌わないから(笑))とインタビューで語っています。(自分も歌唱で参加する楽曲の作詞をする際は、他のパートを書くうちに言葉を出し尽くしてしまって、自分のラップに載せる良い言葉がなくなってしまうというジレンマを抱えているそうです。)

ここからはそのナムさんが手掛けたと思われるボーカルパートの、気になったところを引用しつつ考察していきたいと思います。
※以下、引用文に付けた和訳は直訳

떠나볼까 let me fly to my room
(出かけようか 僕を僕の部屋に飛ばせて)
시선을 낮추고 어디든 막 zoom ※1
(視線を落として どこだろうとzoom)

https://music.bugs.co.kr/track/32075136

※1
zoom=「素早く動く」
英英辞書だと「move or travel very quickly」とあります。素早く移動するイメージを今回の意訳では「ひとっ飛び」という言葉にこめました。

また、直前の「시선을 낮추고(視線を落として)」という部分に着目すると、この「zoom」がWeb会議ツールを指していることも窺い知れます。そこがどこであろうとも、PCやスマホの画面に視線を落とせば彼の地と繋がり現地を訪ねたような気持ちになれる…容易に外出することが叶わなくなってしまった状況下で、まさにWeb会議ツールは「여행하는 범(旅行をする方法)」のひとつとなりました。

Anyway(とにかく) ※2-1
떠나고파 any way(出かけたいよ どんな方法でも) ※2-2
뭐 방법이 없어(何も方法がないよ)
이 방이 내 전부(この部屋が僕の全部)
그럼 뭐 여길(それなら まあ ここを) 
내 세상으로 바꿔보지 뭐(僕の世界に変えてみればいいか) ※3

https://music.bugs.co.kr/track/32075136

※2-1、2-2
anyway=とにかく
any way=如何なる方法でも
似たような表現ですが、2語表記になると意味が変化します。どんな方法でもいいから出かけたい、と願う「僕」ですが、残念ながら「뭐 방법이 없어(何も方法がない=為す術がない)」現実がありました。

※3
「-지 뭐」は「仕方ないけど~すればいいか」という気持ちを表す語尾です。外出制限が掛かり部屋の中が生活の全てとなってしまった状況で、「ここ(=自室)」を「世界」に変えればいいか、という発想の転換の瞬間となっています。

Everywhere(至る所)
여기가 이랬나 싶어(ここがこんなだったかなと思う) ※4
갑자기 낯선 이 풍경(急に見知らぬこの風景)

https://music.bugs.co.kr/track/32075136

※4
・「~나 싶다(~かなと思う)」
見慣れていたはずの景色が急に見知らぬものに見え、こんな景色だったかな?と疑いの目を向けている様子です。普段人で溢れていた繁華街から人の姿が消え、閑散としている様子を指しているのではと思います。
この錯覚についての表現は同じ「BE」収録の "Blue & Grey" においても世界観が共有されています。

늘 걷는 길과 늘 받는 빛(いつも歩く道といつも受ける光)
But 오늘은 왠지 낯선 Scene(でも今日はなぜか見知らぬ景色)
―"Blue & Grey" ホビパートより

https://music.bugs.co.kr/track/32075137


2.感情のごみ箱

SUGAパートでは一旦「キーワード:旅行」からは離れ、物理的な内側である「部屋」という空間と、精神的な内側である「心」との関係性が綴られていきます。
※以下、引用文に付けた和訳は直訳

어쩜 기쁨도 슬픔도 어떤 감정도
(おそらく 喜びも悲しみもどんな感情も)
여긴 그저 받아주네(ここはただ受け取ってくれるね)
때론 이 방이 감정의 쓰레기통이 돼도
(時にはこの部屋が感情のごみ箱になっても)
날 안아주네(僕を抱きしめてくれるね)

https://music.bugs.co.kr/track/32075136

過去に鬱病を患っていたユンギは、自分の唯一の友達について書いたという "First Love" の歌詞において、周囲との関わりを断って心を閉ざしていたことがあると思われる描写をしています。

내가 널 밀어내고 널 만난 걸 원망해도
(俺がお前を拒絶して、お前に会うことを恨んでも)
ー"First Love" より

https://music.bugs.co.kr/track/30413065

また、そんな自身の経験を元にしたのではないかと推測できる歌詞は "Stay Alive" にも現れます。

작은 방안에 나의 몸을 숨긴 채 속삭이네
(小さな部屋に僕の身体を隠したまま囁くね)
ー"Stay Alive" より

https://note.com/nozomiari/n/n75716064b8a6

かつて彼が抱えていた「怒り」「悲しみ」「怯え」といった負の感情は、きっと「部屋」という空間の中に吐き捨てられてきたのでしょう。壁や床への一方通行の発散法は必ず虚しさを伴うはずですが、自分を含め、これ以上誰の心も傷つけることのない唯一の方法とも言えると思います。

そこが例え「感情のごみ箱」となり果てても自身の輪郭を保つためには必要な行為だったに違いなく、ただただ受け入れて自分を守ってくれた「部屋」という空間に対する感謝のようなものをこのパートからは感じます。

ステイホームが呼びかけられ「部屋」が世界の全てとなってしまったことで溜まっていく負の感情を時にはその空間にぶちまけたとしても、おそらく「部屋」は全部受け止めてくれるよ。と、自身の経験を踏まえてそっと教えてくれている。ここにはそんな意図があるのではないかと思います。


3.考え方は考え方が変える

ホビパートでは今回も希望的・楽観的思考についての持論が綴られており、直前のSUGAパート最終行の「抱きしめてくれるね」を引き継ぐ形で「更に」とした上で「部屋」という空間は自分を「歓迎してくれている」と語り始めます。

例えば「僕の部屋のおもちゃたち」は「人々のよう」だ、とあります。ホビが自身の作業室〈HOPE WORLD〉を紹介してくれているV LIVE動画が残っていますが、この様子を見る限り作業室だけでなく自宅でも様々なおもちゃたちが彼の帰りを待っているのだろうなぁと想像できます。

そしてひとたび「TV」をつけてみればその音声を聴くだけでも「市街に出たようにごった返す」し、「三ツ星レストランの味」を「デリバリーサービス」で楽しむこともできる。

「僕だけが楽しむことができる旅」を創り上げることができるのは正に「僕だけ」であり、どんな状況も楽しめるか否かは「自分次第」。

생각은 생각이 바꾸면 돼(考えは考えが変えればいい)

https://music.bugs.co.kr/track/32075136

この一行には、希望的・楽観的な考え方で既存の考え方を変えてこの状況を乗り切ってみよう、自分の考え方は自分で変えてみよう、というメッセージがこめられているのだと思います。



「部屋を旅行する方法」とはつまり、「部屋」という最も身近になったと言っても過言ではない空間を軸にして、断絶・隔離といった状況がもたらしているマイナス思考を前向きに払拭するための力ときっかけを与えてくれる「方法」だったのですね。


最後までお付き合い下さりありがとうございました。


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