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無口な歌詞

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あの日から、やめられない作詞。 歌い出してくれたら嬉しいのに。
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2020年2月の記事一覧

ごみとゆめ

はじまりは
ポケットの中の紙屑を
捨てたところからで
譬えばよく来ていた公園の
小さなグラウンドにある
フェンスの隙間の抜け穴を見て
また通り抜けたくなったとか
.
置き去りにしていたつもりはないけれど
一緒にここまで来たつもりもなくて
一人の僕は戸惑っている
.
注釈のない難しい本のよう
.
捨てる
から拾うの
順番はいつも変わらない
好きなものから食べてしまって
残った苦手なものが
今になって

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「 I too love you 」

アースカラーの外套を
春になりきれない風が煽る
何となくただ歩きづらいのは
もっと他に理由があるのに
言い訳にするには持って来いの夜
.
言葉にしたそばから
吹き飛ばされて遠くへ
だから誰の耳にも届かない
.
ありふれた愛を独り言つ
色の薄れた部屋の隅に
昨日のそれらが転がっている
嫌がられるくらい
言っておけばよかったなんて
恰好悪い後悔をする前に
後出しじゃん拳だとしても
まだ間に合うのならば

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海へ行きたくなったのは

あたしは弱い
だから中途半端に髪を伸ばす
あたしは弱い
だから中途半端に髪を切る
.
脈絡もなくただ唐突に
海へ行きたくなったのは
.
帰りたいと
細胞の中から囁く声が
空耳にしては
やけにはっきりと
そう聴こえたなんて言ったら
真面目に笑われるかな
.
.
あたしは弱い
だから中途半端に髪を染める
あたしは弱い
だから中途半端に髪を結う
.
きっかけもなくまたのうのうと
ここで泣いてしまったのは

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ヒヤシンス

特殊な夢を
歪なその形を
保ったまま
明日の朝陽に透かせば
見えそうな気がした
.
徒然の中
忙しそうにした欠伸
きっと独り言
.
大きな空には大きな雲が
小さな町には小さな屋根が
似合ってしまう事を何と言うのか
うつらうつら漕いだ舟が
運んだ岸辺に咲くヒヤシンス
いつかの窓辺にもあったような
.
.
不滅な愛を
不気味なその視線を
貰ったまま
逆に心を明かせば
訊けそうな気がした
.
徒然の側

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DVDにはならない映画

DVDにはならなかった
そんな映画がある
と言うよりも
そんな映画ばかりだ
.
そもそも
そんなつもりで
作られたものでもないから
当然であって
とやかく言うあれもない
.
でも淋しいような
ただ空しいような
声がたまに洩れ出る
.
誰かのファインダー越しのあなた
想像だけでは観られない
そんな顔がそこにはあるのだろうか
あなたのファインダー越しの誰か
想像だけでは叶わない
そんな日々が確かにある

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頭痛

都合よく頭痛になる
気の利く体だなと
たまに感心する
.
薬には頼らずに踏ん張る
誰と競っている訳でもないのに
.
判り易い生き方が
邪魔をするのは今だけか
もっと初めから知っていた
そんなことじゃないのか
笑っているのは僕だけか
.
.
都合よく頭痛は去る
目出度い体だなと
ついに嘆息する
.
理由など求めずに振り切る
何を気負っている訳でもないのに
.
混ざり易い色彩が
派手になるのは今だけか

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いいから

聴こえなくていいから
どうか届いてくれ
震えなくていいから
どうか届いてくれ
下手くそなまんまの
僕らの音楽
.
鳴り止まなかった呟きを拾って
紐を通しただけのビーズのネックレス
歪に光を跳ね返すくらい
.
流れ去る景色ばかりに気を取られていたら
肝心なものまで見逃してしまいそうだ
.
聴こえなくていいから
どうか届いてくれ
震えなくていいから
どうか届いてくれ
下手くそなまんまの
僕らの音楽
.

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間だけ

昨夜のうちに敷かれた白い絨毯の上を
愉しげな声の持ち主たちが
好き勝手自由に踏みつけていけば
汚くなったとしても何だか綺麗
.
午後には溶けてなくなる
名残り惜しい口の中のキャンディだったら
またもう一つと入れればいいけれど
.
.
冷めないうちに出された熱い珈琲の底で
朧げな夢の端々たちが
澱のように溜まり塊になれば
重たくなったところでやっぱり苦い
.
醒めれば恥ずかしくなる
心淋しい夜の折に

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少年時代

週刊少年ジャンプの
発売日だったから確か月曜日
物珍しかったのか
虹でも見つけた時のように
誰もが空を見上げている
.
ほんの十数分とは言え
この町にとって
この冬初めての雪
.
思い出したり
思い出に残したり
窓から覗いたり
表へ出てきたり
あの瞬間は誰もが子どもに
戻ったように見えた
少なくとも私はその一人
.
.
週刊少年ジャンプの
巻末に載っていた派手な広告が
忘れられなかったのは
星でも

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driver

二日目の雨
たったそれだけのことで
簡単に心が揺れ
目の前の彩度が下がる
.
多分今までだったら
ここで私は気を落とし
晴れた日を懐かしむだけ
.
大人になったとは言えないが
気持ちの運転は上手くなったと思える
まだ遠くへまでは行けないけれど
景色が変わるくらいの
ちょっとしたドライブに
今なら難なく出掛けられる
.
.
四日目の雨
なのにそれだけのことで
往々にして気は逸れ
一昨日の景色も霞む

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勇気の利子

一旦立ち止まると
次にまた立ち上がるのに
前よりも大きな
勇気が必要になる
.
横断歩道の信号のように
止まれと進めを
知らせても促してもくれない
.
あからさまな不機嫌が
心を支配する日は
合言葉のように
自分に言い聞かせる
無理をするべき時を知っているのなら
無理に無理をしなくてもいいよ
また始めればいいから
.
.
再び立ち上がると
次にまた立ち止まるのに
前よりも大きな
勇気が必要になる

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チョコレイト

恋の中にも
こんな甘さが
あったなんてことを
思い出そうにも
チョコレイト
.
.
季節よりも気分次第で
選びたくなるもの
.
人肌でさえ溶けてしまう
.
嘘の中には
やけに苦さが
多いなんてことに
気づいたところで
チョコレイト
.
夢の中にも
こんな甘さが
欲しいなんてことを
気づかせようとも
チョコレイト
.
.
成果よりも経過次第で
望みたくなるもの
.
優しさでさえ怖じてしまう
.
嘘の

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クーポン

期限切れのクーポンが
こんなにぼろぼろになっても
財布の中で眠っているのは
捨てられないからでもなくて
お守りにしていたから
.
はっきりと日付を
思い出せないくらい前の
初恋に近い記憶
.
丁度その期限の日が
二人で逢う最後の日になった
ドラマのようには
終われなかったけれど
今でも時々思い返す
平静を取り戻した朝のファミレス
ドリンクバーで烏龍茶ばかり飲む人
.
.
期限切れのクーポンは
こん

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花筏

どうして何事も
淋しさを感じるくらいの
散り際が美しいと
思ってしまうのだろう
.
花の色に透けて見えた夕焼け
遠くから聴こえる懐かしいメロディ
条件が揃えばこんなにも
簡単に涙は止まらなくなる
.
ショートフィルムの尺の走馬灯が
秒速五センチメートルで流れる
.
手を振る君もスローモーション
時空の歪んだ永遠の一瞬
私は今笑っているでしょうか
それとも泣き噦っているでしょうか
君の瞳に私を捜すけ

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