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クァシンとアイの冒険

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設定をフリー素材にしました。 キャラも世界観も自由に使ってください。 どんな形式でも大歓迎です。 小説でも詩でも音楽でも絵でも良いです。 #ワールドザワールド
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#小説

25 WDC・・・Worldtheworld Dog Community[ワールドザワールド犬共同体]

 午前11時。  おにぎり雲が西の山に浮かぶころ。  ドギー村の空き地には、張りつめるような血の色の風が吹きました。  人の生活する不条理な音は遠く、ここにはただ虫の身をくねる音と、それを狙うネズミの髭の音だけがピリリと結びつきます。  村と荒野の中間地。  人と野生のちょうど真ん中。  犬たちは、かつての失われた時間を讃えてここへ集まります。  およそ50以上集まったでしょう。犬たちは、互いにウゥとかクゥンとかバフンとか言いながら、顔を合わせては頭を下げたり、尻を嗅ぎ合

24 短歌集「女神たちはたらく」

__新月、曲がったノートを閉じる家庭教師の解読不能な提案。  チョークを置く音は乾いていてまるで一つの木管楽器が間違って鳴ったみたいな嬉しさがある。アイはノートに答えを書いた。三角の女神に連立方程式を教わっているのである。  三角の女神はアイの隣に腰を下ろし、机に肘をついて自分が書いたばかりの板書を眺め、「ふーん」とバネが緩んだびっくり箱みたいに首を揺らしながら後ろに大きくもたれた。下唇を突きだしてアイのノートを見る。 「よくできてるじゃん」 「数学だけは」とアイは鼻でシュ

22 天女の服

 天の神聖に対する無垢なる人間の最初の罪深き叛逆、 やがて空想なる地上世界を、緋く泡立つまで、底から 掻き雑ぜることになる、宿命の、筋書きの冒頭 ああ、何と悲しき存在か。その身をもって、人間の悲哀を 孤独と、無秩序な運命を、神と隔たる無限の壁を、 かつては永遠の果実とされた空気を、苦いものにしてまで、 甘いものを求めて生きる現存在の悲哀の物語を、 世俗の詩聖に歌えなかった歌の姿を、 彼は一人その身に背負って、足を挫きながら演じるのである イロニー的存在たる彼は、夕陽を望みつつ

21 アイの長い一日

その日のアイにはすることがなかったから、いつも通り規則正しく朝早くに起きたけれども何をするでもなく寝転んだまま目を開けて、天井を見ているとウサギがお腹にポンっと勢いよく乗ってきたことがきっかけで、そう、何かの弾みで心の中の世界にふっと風が吹くことはよくあるけれど、アイは今まで妄想なんてそうそうする性格ではなかったのに、この日ばかりは妄想というものが頭の中いっぱいに、それもぼんやりとではなく、明確に輪郭を持って立ち現れてきたのだが、その妄想というのは、あの路地に関することで、こ

19 バナナの道

 クァシンはいろんな種類の花を紙に描き写して歩いていました。  町には一川と呼ばれる川が通っていますが、その一川に沿って南下しているのです。黄色い小さな花や、赤い茎の太い花など、探してみるといくつもありました。  昼を過ぎた頃でしょうか、風車のついた赤い家を見つけました。  川辺にポツンとある家です。  クァシンには気になって訪ねてみることにしました。  中にいたのは眼鏡をかけ、白衣をまとったた恐竜でした。三本、ツノが生えています。彼は「トリケラ」だと名乗りました。クァシ

17 氷を売ろう

 キヨミズは遠くを眺めた。  ワールドザワールドの北西にあるフジ山にのしかかるように作られた日本風の豪邸は南向きで、いつも威厳を輝かせている。キヨミズ城と呼ばれているこの建物には城主であるキヨミズと息子とその妹そしてそのほかの大量の使用人が共に暮らしている。  キヨミズさん、あるいはキヨさん、殿などと呼ばれているここの城主は、町をコントロールする役割をおっている。城からは町が終わるまで全ての景色が一望できる。  彼が困っていたのは、その町の市場のことだった。  町ではカラス

16 誰の家?

 ある時、アイが「今日は疲れたな。アイルームに帰ってぐっすり寝よう」と、巨大樹のところまで帰ってくると、自分の場所であるはずのその部屋に、ハイラックスが三匹、耳を垂らしてくつろいでいました。 「ちょっと、勝手になにしてるの。ここは僕の部屋だよ」 「違うね」ハイラックスの中でも一番小さいのが言った。「もうおれらの部屋だ」 「違うわけないよ。ここは僕の部屋で、知らない人が勝手に住んでいい場所じゃない」 「しかし、これを見ろ」そう言ってハイラックスが取り出したのは権利書でし

15 アイの何気ない一日

5:30 この日、アイは自分でもびっくりするくらい、早起きした。 しかも、二度寝ができないくらい目がはっきりとしている。 することがない。 とりあえず、お腹が空いているので、冷蔵庫の中を見た。 パンケーキを作って、その上に目玉焼きとベーコンを乗せることにする。リンゴジュースもあと一杯分残ってるし、最高の朝食ができそう。 6:45 朝食を食べたあと、溜まっていた食器を洗った。 今日は家事の手伝いにタニシの女神が来てくれる予定だったが、おかげでほめられそう。片付いてゆく感覚にや

12 花嫁の歌

 花ムコと花ヨメは笑顔でその様子を見守りました。二人の両親が互いに握手をたのです。  ようやく和解することができました。ようやく分かってもらえました。花ムコは花ヨメの両親に理解してもらえたし、花ヨメも花ムコの両親に理解してもらえたのです。  晴れて結ばれた二人。  花ムコ、花ヨメはアイとクァシンに感謝をしてもしきれません。 「君たちのおかげで僕らは結ばれることになったよ、本当にありがとう」 「わたしたち、あなたたち二人への感謝を絶対に忘れないわ」  手を繋いだ花ムコと花ヨ

11 鶴

 むかしむかし、あるところに、こじんまりとした家に住んだ、質屋を商うお金もちなお爺さんがいました。  お爺さんは、妻も子どもも出来ませんでしたので、その寂しさを紛らわすためにと、一匹の鶴を飼っていたのです。  たいそう白くてそれにどの羽も油を塗ったようにキラキラしていて、何十羽の鶴が同時に空を舞ったとしても、その鶴だけは見つけることができるというほど美しく育ちました。  お爺さんはその鶴のためなら、なんでもしました。  鶴が腹を減らしているように見ると、急いで外へ出て魚を

10 胃ネズミ

「あははは。あははは」 「なにが面白いの」 「この漫画。見てここ、食べたもの全部吐いてるんだ。食べ過ぎだよね」 「なにこれ、汚い。アイ、漫画もいいけど、ちゃんと勉強しないとダメよ。いい、あなたのために言ってるんだからね。じゃあ、わたしはちょっと仕事で呼ばれてるから。ちゃんと勉強しなさいよー」  そう言い残して、ワールドザワールドの女神はアイの部屋を後にしました。  次なる仕事へむかうのです。  しかし彼女のおかげでアイの部屋はずいぶん片付きましたでしょう。見てください

9 異世界転生

「煙なわけないよ。煙の上に乗れないじゃん」 「雲の上にも乗れないんだよ」 「でも煙じゃなかったよ。雲の形だった」  アイとクァシンは巨大樹から北へ北へと進み、山の中へ分け入った森の中。  木々の間を右に左に探し物をしています。アイが目撃したと言う噂の『魔法の雲』を探しているのです。  魔法の雲とは、上に乗って移動することのできる小さな雲のことで、誰もその存在を本当にはしていなかったのですが、アイはリスが何匹かそれに乗っているのをこの山の森の中で目撃したと主張しています

8 ヒサギの憂鬱

 アイはとあるお屋敷に呼ばれました。というのも、ここ数日、この家の一人娘ヒサギが寝込んでしまって、親御さんは心配に心配を重ねて、色々と原因を尋ねるのですが、何を聞いても首を振るばかりでその理由がわからず、困っているというのです。  アイとクァシンはお屋敷に向かいました。  二人は予想以上に訪問を喜ばれ、そのままヒサギの部屋に通されたのです。  話の通り、ヒサギはベッドに横になって、肩まで布団をかけていました。 「どうしたの」  アイが聞くと、ヒサギは案外あっさりと答えま

7 超絶マリ夫兄妹!?

アイの部屋に紙芝居フェレットがやってきました。 紙芝居フェレットはたくさんいて、ワールドザワールドの町や村にそれぞれ派遣されます。筆の女神の家から遣わされるわけです。 それで筆の女神は、特殊電波意識という特有の技を使って散らばった全部のフェレットを同時に操るのです。神憑り的に筆の女神の電波意識を受信したフェレットは筆の女神に同期して、同時に口を動かし、筆の女神の声を出します。それに合わせて、さらさらと紙をめくってゆくのです。 アイはあぐらをかいて、その上にうさぎを座らせ