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俺はあと何回、“心の一本”を観返すのだろう?


 定期的に、何度も観返してしまう映画──“心の一本”がある。
 何かに挑む勇気を貰える「ロッキー」「恋はデジャ・ブ」。脚本の完成度に打ちのめされる「ダイ・ハード」「トイ・ストーリー」。世界観と物語の切なさに浸れる「ブレードランナー」「〜2049」。暴力的なまでの作画力に圧倒される「メトロポリス(2001)」。荒唐無稽すぎて脳味噌をカラッポにしてくれる「追捕 マンハント」…。他にも十数作あるが、この辺りで一旦止めておこう。“心の一本”と呼ぶにはいささか本数が多過ぎる気もするが、あえてそう呼ばせて欲しい。



 これまでの人生で約1500本程の映画を観てきたが、一度観ただけで満足してしまうモノが大半を占めていた。「何度でも観たい!」と思える映画(名作あるいは珍作)に出逢えるのはごく稀、50本〜100本に一本有るか無いか。まだ見ぬ・まだ知らぬ“心の一本”に巡り逢いたい…と願いながら、俺は日々映画を観続けている。






 昨年、そんな作品がひとつ増えた。
それは「ガメラ2 レギオン襲来」。1996年に公開されたシリアス・リアル風味のSF怪獣特撮映画である。話題作「シン・ウルトラマン」を手掛けた樋口真嗣氏が特技監督を務めた作品ということで、近頃再び脚光を浴びているのではないだろうか?
 公開から四半世紀も経った2021年に、遅ればせながら俺は本作を初鑑賞した。その際に受けた強烈な衝撃は、過去記事でも述べた通りである。


 初見時の俺は29歳、とっくに現実とフィクションの区別が付く年齢である。そう、登場人物は架空の存在。大暴れする怪獣は着グルミ。破壊される街はミニチュア。発生する甚大な被害は絵空事に過ぎない。
 ──そんなことは百も承知の上で、俺は本作の虜となってしまった。



 出来る限り無駄を省いた人物描写。ミステリアスな敵怪獣の恐怖。ロジカルに組み上げられた脚本。的確に不安を煽る劇伴。あらゆる点が傑出しており、決して“子ども騙し”に終わらない素晴らしい映画であった…と俺は確信している。そうそう、敵怪獣が「レギオン」と命名される際の少々照れ臭いやり取り(唐突すぎる聖書の引用)等、適度にケレン味が効いていることも忘れてはならない。
 そして、たった10インチ程度しかないiPadの画面を前に、俺は強く思った。「こんな名作をリアルタイムで、映画館で、大スクリーンで観た人が羨ましい!」…と。



 それから約一年後、「ガメラ2、久々に見返してえなぁ〜」と感じていた矢先の2022年6月6日。フィルマークス主催のイベント上映により、俺は幸運にも映画館で「ガメラ2」を観る機会に恵まれた。



 一年振り二度目の「ガメラ2」は、初見時と同様に…否、それ以上に面白かった。先に述べた感想を追体験できたことは勿論だが、映画館のスクリーンで観たことによって、思わぬ副産物を感じ取ることができた。具体的には、“爆破シーン”の臨場感が凄まじいと改めて気付かされたのである。
 CG・VFXに頼っていない(一部を除く)本作の爆破シーン。街と人、そして怪獣を焼き尽くす紅蓮の炎は、実際にはごく小規模かつ完璧な安全対策を図った上で仕組まれたものだろう。
 しかし、いくら仕組まれたものであろうと、本物の炎であることに違いはない。怪獣も都市も虚構の産物だとしても、それらを焼き払う炎は真実なのだ。それによって生じるリアリティと恐ろしさを、俺は存分に味わわされた。



 こうして“「ガメラ2」観たい欲”はすっかり満たされた訳だが、きっと1〜2年後にはまた同様の衝動に駆られているだろう。サブスクの配信だけでは物足りずにブルーレイを購入している可能性もあるし、イベント上映の機会に恵まれれば再度足を運んでしまうかもしれない。さて、俺はあと何回「ガメラ2」を観返すことになるのだろうか。





 ──悲しいかな、今は“タイムパフォーマンス”が叫ばれる時代のようだ。
 映画を倍速再生する人や、違法アップロードされた名場面切り抜きダイジェスト動画(単なる違法動画を「ファスト“映画”」などとは意地でも呼びたくない)だけで満足する人が増えているとも聞く。
 人生の持ち時間は限られている。余暇に使える時間なら尚更だ。“貴重な余暇を無駄にしたくない”という意志から、そのような行為に走る人も多いのではないだろうか。



 そういった方々にしてみれば、同じ作品を繰り返し観続ける俺の行為は時間の無駄であり、愚の骨頂といったところだろう。ましてや自宅でも観れる映画をわざわざ劇場へ観に行くなど、きっと信じられない行為である筈だ。
 でも。たとえ面と向かって「愚か者」と言われたとしても。限られた時間を費やしてでも観たくなる“心の一本”に出逢えた喜び、そして観返すことの多幸感は、俺の胸からは決して消えない。
“タイムパフォーマンス”なんて言葉では片付けられない感情を抱えながら、俺は今後も映画を観続ける。いや、映画に限った話ではない。小説。エッセイ。音楽。ゲーム。様々なコンテンツに存在する“心の一本”を、大切に享受しながら生きていたい。

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