「創作大賞2024」note placeイベントで感じた、創作者の意識
5月6日(土)、noteの本社オフィス「note place 麹町」で行われたイベントに足を運んだ。開放された創作スペースにて執筆作業を行うため、そして新川帆立氏・秋谷りんこ氏、両先生の生対談を聴くためだ。
プロ作家同士のお話を生で聴く機会は、滅多に訪れるものではない。しかも、うち一人は昨年の「note創作大賞2023」で別冊文藝春秋賞に選ばれ、投稿作品『ナースの卯月に視えるもの』を書籍化に至らせた秋谷氏。「note発の作品の書籍化」という偉業に関するエピソードが聴ける本イベントは、noteでの活動を主とする俺にとって、願ってもない機会だった。
俺がnote上でエンタメコンテンツレビューやエッセイの投稿を初めてから約三年、創作活動(小説執筆)を初めてから約一年半が経つ。
当初、俺はテキスト投稿を「単なる趣味の一つ」──RPGや映画鑑賞と同様に「楽しめればそれでいい(無論、読んでくださる方も含めて)」ものと捉えていた。しかし、コンテスト受賞やプロ作家デビュー等、輝かしい結果を残す周囲の方々を目の当たりにし、次第に自分の筆力を試したい衝動が胸を突き動かすようになった。(誠に恐れながら)同じくnoteでテキストを投稿する者として、これを機に何かを吸収し、刺激を得ることができたら……。メンタリティを乾いたスポンジに変え、俺はnote placeの門を叩いた。
対談の開始時間は16:00。それまではオフィスではPCを広げて黙々と執筆作業に励む人、数人で集まって交流を図る人(相互フォロワーの方同士?)の姿が合計約10名、それぞれ半数ほど見受けられた。
俺は13:00頃から孤独に小説を執筆する道を選んだが、オフィスチェアの座り心地がすこぶる良かった影響ゆえか、自宅やカフェ等で行う作業以上に集中力を発揮できた。一体どこのメーカーの椅子を導入しているのだろうか?
さて、夕方より行われた対談の詳細については、本稿が単なる「切り抜きダイジェスト記事」となっては不本意なので、以下の“本家本元アーカイブ動画”を直接ご覧頂きたい。また、秋谷氏が以前投稿された記事の内容についてもインタビュー内で改めて語られたゆえ、動画と併せて読むことをお薦めしたい。
俺は常々、「創作論は創作者の数だけ存在するため、絶対的な正解はない」=全てを鵜呑みにせず、どの創作論を自作に活かすかは慎重に考えるべき……との持論を抱いている。
そのような思考を持つ俺でさえ、お二方のトークは自分に刺さる部分だらけで、素直に見習うべき点が非常に多いように感じられた。商業作家を目指していない方・創作を趣味としていない方にとっても、一聴の価値があるように思える。
先程「対談の詳細は書かない」と述べたばかりではあるが、印象的だった点を二つだけ挙げさせて頂きたい。
秋谷氏は自身の経歴(看護師)を題材とした作品を書くうえで気を付けた点として、「実在の人物・出来事を想起させるものは書かず、体験した出来事を自分の中で噛み砕いてからエピソードを作る」こと、そして「“自身が直面してきた病気や死をコンテンツとして消費させない配慮”をしつつもエンタメを成立させるよう意識した」との旨を仰られた。
上記の発言は非常に真摯な創作者の姿勢の表れであり、心から「目の前で直接聞けてよかった」と感じた発言だった。「人生経験を作品に反映させる」ことは大切だが、「実際の出来事を引用する」こととは似て非なるもので、決して同義ではない。つい見落としがちになってしまう創作上の注意点・遵守すべき大切なモラルを、強い説得力をもって教えて頂けたように思う。
また、執筆に関する具体的な努力を聞けたことも有り難かった。
秋谷氏は受賞作の書籍化にあたり、約十万字にもわたる大幅加筆を約二ヶ月で行ったという。この執筆ペースは、以前からプロ作家だった新川氏にとっても驚嘆すべき作業量らしい。
新川氏はいかなる作品においても取材を怠らず、題材に関連する書籍は金銭の許す限り収集するほか、関係者へのインタビューも行うという。最新作『女の国会』では、何と約二十名を相手に取材を敢行したそうだ。
一方の俺は、二ヶ月どころか一年半で書いた全作品の文字数を合計しても、未だ十万字に至っていない。また、自作に登場する職業に就いた方へインタビューを行った経験はあるが、わずか一名のお話を伺っただけで満足し切っていた。「極力多くの人に訊ねて回ろう」といった発想を持たなかった自分が恥ずかしい。実力は勿論のこと、何より大切な「意識の欠如」を、改めて突きつけられた気がした。
約一時間半にわたる対談は、瞬く間に幕を下ろした。上記の二例以外のトーク内容も非常に興味深く、俺にとっては間違いなく実時間以上の価値があった。さあ、後は吸収した知識を反映させて自作を執筆するだけだ……と言いたいところだが、一時間半のお話を聴いただけで奇跡的に筆力が向上する、なんて都合の良い話はない。コンテストの受賞ともなれば尚更だ。上達を足踏みしても凹まず腐らず、常に意識し常に書き続ける。俺が良いものを生み出せるようになる真っ当な方法は、その愚直な道だけに思えてならない。
……さて、ここまで普段通りの余所余所しい文章で書き進めてしまったが、最後くらいはかしこまらず、自然体の一言で本稿締めくくりたい。
秋谷りんこさん、「創作大賞2023」受賞と書籍化、本当におめでとうございます!
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