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『吾輩は猫である』は時代が違えば異世界転生ものになっていたかもしれない

小説のタイトルは本の顔である。

一見すると「どんな内容の本」なのかわからないが読み終えてからそのタイトルの意味を知ることとなる。しかし、これには重大な欠点がある。「買って中身読むまで内容がわからない」ことだ。映画はトレーラーで内容は把握できるし、マンガも1話を無料配信していることが多く試し読みが可能だ。アニメやドラマはもちろんテレビで流れている以上、無料で視聴できる。しかし、小説にはそれがないのである。ある程度書店で立ち読みという形でパラパラと試し読みはできるかもしれないが、大体はフィルム梱包がされていて容易に中身までは確認できないだろう。

ビジネス書や自己啓発本はある程度中身がわかるようなタイトルになっているが、小説でそれがわかるかというとなかなか難しい。書店で小説を買うとき、今や2000円近くする単行本を買うとき、なかなかのギャンブルだ。「もし面白くなかったらどうしよう」という不安が脳裏にチラつく。タイトルで惹かれても、中身まで面白いかどうかわからない。帯やお店のPOPといった少ない情報で判断するしかない。この世のフィクション作品を「タイトルからは想像できない」状態で買うというのは、恐ろしく商品としての欠陥を抱えているのではないだろうか。

食料品だってそうだ。「モンドセレクション金賞受賞!」と謳っていても、これではまるっきりどういう味なのかという説明がない。実際に買って口に運ぶまでどういう味がする商品なのかわからずに買うという現象が起こる。ましてや「一度も食べたことのない食品の味」を消費者に想像させるのは難しい。この状況を書店でたとえると「初めて読む作家さんの小説を買う」ときと一緒である。

又吉直樹『火花』は「売れない芸人2人のお笑い哲学話」だし、宇佐美りん『推し、燃ゆ』は「ただひたすら好きなアイドルの話をしてる女子高生の話」だし、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』のメインの内容が「虐待」だなんて誰が想像できただろうか。タイトルからこんな内容の話だったなんてわかるはずがないだろう。

こういったところが小説へのとっつきにくさだと感じる。その点ライトノベルは超えらい。長めのタイトルでビシッと内容を伝えようとしてくる。

(以下、例である)

・『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』
・『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』
・『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』
・『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』
・『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する ~レベルアップは人生を変えた~』

作品の起承転結の「起承」までをタイトルにギッチギチに詰め込んでる感じ、すごい。こういうタイトルが人気を博すのも頷ける。

夏目漱石『吾輩は猫である』は「猫が主人公」であることしかわからないので、↑の法則に則れば『転生したら猫になった件』でもいいわけだし、芥川龍之介『羅生門』は『平安京に行ってみたらおばあさんが髪の毛をむしり取っていた話』でもいい。

本来、小説のタイトルは

・物語の主要人物がタイトルになる例
ex) 『六人の嘘つきな大学生』『medium霊媒探偵城塚翡翠』『村上海賊の娘』など

・作品の舞台となる場所とする例
ex)『お探し物は図書館まで』『ツバキ文具店』『黒牢城』『黒い家』『阪急電車』『マスカレード・ホテル』『十角館の殺人』など

と、本来作品の主題を成すものでる。『吾輩は猫である』も「猫の視点から見た人間というもの」であり、『羅生門』も荒廃した平安京を舞台にした人間のエゴイストな部分を描いているためにこのようなタイトルになるのも必然である。

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