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#エッセイ

薄白

薄白

「デーブスペクターはカメラが回っていない時の方がボケるんだって」

木場さんが昨日喫茶店でそう話しながら、机の下で足を組み替えたはずの体の動きをしている時を思い出していた。
それは私が支度をしたまま、つけっぱなしにしているテレビのワイドショーでデーブスペクター本人が出演していたからだ。

小さい頃からテレビで見ているこの人はいつまでたっても少しカタコトで日本語を話す。それはテレビタレントとして生き

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穴

昨日の晩、静かに降り続いていた雪が日中の陽射しで溶け始め、それは時折どこかの家、もしくは私の家の屋根からまとまった雪が地面に落ちる音がするからそう思った。
家の一番大きな窓から外を見ると、目の前にあるテニスコートぐらいの大きさの駐車場の砂利に広範囲の水溜りができていた。それは光を反射させるような簡単なものではなく、水面と太陽の間にある光を集めて発光しているようだった。それは池に似ている。そう思うの

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揺蕩

揺蕩

取るに足りない日常のある日を、何かに触発されて思い出す時がある。それは例えば、パターソンを鑑賞した時だとか、すべて忘れてしまうからを寝る前に読んだ時だとか、朝にカネコアヤノを聞きながら駅まで歩く時だとか。その日常のある日は、ひょんなことから絢爛とした記憶となって私を巡る。

朝、カーテンを開けて、それから窓を開けると澄んだ鳥の声が網戸を越して私に届く。鳩の鳴き声は信号のように周期的なのに突然終わっ

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