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“リアルタイムで盛り上がれる幸せ”を噛み締める─ 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」



●「水星の魔女」が面白い



 7年ぶりのガンダムTVシリーズ完全新作「機動戦士ガンダム 水星の魔女」に夢中だ。


 モグモ氏によるキャラクターデザインが個性的かつ垢抜けていること、“全寮制学園が舞台”“ガンダムTVシリーズ初の女性主人公”などから過去作を安易になぞらず新基軸を打ち立てようとする意志が見えること、昨年激推ししたあの映画の脚本家:大河内一楼氏がメインライターを勤めていること(そもそも「∀ガンダム」のサブライターとして脚本家デビューした経歴を持つ)、そして何より7月に配信された第0話「プロローグ」の出来が非常に良かったこと…。
 これらの要素から事前の期待値がべらぼうに上がっていたが、10月2日に放送された第1話は俺の期待値を上回る程に予想を裏切り、期待を裏切らない内容となっていた。ガンダムシリーズを八割がた視聴している俺から言わせても、この出だし・掴みは限りなく完璧と言わざるを得ない。


 水星圏出身の田舎者少女:スレッタが編入先で才色兼備の令嬢:ミオリネと出逢い、ミオリネに嫌がらせをする彼女の婚約者(粗野な御曹司の青年)相手に決闘を申し込み、愛機のガンダムで無双して圧勝。編入直後にして学園最強の座に君臨したスレッタは、決闘の勝者としてミオリネの婚約者となる権利を得た…。
 上記の様にざっくり書いただけでも、本作の第1話はガンダムシリーズでも珍しい、キャッチーな展開続きの濃い回だったと言える。学園ラブコメ的要素に加えて“舐めてた相手が殺人マシンでしたモノ(byギンティ小林氏)”的なエッセンスのあるカタルシス抜群の展開が炸裂したことによって、俺を含めた多くの人が心を掴まれたのではないだろうか。


 さて「プロローグ」、そしてプロローグと第1話の間を描いた短編小説「ゆりかごの星」(著:大河内一楼。YOASOBIによる主題歌「祝福」の原作。公式サイトで公開中)の双方を見た方ならば、1話の明るいドラマの足元に特大の地雷が埋まっていることを一様に把握済みだろう。


 戦いの火種を産みそうな地球と宇宙との対立構造、スレッタの家族を襲った悲劇、スレッタの家系とミオリネの父親との因縁、本人の意志に反して復讐を運命付けられたスレッタ…。
 現状はしばらく明るい学園生活が続きそうな雰囲気だが、いつこれらの要素が登場人物達に牙を剥き、影を落とし始めるのか…。俺も含めた視聴者の多くはみな戦々恐々としながら楽しみに待っているはずだ。


●「水星の魔女」考察あれこれ



 そして現在、WEB上ではファンによる様々な考察が盛り上がっている。
 90年代の有名アニメ作品「少女革命ウテナ」、そしてシェイクスピアの戯曲「テンペスト」と本作の物語との関連性に言及する方が特に多くおられるようだが、俺にはどちらも知識が無いため深く言及できない。
 一応軽く述べておくと、大河内氏の“モノ書き”としてのデビュー作(脚本家となる以前)はウテナのノベライズのようだ。ならば全く意識をしていない事もないのだろうか?
 そして、「テンペスト」は妖精“エアリエル”が登場する、魔法使いの親子を巡る復讐の物語らしい。「水星の魔女」の物語がこの戯曲をなぞって進むのであれば、ある程度物語の行先が読めて来そうだが…?



 他にも興味深い考察は多い。例えば、「第1話で自身の命を危険に晒してばかりのヒロイン:ミオリネは、単に思慮が浅いのではなく“事故に見せかけた自らの死”を願っているのではないか?」…といったもの。
 ミオリネの無鉄砲な行動(“ポンコツヒロイン”とも呼ばれかねない、いや既に言われ始めている…)に対する違和感は、俺自身も鑑賞しながら感じていた。宇宙空間を無防備に放浪していたミオリネは学園コロニーから逃げるつもりなど毛頭なく、大企業の令嬢である自分を“トロフィー”としてしか扱わない周囲に愛想を尽かし、自暴自棄の末に“スペースデブリ”の一つと成り果ててしまうつもりだったのではないか?
 生憎、スレッタとその愛機:ガンダムエアリアルが危機を救ってしまう訳だが。それも二度も…。ミオリネが度々口にする“責任”の二文字には、命の重みも加わっているのだろうか。

 こじ付け感も少々強いが、このような興味深い考察もある。
 「一見するとスレッタの過去・偽名を使う前の姿ににしか見えないプロローグ主人公:幼い少女エリクト。彼女たちは同一人物ではなく(エリクト≠スレッタ)、実は成長した“少女”こそがスレッタの真の母親(すなわち本編で言及される“お母さん”)なのでは?」…という、物語の背景が根底から揺らぎかねない説である。

プロローグで夫や恩人を殺されたエリクトの母。まだ「プロローグ」でしか出番はない。スレッタを“道具”に育てた復讐鬼として「ゆりかごの星」で描写された“お母さん”は、本当に彼女を指すのだろうか?
(緊急避難という状況下ではあるが)意図せず3名の敵パイロットを殺害し、若干4歳にして重い業を背負ってしまったプロローグの主人公。担当声優も眉毛も、どう見てもスレッタの過去の姿としか思えないが果たして…。
ちなみに眉毛は父親の遺伝と思われる。よく眺めると眉頭の形が少々スレッタと異なっているような。
自覚のないままに“お母さん”の復讐に加担する運命が待ち構えている、麻呂眉がチャームポイントの本編主人公。さて、彼女が“お母さん”と慕う人物とは一体何者?
余談だが、“マーキュリー”という偽名の名字はあからさま過ぎて危険視されないのだろうか。むしろ水星出身者であることを誇示している?



 この無茶苦茶な説、確かに強引ではあるが信憑性ゼロではない。
 プロローグと第1話の間のタイムラインは明確でないし、エリクト・サマヤがスレッタ・マーキュリーの幼少期・本名だという公式的な明言は確認できない。それに「母の方が操縦が上手い」という小説の記述は、プロローグの“母が起動できない兵器を娘が覚醒させた”描写と齟齬があるように感じる。その他にも本編主人公機「ガンダムエアリアル」のプラモ説明書の情報(ソース未確認。エアリアルはエリクトが起動させた「ガンダムルブリス」の改修機と思われていたが、内部機構がまるっきり異なるらしいので別個体と解釈すべきか…?)・プロローグ→第1話で異様に老け込んだヒロインの父親の容姿など、この説を補強する要素を多くの方が日々発掘している。
 個人的意見を一つ付け加えると、幼少期に“復讐の為のロボット操縦技術”を家族から仕込まれている主人公像は「ガンダムAGE」の主人公家族:フリットとキオ(祖父と孫)を連想するが、更にその元ネタと思われる作品『シドニアの騎士』をより深く引用するなら、スレッタはエリクトのクローンという可能性も捨てきれない。「水星の魔女」世界の技術力でクローン人間が産み出せるかは明確でないため、単なる俺の妄想に過ぎないが…。



 とはいえYOASOBIの「祝福」PVの演出上ではエリクト・スレッタは同一人物にしか思えないし、この強引なミスリードには展開上の必然性も現状感じられずスレッタ・ミオリネの間に発生する因縁譚がやや薄く・複雑化するため、やはり考えすぎかもしれない。
 スレッタの“お母さん”の正体がエルノラであれエリクトであれ、いずれにしろ対立する未来が待ち受けていることは想像に難くない。スレッタは母親の、ミオリネは父親の──それぞれの“毒親”の呪縛を断ち切る。それが「水星の魔女」のメインテーマであることは、現時点で疑いようもないのだから。



●リアルタイム鑑賞者の特権



 信憑性はともかく、こうして様々な説を取り上げながら「ああでもないこうでもない」「そんな考え方もあるのか!」と盛り上がれることは非常に幸せだ。
 これは関係者しか物語の行先を知らない“原作無しのオリジナル作品”をリアルタイムで追うファンにしかできない楽しみ方なのだから。

 最近、リアルタイムで連ドラ・アニメを観る機会がほぼ無くなっていた。それらの“続きもの”を観る場合は、過去の作品をサブスクで追うパターンが多かったためである。
 この場合“一気見が可能”というメリットはあるが、自分が盛り上がっていても、世間の人々は既に物語の考察を終え、展開・真相・オチを知っている状況が発生してしまう。するとリアルタイムの世間の盛り上がりに混ざれなかったことへの、一抹の寂しさを感じるのだ。



 シリーズもの(MCUことマーベルシネマティックユニバースなど)の映画は好きでリアルタイムで追っているが、当然ながら映画はTV番組よりも続きのスパンが長い。毎週放映される原作無しのTV番組の展開予想・考察とは、盛り上がり方の熱量が異なるだろう。



 なお、俺は決して世間に迎合して盛り上がりたいから作品を観ている訳ではない。俺は純粋に「水星の魔女」に期待しており、だからこそ今後約3ヶ月(1クール)の間、日曜日の17:00を心から楽しみにしたい。更に、出来ることならその楽しみを分かち合いたい。ただそれだけなのだ。



 さあこの想いよ、どうか最終回まで続いてくれ。尻すぼみな展開に陥らず、予想を上回り期待を裏切らない作品であってくれ。そして主題歌に唄われる通り、重荷を背負わされた悲劇の主人公に“祝福”があらんことを…。


※画像は全て「水星の魔女」公式サイトより引用しました。

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