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連載小説:生まれる前の記憶

初めまして、ここで出会うすべての人々にこんにちは。僕は生まれてほやほやだけれど、昔のこともなんとなく覚えている。蛙だった時は、空を見つめることはなかった。曇りだらけで、雨粒がぶつかってきて目が開けられなかったんだ。だからうつむくことが、いつの間にか癖になっていたんだ。ある日は商店の一角に置かれていたドイツの木彫り人形だった。糸の通りに動く機能と木の材質が好きだと言われて買われていったけど、もし糸が絡まったり、木が虫に喰われたらどうしようって、ちっとも嬉しくなかった。またある時は、駅に一人しかいない鉄道員だったこともある。美しい女性や団体客の賑やかな様子を傍観することもあったが、自分の居場所をプラットフォームと定めていたから、ついに街から出ることはなかったんだ。どの人生を歩んでも、疲れたり、寒くなったり、壊れたりして最後には心臓が動かなくなった。そんでまた目が覚めて、「ああ、やり直しか」とうんざりした想いが重なっていったんだ。新生児なのにむすっとした人たちがいたら、それはきっと僕と同じで過去の人生を覚えている人たちなんだね、ってみんなちゃんと気づいて、ね。(続く)


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