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サンダルを履かない夏


 2022年の8月が終わる。
 “この夏は一生に一度しかない”──なんて青春染みたことを叫ぶつもりは毛頭ないが、確かに一抹の寂しさはある。過ぎゆく夏へのノスタルジアは、三十歳を越えようと捨てきれないものだ。



 俺にとっての今年の夏は、例年に輪を掛けて夏らしくない夏だった。
 いや、当初はこんな筈ではなかった。様々な夏的スポットへの外出予定はあったが、諸々の事情により完全に破綻した。夏の計画はそっくりそのまま、現実逃避先:アイオニオンの冒険へと置き換わってしまったのである。

※ゲームソフト「ゼノブレイド3」の世界。



 さて、先日約80時間掛けて「ゼノブレイド3 」をクリアした俺は、すっかり目的も無く気の抜けた、非生産的なインドア生活の真っ只中にいる。
 最近の楽しみといえば…。久々に契約したサブスク「ディズニー+」で、「アルマゲドン」「プレデター」「スピード」といった一昔前のアクション映画を観漁ること。深い考察の必要がない作品群を、飢えを凌ぐかのように貪っているのだ。
 “いやぁ、「アルマゲドン」のベン・アフレックは若々しいな…”“元祖「プレデター」はシュワちゃん以外のメインキャスト(ビル・デューク、カール・ウェザースetc…)もキャラが立ってて楽しい…”等々、文章化するのもおこがましい程に薄味な感想しか浮かんでこない。難解な作品を考察・反芻して楽しむ。そのように知能を使う行為を、今の俺の脳は拒絶している。



 もちろん、全く外出をしていない訳ではない。
 記憶に残る外出といえば、東京タワーの「平成ガメラ三部作展」、そして期間限定公開の「ロッキー4/炎の友情」ディレクターズカット版:「ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ」を観たことくらいか…。どちらの内容にも非常に満足しているが、夏を味わった感覚とは程遠い。季節感と無関係の「ガメラ展」はさておき、暑苦しいイメージの「ロッキー4」はクリスマスを舞台にした映画である。実は猛烈に時期外れなのだ。



 結局、散歩に出る機会もほぼなかった。今年の東京は昨年より明らかに暑い。エアコンの効いた部屋から一歩外に出ると、そこは毒の沼地、はたまたマグマ煮えたぎる床の上…。体力はおろか寿命がダイレクトに縮んでいく気さえする。
 昨年は頻繁に赴いていたはずの、行く宛もない夜の散歩にすら出る意欲が起きない。暑さのせいか、俺の意欲の問題か…?それは自分でもわからない。鈴虫の音が微かに響く夏の夜の路地裏、そして公園。わずかでも季節感を味わえる機会を、俺は手放してしまっていた。


 以前“散歩のお供にしよう”と誓った、お気に入りのビルケンシュトック。昨年のように秋口になってから引っ張り出すか。それは俺の気分次第だが、間違いなく言える事実はこれくらいだ。
 俺の2022年の夏は、サンダルを履かないまま終わる。


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