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BTS "First Love" 忘れ得ぬ人 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.032

俺を 受け入れてくれた君
君無しで俺は存在し得ない
夜明けを過ぎて
ふたり一緒に迎えている朝
永遠に君は俺の手を離さないで
俺も もう君を
離さないだろうから


First Love


俺の 記憶の隅っこ
片隅に鎮座した茶色いピアノ
幼い頃 家の隅っこ
片隅に鎮座した茶色いピアノ


あの時を憶えている
俺の背より遥かにずっと
大きかった茶色いピアノ
それが俺を導く時を

君を見上げ憧れてたんだ
小さな指で君を撫ぜる時
「すてきだね おかあさん すてきだね」

ひたすら手指が動いたままに
行き来した鍵盤
あの時は君の意味がわからなかったね
眺めているだけでも良かった あの時

あの時を憶えている 小学生の頃
俺の背が君の背より
さらに大きくなっていた あの時
あれ程憧れていた君を等閑なおざりにして
真っ白に輝いていた鍵盤
その上に埃が積もっていって
放り出されていた君の姿
その時も理解できなかったよ 君の意味
俺が何処にいても
君はいつもあの場所に居たから
だから、
それが最後になるとは思わなかったよ
こんなままでは行かないでよ

君は言う
「私が居なくなっても、心配しないで
君は自分でちゃんとできるだろうから
君に初めて会ったあの時を思い出すよ
いつの間にか
ひょいと大きくなってしまったね君は
私たちの関係はピリオドを打つけれど
絶対私に謝らないで
どんな形であっても
私はまた君と出会うつもりだよ
その時は 懐かしく 嬉しげに
また 迎え入れてちょうだいね」

あの時を憶えている
すっかり忘れてしまっていた君と
また 向き合った時 14歳の頃
ぎこちなくても 一瞬のうちに
再び 君を撫ぜたよ
長い間離れていても
全く 拒否感はない
俺を 受け入れてくれた君
君無しで俺は存在し得ない
夜明けを過ぎて
ふたり一緒に迎えている朝
永遠に君は
俺の手を離さないで
俺も もう君を
放さないだろうから


あの時を憶えている
俺の10代の終わりを一緒に燃やしていたお前
そう 一寸先も見えなかったあの時を

泣いて、笑って お前と一緒だから
その瞬間さえ今では追憶に
粉々になった肩を掻き抱いて言ったよ
俺は本当にこれ以上はできない、って
投げ出したかったその度に
俺の隣で言ったよね
お前はマジでできる、って

そう、そう
その時を憶えている
疲れて彷徨っていた
絶望の沼のどん底で
溺れていたあの時を
俺がお前を拒絶して、
会いに来るのを恨んでも
お前は怯まずに
俺の傍を去らなかったね
言葉は無くとも

だから絶対に 君は俺の手を離すなよ
二度と俺が君を離さないつもりだから
俺の誕生 そして 俺の終焉
その全てを見守る 君なのだから


俺の 記憶の隅っこ
片隅に鎮座した茶色いピアノ
幼い頃 家の隅っこ
片隅に鎮座した茶色いピアノ


韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/30413065

『First Love』
作曲・作詞:SUGA , Miss Kay


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この記事をアップした3月9日はBTS・SUGAのお誕生日です!
생일 축하해요~:)

そこで今回は、2016年10月にリリースされた正規アルバム第2集「WINGS」に収録されている、SUGAのソロ曲 "First Love" の意訳をしてみました。

本当は、2016年8月発表のミックステープ「Agust D」収録の "So Far Away" の訳を先に掲載しようと翻訳を完了したのですが、 "So Far Away" のアウトロには何故「First Love」 というフレーズが入るのか、その理由がずっと気になっていたため調べてみたところ、芋づる式にたくさんのエピソードと出会ってしまい…結局この "First Love" をはじめ "어땠을까(Dear My Friend)"、"마지막(The Last)" と一編の小説を読むかのように一気に翻訳を進めてしまいました。

私が読んだその「一編の小説」についての思いは追って少しずつ語らせていただくとして、ここではまず文字通り「最初」のエピソードとして "First Love" について掘り下げてみたいと思います。



1."So Far Away" との関係性

当初 "So Far Away" を選んだのは、「2017 BTS LIVE TRILOGY EPISODE III THE WINGS TOUR THE FINAL」のセットリストに組み込まれていた事がきっかけでした。

"So Far Away" は2017年6月のBTS FESTAにてJINとJUNG KOOKをボーカルに迎えたセルフカバーバージョンも発表されており、その告知のブログ記事にはこちらのバージョンの方が「元々意図していた曲のスタイルにより近い」雰囲気に仕上がったとユンギ自身が寄稿しています(歌詞の誤植を正すことができて良かったとも)。

Agust D名義のミックステープで発表した曲をSUGAとしてわざわざリメイクする程、また、自身のソロ曲の余韻を預ける形でグループでのライブのセトリに組み込む程 "So Far Away" には思い入れがあるのだと感じ、歌詞の内容に興味を持ったのでした。

"So Far Away" と "First Love" については、2017年7月に発売された「WINGS」のコンセプトフォトブックにユンギ自身の言葉でその関係性が語られていたようです。(残念ながらもう正規に手に入れることはできないので、ネット上のグレーな情報に頼るしかなかったのですが…)

「WINGS」にソロ曲の収録が決まった時、ユンギがまずPDに推したのが "So Far Away" だったのだけれど、他の曲とのバランスを考慮して変更になったこと。そして "First Love" と "So Far Away" はトラックの旋律が同じものだということ。「Agust D」収録バージョンの "So Far Away" でできなかったこと(オーケストラを入れる事)を "First Love" ではできたこと。などが明かされています。

ミックステープとアルバムの作業期間が近かった(リリース日にしておよそ2か月差)こともあり、こうして同じDNAを持つ異なる2曲がほぼ同時に出来上がったようです。「First Love」というフレーズが "So Far Away" に組み込まれていたのも、ライブで2曲が見事に連結されていたのも、その事が理由であるようだとわかりすっきりしました。

…ところが、同じくこの「WINGS」コンセプトブックのインタビューにてユンギが "First Love" のテーマについて語っていた内容が、この2曲の間を繋いでいるものがそれだけではないことを示唆していました。


2.「茶色いピアノ」と「唯一の友」

前出のインタビューにてユンギは「 "First Love" は〈子供の頃に弾いたピアノの話〉でもあり〈唯一の友達〉を意味してもいる、と解説しています。

歌詞にピアノが出てくることは初見でわかっていたのですが、歌詞を訳した後も〈唯一の友達〉の存在を私は上手く理解することができませんでした。

なぜなら私はずっと、この曲は怒れる唄なのだ、と思っていたからです。
後半に向かってエスカレートしていく息も絶え絶えになる程の高揚には、何かに、誰かに対する怒りがこめられているのだと感じていました。

歌詞が実話だと本人が明言してはいないにしても、彼の半生に重ねて考えるのが自然かと思うので、この先の考察や感想は歌詞の主人公=ユンギと仮定して進めていきます。


■ピアノとの出会いと別れ、そして再会
曲の冒頭から三分の二ぐらいまでは月明かりの下でひとり語るような静けさが曲を支配しており、ピアノとメトロノームの音が印象的に取り入れられています。この部分が〈子供の頃に弾いたピアノの話〉にあたります。

まだ目の前のピアノがピアノであると認識すらできない程かなり幼い頃のものから、ひとつずつ、訥々と紡ぎだされる記憶。一度は興味がなくなり存在自体があってもなくても同じになるも、いざいつもの場所からピアノの姿が消えて無くなった時、その不在に胸騒ぎを覚えて仕方がなくなった。そういう経験を、まるでそばにいるのが当たり前だった大切なひとを突然失った時の話のように振り返っています。

幼少期~思春期の入り口までの間はピアノに対する気持ちは普段弾かない人のそれと然程変わらなかった様子ですが、三つ子の魂百まで、とは本当にうまく言ったもので、出会ったばかりの頃にピアノに対して感じたトキメキは成長した彼を再びピアノの元に向かわせます。

記事の冒頭で引用した部分、ここだけ読むともう…自分では気づいていなかった恋心を自覚して初恋の相手とついに結ばれた…という大団円を思い浮かべる脳みそしか私にはありませんでした。ロマンチック、なんていう表現は本人があまり好まなそうですが、この歌詞が少年ミン・ユンギのリアルならば、彼とピアノは正に漫画に出てきそうな出会いと別れ、そして再会を経た、運命の相手同士ということになりますね。


■怒りの矛先
1’52辺り以降、歌詞でいうと「그때 기억해 나의 십대의 마지막을(その時を憶えている 俺の10代の終わりを)」の辺りからは声色も、オケの雰囲気も一変します。怒りを投げつけるように吐き出されるひと言ひと言。
歌詞を読んでみると二人称は同じ「너(君・お前)」でありながらも、明らかに対象となる相手が前半と異なっていることがわかります。
内容的にもここからは〈唯一の友達〉についてのエピソードに切り替わっていることが明らかです。

先ほど私はこの曲が怒りの曲だと思っていた、と書きましたが、まさかそれが〈唯一の友達〉に対する感情だったとは、思いもよりませんでした。

「10代の終わりを共に燃やした」というその友達との思い出は、一緒にいるからこそ生まれた笑いや涙で満ち溢れていたようです。ユンギの10代の終わりと言えば、BigHitのオーディションに合格して単身上京した後から、念願のデビューを掴み取るまでの練習生時代と重なります。「一寸先も見えない」とは、いつデビューできるかわからないままレッスンを続けている状態を指していると思われます。そんな苦労を共有できる友達の存在に、当時は相当助けられていたのではないかと思います。

ところが、ユンギはこの10代の終わりを精神的に衰弱した状態で過ごすことになる上に、肉体的にもアルバイト中の事故で怪我まで負ってしまいました。("마지막")

〈唯一の友達〉は、そんな絶望の淵で全てを拒絶していたユンギに諦めずに寄り添い「お前なら絶対やれる」と励ましています。

え、めっちゃいい人。いい話。
…でもなんでユンギは怒ってるの???

※この謎を解く楽曲がミックステープ「D-2」収録の "어땠을까(Dear My Friend)" になっています。意訳は後日掲載予定。


3.君が待っているその場所

曲の終盤「그러니(だから)~」の後の部分ですが、この部分の二人称「너」を「ピアノ」と「友達」のどちらにしたらいいのか、悩みました。正直今でも悩んでいます。どちらにも当てはまる気がするというのが本音です。

「두 번 다시 내가 널 놓지 않을 테니까(二度と俺が君を離さないだろうから」とあるので、「俺」が「너」を手離した事実が過去にある、ということになるのだと思います。

曲の前半で書かれていた通り、ピアノからは一度離れたことが明らかになっているので、「너」にはピアノを当てはめるのが自然なのではと思います。ただ "어땠을까" の内容を考慮すると、「너」に友達を当てはめても話が通じるのではないか…とも思ってしまうのです。

鍵を握るのは「나의 단생 그리고 내 삶의 끝(俺の誕生、そして俺の人生の終わり)」を全て知る存在が「너」であると表現されていること。

茶色いピアノが彼が生まれる前からそこにあったと仮定すると、나의 단생を知るというのも腑に落ちます。人生を懸けて音楽と共に在らんとしている彼の내 삶의 끝を見届けるのもまたピアノ(=音楽そのもの)であると言えるでしょう。

では唯一の友は、というと…もうここからは私の勝手な妄想が入るのですが。

もし、その友人が物心つく前からの地元の幼馴染であるとすれば("어땠을까" では大邱での思い出が語られている) 、自我の始まりという意味で나의 단생を知る存在であると言えるかもしれないし、決定的な別離を遂げてしまった間柄("어땠을까" 参照)であるこの友人とは生きている内は会えないと考えているとしたら、내 삶의 끝はその再会の時を意味するのではないか、と。

ここで思い出したのは "길(Road)" の歌詞でした。

난 뭘 보게 될까(俺は何を見る事になるだろうか)
이 길의 꽅에서(この道の終わりで)
네가 서있을 그곳에서(君が待っているその場所で)

記事の冒頭に貼ったWINGS Short Film #4には "길(Road)" の歌詞が一部引用されています。 "길(Road)" 楽曲中でその引用部分のすぐ後にくるのが上記歌詞です。

 "길(Road)" を翻訳した時は、この「君」が誰なのかはっきりしませんでした。
道を違えた相手は果たして誰だったのか。
 "First Love"  "어땠을까" を読んだ今、その答えのひとつは〈唯一の友達〉のことなのではないか、"길(Road)" の「너」が "First Love" の「너」と同一人物であるとするなら「君が待っているその場所」は「俺の人生の終わり」と重なるのではないか、と、思わずにいられません。



グループの一員として発表する楽曲が負う制約の中で、厳密に選ばれた言葉によって紡ぎ出された一生忘れることのない記憶たち。それが "First Love" であり、そこから溢れ出てしまった感情や事実(と思しき事柄)を形にしたものが "어땠을까" であると考えられ、それらの事柄を経たユンギ少年がいかにしてAgust D/SUGAになったのかが "마지막" で語られている。私の中ではそういう図式に至りました。
そして、そんな彼の自叙伝的楽曲群と "So Far Away" にはどういった繋がりがあるのか、担っている役割は一体何なのか、そこまでを少しずつ記事にしていこうかと思っています。


10代の記憶を咀嚼しながら20代を駆け抜けた彼が、30代を迎えどのように創作を続けてゆくのか、引き続き耳も目も離せません。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。


🐱💜