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SNSをやる人と、やらない人

 もうだいぶ前からずっと「SNSをやめたいな」と思っている。続けるのが嫌ならスパッとやめてしまえば良い話だが、SNSをやっていて良かったこともたくさんあるので、まだ決心がつかずにいる。

 私がこれまで使ってきたSNSはFacebook、Instagram、Twitterだ。10年以上前に必要に迫られて始めたFacebookは、5年ほど前にすっぱりとやめた。その当時、韓国に移住したばかりだったので、Facebookをやめると日本でのつながりを自ら断ち切ってしまう気がして、とても勇気がいった。Facebookでしかつながっていない人も多く、連絡する手段がなくなるのは残念でもあった。それでもやめようと思ったのは、親しい(と思っていた)人たちの心の奥や、見たくないものがいろいろ見えてしまい、これ以上人を嫌いになりたくない、と思ったからだった。

 Instagramも同時にやめてしまいたかったけれど、海外で暮らす友人知人と気軽に連絡を取り合える手段を1つ残しておきたいと思い、こちらは続けることにした。文章より写真がメインだし、趣味趣向の合う見知らぬ人をフォローしたり、逆にフォローされたりしても大きな負担を感じない点が良かった。ただ、最近は広告が増えたり、おすすめとして見知らぬ人の投稿がたくさん出てくるようになり、フォローしている人たちの投稿が見えづらくなってきたのが残念で。

 Twitterは韓国に移住してから、辻仁成さんが毎日更新している滞仏日記を読みたくて使い始めたのだが、こちらもInstagramと同じく、フォローしていない人のつぶやきや広告がたくさん上がってくる。ミュートか何か知らないが、ひとつずつ設定してすっきりさせても、忘れた頃にまた見知らぬ人のつぶやきで埋め尽くされる。人をフォローすればするほどTwitterのタイムラインが情報であふれかえるので、できるだけフォローする人を少なくしてきたものの、300人もフォローしてないのに毎日情報の波がすごい。そして、見えない誰かにコントロールされている感じがして恐ろしい。

 「ああ、やっぱりもうスパッとやめてしまおう!」と思うのは、だいたい月のものが訪れた時だ。身体が辛いので、心が大きく揺れる。だけどスパッとやめられないのは、SNSを通じて出会えた人たちが何人もいたから。そして、今全部やめてしまったら、これから出会えるかもしれない人たちとの縁も自ら捨ててしまうことになるのかな、と思うからだ。

 産後、孤独で辛かった時の愚痴ツイートに励ましの言葉を寄せてくれた人がいたり、読みたかった本の名をつぶやいたら送ってくださった方がいたり。産後やコロナ禍や子どもの病気などで、家からほとんど出られない日が何か月も続いて苦しかった時、スマホの小さな窓から世界の様子を知ることができるのは、本当に、心の救いだった。自分のつぶやきが誰かの役に立ったと思えた時や、書いた文章を多くの人に読んでもらえて感想までいただけた時は、嬉しくもあった。それでも不定期に「SNSをやめたい」という気持ちが募るのはなぜだろう?

 私のリアルな友人(主に学生時代に知り合った友)の多くは、SNSをマメに更新する人たちではない。登録したもののやっていない、1年に数回も更新しない、登録すらしていない、という人もいる。そんな友人たちの間で、私はたぶん「SNSをよく更新している人」と思われていたことだろう。私は時々、SNSをさほど必要としていない友人たちをうらやましく思った。私がスマホを握りしめ、誰かの投稿に見入っているその時間に、彼女や彼たちは自分がやるべきことに没頭し、自分自身や目の前の人に集中し、生きている。彼らは、私の脳が誰かの言葉で埋め尽くされ、感情が揺れ動いて一喜一憂している時間を自分のために費やしている。

 SNSと適度な距離を保ち、うまく使える人はずっと続けたらいいと思う。でも私のように「なんかもう脳が疲れてしまったようで…」という人は、どうしたらいいのだろうか。意識的にログアウトしたり、時間を決めて見たり、いろいろ試してはみたけれど、やっぱりまた元の世界に戻ってしまう。(要は私が、ただ不器用な人間だっていうことを自白しているだけの話なんだけど)

 日々情報があふれかえっている世の中で、自分が書いたものが誰かの目にとまったり、必要な人のもとに届けられる機会というのは、そう多くない。だからこそTwitterをはじめとするSNSは、自分の存在をアピールする良いツールなんだと思う。多くの人に「いいね!」されたりフォローされれば、それだけ注目されることになり、伝えたいことを伝えられる機会もぐっと増えていく。

 でも、そんな時代の流れと対極に向かって生きていきたいと思うことが、時々あるのだ。打ちあがっては消えていく花火のようにではなく、いつまでも、何百年たっても誰かの心を打つ作品を生み出していきたいという欲求。そのためにはやっぱり、SNSがもたらしてくれるいろんな恩恵に背を向けて、自分のことに集中する時間を持たなければならない、と。

 だから、もう少ししたらSNSを一切やめるか、整理して必要最小限の使用にしていくつもりでいる。時代に逆行しているかもしれないけれど、私にはやっぱり、それが合っていると思うから。

 


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