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悲運の名作アニメ「FF:U 〜ファイナルファンタジー:アンリミテッド〜」


2023年12月28日 追記

2024年2月、何と再放送が決定しました!興味を持っていただけた方、この機会にぜひご覧になって下さい!!
↓以下、2021年に記した文章です。


1、はじめに



 RPG「ファイナルファンタジー9」(FF9)がフランスでアニメ化されることが判明した。
スクエニからの告知が無いのでデマを疑ったが、制作スタジオ側からの告知を読む限り真実らしい。



 改めて説明するまでもないが、FF9は言わずと知れた名作である。部分的な自由度の低さや戦闘のテンポ等に難はあるが、世界観・楽曲・ストーリー・ムービーの演出等が非常に魅力的だ。上手く内容をアレンジしつつ映像化できれば、後世に語り継がれる名作アニメになる可能性もあるはずだ。



さて、このニュースを聞いた三十代前後のFFファンの皆様は、あるTVアニメを連想したのではないだろうか。
 2001〜2002年に放映された「ファイナルファンタジー:アンリミテッド」、通称FF:Uである。

2、FF:Uとはこんなアニメ


 本作はFFシリーズを原案としつつも、ゲームとは異なるオリジナルの世界観・ストーリーによって展開されたアニメ番組である。
 「サガ」シリーズ等を手掛けたゲームクリエイター:河津秋敏氏の監修の下、「エヴァンゲリオン」シリーズ等に深く関わる前田真宏氏が総監督を、後に「艦隊これくしょん -艦これ-」を手掛ける田中謙介氏がプロデューサーを務める等、製作には数々の著名な人物が携わっていた。



 その内容・魅力を一口に説明するのは非常に難しい。大前提として、ゲームとの関連性はほぼ無く、完全なるオリジナルストーリーが繰り広げられているためだ。
 少年少女が不思議な異世界を旅する冒険モノ・大型のクリーチャーが活躍する怪獣モノ・皮肉の効いた寓話等、本作の物語にはエピソード毎に様々な味がある。世界観もキャラクターも物語のジャンルさえも、毎回作風が異なる【ごった煮】なのだ。これには「対象年齢層を絞らない」という製作陣の狙いがあったという。
 強いて言えば、このごった煮感こそが本作の個性かつ魅力だろう。ごった煮的世界観が登場するRPG「サガ」シリーズを手掛けた河津秋敏氏の作風が、色濃く出ていたのかもしれない。

3、悲劇的な打ち切り



 本作を語るにおいて避けて通れないのは【打ち切り作品】という汚名だ。その具体的要因(ハリウッド映画版「ファイナルファンタジー」の興行的不振)については本稿では触れないが、本作に非はないと強く述べておきたい。不人気や視聴率の問題ではない。打ち切りは完全なる不可抗力だったのだ。


 FFシリーズが好きだった俺は本作の放送に心を踊らせていた。リアルタイムで楽しみたかったが、放送時間に塾へ通っていたため録画で視聴していた。細かい内容までは噛み砕けておらず、雰囲気で何となく楽しんでいたような記憶がある。
 しかし、その楽しみは長くは続かなかった。わずか半年で突然番組は終了し、さらにVHSに撮っていたはずの最終回の録画を視聴前に親にうっかり消されてしまい、最終回を観ることは叶わなかった。当時の俺は番組が打ち切られた悲しみよりも、録画を消されたことに対する落胆と怒りの感情が強かった。さほど熱中していなかったのだろうか?
 打ち切りに至った経緯や最終回の粗筋を知ったのは約一年後、インターネットを利用するようになった後となる。あまりにもの悲しいその内容に、俺は子どもながらに心を痛めた。


4、改めて感じるFF:Uの魅力



 時は流れ、2020年初夏。
 世の中は世界的危機に揺れていた。不安にかられた俺は、もしかしたら自分もあっさり死んでしまう可能性があるのでは?という恐怖心を抱いた。健康なうちに人生の後悔を減らしておきたいと考えた俺の脳裏に、なぜか突然FF:Uの存在が浮かんだ。本編を改めて観たくなったし、文字情報としてしか知らない幻の最終回をどうしてもこの目で確認しておきたかったのだ。
 サブスクリプションによる配信はされておらず、近所のレンタル屋には置いていない。正規の手段で鑑賞するためには、絶版の影響でプレミア価格となった映像ソフトを買うしかない。よって、俺は中古で約4万円のDVD全巻セットを購入することにした。観ずに死ぬ後悔と比べれば、4万円など惜しくない。



 改めて鑑賞したFF:Uは、やはり面白いアニメだった。基本的に沢山の世界を渡り歩く構成のため、ほぼ毎回世界観が異なり飽きない。徐々に明らかになる世界観・根幹設定の魅力や、【シド】【チョコボ】【クリスタル】【オメガ】等、アレンジされて登場する原作要素も楽しい。


 また、総じて素晴らしいのはキャラクターだ。ほぼ台詞を発しない寡黙なガンマンの主人公。現代日本から異世界へ旅立った、狂言回し役となる双子のきょうだい。双子の保護者役を務めながら、影では共産圏に本部を持つ組織の諜報員として動くヒロイン。みな個性的だが、安易なキャラ付けをするために個性の異質さを押し付けることが少ない(機械を傷付けられるとテンプレ的に人格が豹変するシド等、そういった要素が無いわけではない)のが好ましい。自然な人間としての姿が魅力的なのだ。

 そして、本作の白眉は【召喚】のバンクシーン。大抵エピソードの後半において大型の(見た目がダサい)敵が現れる。みな為す術がなく危機に陥る中、満を持して主人公の活躍が始まる。

「お前に相応しいソイルは決まった!」

 普段他者との交流を拒む無口な彼が、啖呵のような決め台詞とともに特殊な弾丸【ソイル】を銃に込め、原作でもお馴染みの召喚獣を呼び出す。浜口史郎氏が手掛けた劇伴「魔銃解凍」「魔銃発射」とともに召喚獣が姿を現せば、敵がいかに足掻こうと勝利は確定。そして植松伸夫氏による、これまた原作お馴染みのBGM「勝利のファンファーレ」が流れる。このカタルシスの素晴らしさがたまらない。口上と劇伴によるテンションの高まり、そしてソイルのネーミングと詠唱文のセンスの良さは、三十歳近い大人の中二心を掘り起こして鷲掴みにしてくる。


5、気になる部分・打ち切りの結末


 目が肥えてしまった今となっては、残念ながら悪い部分も気になった。回による作画レベルの波の激しさ。短期打ち切りを想定していなかったためか、物語の本筋と無関係の回の多さ。また、対象年齢層を絞らないという製作陣の狙いも裏目に出ている。子ども向けとしては設定が難解に思われるし、大人向けとしては一部のキャラクターデザインが幼稚過ぎる。一方で、原作ファン向けとしてはゲームの要素が薄すぎる。
 ……といったように、本作が絶大な人気を得られなかった理由もよく理解できる。


 そして結局のところ、二十年越しに観た最終回はあまりにも気の毒な内容だった。
 キャラクターの表情・動きは生き生きとしており、現代基準で考えても素晴らしい映像といえる。だが、そこで繰り広げられるのはメインキャラクター数名の唐突な死と強引過ぎる伏線回収。「まだ物語は終わらない」という旨の言葉を告げて物語を締めくくった井上喜久子氏の柔らかなナレーションは、「こんな所で終われない」という製作陣の怨嗟にも聞こえた。
 こうして二十年の時を経て、俺の中でFF:Uはようやく完結した。


 ……いや、嘘だ。俺の中のFF:Uは完結していない。


6、終わっていない物語




 DVD鑑賞後に設定資料集等の関連書籍を収集するうちに、本作の続編構想が具体的であったことを知った。
 新たな敵の登場。過去の因縁譚。双子の別離。猛烈に興味を惹かれるプロットである。それらは小説やドラマCD等の媒体で断片的に描かれているが、結局はこれらも未完に終わっている。設定資料集においては、多くの関係者が「もっと創りたかった」「もっと演じたかった」「もっと物語の先が知りたかった」と述べていた。残念ながら、その思いが果たされる可能性は限りなく低いだろう。



 だが俺は心のどこかで奇跡を、冒険と戦いの終わりを、真の完結を期待してしまっている。それが無理ならばせめてBD化・サブスク解禁、そしてアニメ版FF9が本作と同じ運命を辿らないよう祈るばかりである。


※FF:U以前にFF5の外伝作がOVAとして発売されているが、そちらは未見である。今回のニュースで、そちらの作品を連想された方もいるのだろうか。

※本文では触れなかった打ち切り要因(ハリウッド映画「ファイナルファンタジー」)については、以下の記事にて総括を行った。単なる駄作として扱われがちだが、個人的には決して全てが悪い作品では無かったと考えている。


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