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シャトレーゼでストレスをぶっ飛ばせ

 ストレスの発散方法は人それぞれだ。眠ったり、身体を動かしたり、友人と遊んだり。人々は自分なりの発散方法をみつけ、現代社会を上手く渡り歩くわけだが、ついぞ見つけられない人もいる。そうなってしまったら、外に散らすことも出来ない。積もりに積もった精神的な重圧は心身を蝕み、生活を脅かすだけだ。心を病むとは結局のところ、ストレスを自分に向けることしかできなくなってしまった状態なのかもしれない。

 何かを失うことはストレスの種にもなるし、同時に除草剤にもなる。例を挙げると、恋人と別れることは前者であり、大枚をはたいてブランド物を大量に買うことは後者である。この所謂爆買いという行動は往々にして悪いイメージを植え付けられているが、発散方法が無いよりもずっといい。ストレスを下取りに出せるのであれば、かなりお得な買い物だと思う。実質ゼロ円でバッグが貰えると言っても過言ではないのだ。
 関連するストレス発散方法で言えば、爆食いだって別に悪い事じゃない。便と共にストレスが排出出来ると考えると、少しくらい腹に肉が付いたところで知ったことではない。体の健康を阻害していると指摘されても、そもそも目的が違う。当人からしたら爆食いは心の健康を保つため行われる儀式なので、何かを得ることは同時に何かを失うことであるという、質量保存の法則を無視した暴論は無視されて然るべき戯言であるのは言わずもがなだろう。
 とにかく、私は「ストレスを発散する」という目的が達成できるのであれば、(他人の自由や権利を不当に侵害しない限り)どんなものでも良いと思っている。後ろめたさを感じる気持ちも分かるが、副作用まで考慮してしまうと、どうしても目的が疎かになってしまう。それではいけない。何かを失ってでも、可及的速やかにストレスを打ち消さなければならない。
 以上が、私が私のために考えた言い訳である。自分の行動に如何に正当性を付与できるか、ということもストレスを発散するために必要なスキルであるように感じる(これもまた言い訳だが)。

 私のストレス発散方法はもっぱらシャトレーゼだ。シャトレーゼが最高すぎることは全ての人間が知っていることと思うが、ここで改めてしたためることにする。
 シャトレーゼとは、国内に約540店舗ある和洋菓子店である。ケーキからどら焼きまで、それはもう様々な菓子が売られている。そして何より安い。体感であるが、一般的な価格の半額程で菓子が買える。シャトレーゼが言うには「卵や牛乳などの新鮮素材を契約農場から自社工場で直接仕入れてお菓子を作っています」とのことだが、本当かどうか怪しい。屈強な男を集め、個人で細々と農場を経営している老夫婦を脅していてもおかしくない。一応念押ししておくが、私はそんなシャトレーゼが大好きだ。

 シャトレーゼは、有名銘菓のジェネリック的な商品も豊富だ。私のお気に入りは、「博多通りもん」を食べているのではないかと錯覚するほど似ているミルクまんじゅう「マーマー」である。しっとりと柔らかい食感で、一口齧ればバターやミルクの優しい味わいがじんわりと溶けていく感覚がたまらなく美味しい。これまでは博多まで行くかお土産で貰うかしないと味わえなかったこの感覚を、シャトレーゼは見事に表現している。しかも一個130円と手ごろで、全くスキを見せない。完璧とは正に「マーマー」のことをいうのだろう。恐れ入谷の鬼子母神。
 六花亭の「マルセイレーズンバターサンド」に酷似した「シャトー・レザン」も美味しすぎる。しっとりぽってりとしたサブレ生地に、こっくりとしたバター・クリームと大人の香り漂うラムレーズンが挟まれており、素晴らしい出来である。それと、「シャトー・レザン」という名前もいい。シャトレーゼの表記が「CHATERAISE」であるのに対し、この菓子は「CHATEAU RAISIN」。ほぼシャトレーゼだ。シャトレーゼの看板を一人で担い、先頭に立っている菓子だ。美味くないわけがない。そして、買わないわけもない。

 私は仕事が早く終わった日はシャトレーゼに寄り、値段を見ずに思うがままカゴに菓子を入れまくる。最中を入れ、ダックワーズを入れ、ワッフルを入れ、プリンを入れ、フィナンシェを入れ、まんじゅうを入れる。それだけ買っても、会計は千円程度。なんと素晴らしいことだろうか。金を払う時、私のストレスは花火のように美しく飛散する。

 購買欲と食欲の汚いサラブレッドをシャトレーゼは受け止め、そっと私を社会に送り出す。ストレスで嫌になってしまったとき、是非シャトレーゼに立ち寄ってみて欲しい。辛くて立ち直れない時も、悔しさの雨に濡れた時も、シャトレーゼへの扉は絶対に開いているはずだ。



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