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物語という神が殺される現場を映画館で目撃できる「大怪獣のあとしまつ」

デビルマン再臨なの?

映画館で予告編を見た段階では、「シン・ゴジラの後では、ちょっとひねりを加えないと、特撮モノも制作OKが出ないのかな~」程度に思っていました。

「よっぽど評判にならなかれば、見ることはないだろうなぁ」くらいの気持ちだったのですが、映画が公開されると、巷では、「令和のデビルマン」とまで言われる状況。

「デビルマン」と言えば、湯浅政明監督のアニメ版「DEVILMAN crybaby」(2018年)が傑作と名高いです。

それをもってしも、「デビルマン」の映像と言えば、最初に思い浮かべるのは、2004年の実写版「DEVILMAN」なんですね。
(wiki「デビルマン (映画) 評価とその背景」)

CGアニメ「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」でも、そこまで言われなかったことを思えば、「こりゃ、見なくては」と、俄然興味がわいてきて、映画館に行ってきました。

カオス

さて、ネタバレは極力なしで書かせてもらいます。

謎の巨大生物「大怪獣」が暴れ回って、人間の通常兵器では全く歯が立たなかったものの、謎の光によって、どうしてか倒すことが出来た後の日本が舞台。

安全な生活が戻っては来たが、巨大な死体が残っている。
これを、どうやって処理したものか? というのが、物語の骨子。

いろんな要素が詰め込まれた作品ですが、

  • 指導者である政治家たちの思惑

  • 実務を担う国防軍と特務隊という、2つの暴力装置の反目

  • 主人公(元カレ)とヒロイン(元カノ)、ヒロインの夫という三角関係

この三点が絡み合って、お話は進んでいきます。

政治家パートは、「シン・ゴジラ」、国防軍と特務隊の対立は、「人狼 JIN-ROH」を思い起こさせますし、また、「巨大な災害後の世界で、後始末の物語」というのは、現在も連載中の浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(以下「デデデ」)があって、大怪獣のバトルではなく、その後を描くというのは、トリッキーなようで、要素だけ抜き出してみると、決して「ぶっ飛んでいる」わけではなかったりします。

そもそも、「シン・ゴジラ」にしても、「デデデ」にしても、原発事故後を下敷きにつくられた物語であり、今作「大怪獣のあとしまつ」にしても、その影響下にあるわけで、制作陣が、どこまで既存の作品を参考にしたのか分かりませんが、どこかで似てしまうのは、当然と言えば当然なんでしょうね。

「シン・ゴジラ」が災害処理に成功した有能な政権が描かれていたのに対して、「大怪獣のあとしまつ」は、有効打を放てないまま、どうしてか災害は収まったけど、その後も右往左往するしかない無能な政権となっており、「政治風刺」の意図は明確。

作中において環境大臣である蓮佛 紗百合(れんぶつ さゆり)は、蓮舫議員(と小池百合子知事)から、首相である西大立目 完(にしおおたちめ かん)は、菅直人から取られた名前であることからも、当時の民主党政権への批判がメインで込められているのでしょうが・・・・・・。

「ポリティカルコメディ」となれば、最近では、「ドント・ルック・アップ」があり、非常に切っ先鋭い風刺になっていましたが、「大怪獣のあとしまつ」については、「コメディ」というよりは、「コント」という感じで、脱力系、かつ、ゆるい。
単に政治家を低劣・幼稚に描くことが多く、笑いのツボなんて、個々それぞれなんでしょうが、人を選ぶタイプのギャグばかりで、政治への風刺やアイロニー、揶揄としては弱かった気がします。

一方で、「国防軍と特務隊の対立」や、「主人公とヒロイン、その旦那の三角関係」は、ポリティカルサスペンスでシリアス調となっており、政治家パートとの落差が大きく、作品全体のトーンに不統一感を与える一因になっていたと思われます。

神殺し

他にも、いろいろと思うところはありつつも、あんまり書くとネタバレになるので伏せます。

全ての映画のいいところは、名作だろうと駄作だろうと、待っていれば終わるところ。
「大怪獣のあとしまつ」も最後の最後、「そろそろ終わるなぁ」と漠然と眺めていたところ、まさかの大どんでん返し。

確かに伏線は、ちゃんとありました。それは事実。
でも、その伏線を、そっちの方向に膨らませてしまうと、「この二時間は、なんだったの?」と唖然とさせられる解決方法。

物語の神様がいるなら、その弑逆の瞬間、神殺しの現場を見た思いでした。

そして始まるエンドロール。
圧倒的な衝撃に打ちのめされているところで、さらなる製作者側の悪ノリという死体蹴りを食らい、テレビや配信だったら、途中で脱落していた可能性が高く、映画館で映画を見たからこそ、この体験ができたんだ、これぞシネマ・エクスペリエンスと痛感すること仕切りでした。

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